衝撃! 隣の昼ご飯
「さあ、お上がりになって」
「お、お邪魔します……」
早月がおっかなびっくりに玄関に上がった。
うん、気持ちはわかるよ。そこらの高そうな家具壊したら怖いもんね。
「塚原さん……でしたかしら? そんなに緊張なさらなくてもよろしいのに」
「は、はひ!」
噛んだ。めっちゃ緊張してるね。
「わーっ! なんじゃあこりゃあ!?」
一方で千秋は、まるで博物館に連れてこられた子どもみたくはしゃいでいた。
おい、やめろ。物壊したら弁償するの父さんと母さんなんだからな?
「ふふ、そんなに喜んでいただけてはセレブ冥利に尽きますわ」
「金持ち鼻にかけて、中条さんって嫌味な性格だねー」
という、茜の方が嫌味っぽいんだけど。
「あら、平民の僻みは見苦しいですわね。気分が悪くなったので夏彦さんでリフレッシュしようかしら」
愛歌が腕に抱きついてくる。
俺はヒーリングスポットかなにかですか?
「ちょっとなに夏彦くんにくっついてんの! さっさと離れて!」
「ふふふ。平民風情がなにか喚いているようですが放っておきましょうか。さ、夏彦さん。リビングはこちらですわ」
「むきーっ!」
愛歌の飄々とした態度に、茜は歯をむき出して怒っている。
どうでもいいけど、俺を挟んで睨み合わないでくれない?
すげー居心地悪いです。
リビング……に案内されるともっとすごかった。
「玄関の時点でも結構すごかったけど……あれはさすがに……改めて住んでる世界が違うと実感するよ」
夏穂が感嘆するのも無理はない。
なにせ、部屋に案内されてまず最初に飛び込んだのは……骨。
四足歩行の、動物の骨。
「愛歌……あれはなんだ」
「驚きました? ずばり、虎の骨格標本ですわ!」
「驚くわ! 普通の家に骨格標本なんてないもん!」
「すげー! かっけえええ! お兄ちゃん、私も家に骨格標本欲しい!」
「目を覚ませ千秋! 普通の女子高校生は虎の骨格標本に興奮しない!」
ひょっとして俺の妹はバカなのか?
バカだけど。
「えっ!? そうなんですか?」
虎の骨格標本をキラキラとした眼で見ていた早月が驚いた。
早月、お前もか。
え、なに? 俺がおかしいの?
「驚くのは構わないのですが……そろそろ勉強会をなさらなくて?」
「それもそうだなじゃあ――」
始めようか、と言う前にぐうぅーという音が鳴り響いた。
音の出処は……。
「あらあら」
「……な、なに?」
微笑みを浮かべる愛歌に、腹の虫を鳴らした茜が睨む。
「平民は空気も読めないみたいですわ」
「わ、悪かったね!」
「ま、いいですわ。もうすぐお昼のようですし、先にご飯にいたしましょう。はしたなく腹を鳴らす平民のためにも」
「くっ……」
茜はバツが悪いのか、反論はしなかった。
代わりに、悔しさに唇を噛んでいる。
「コールマン! 皆様にいつものを」
「はっ! 承知しました」
さて。
いつもの、というのは愛歌の普段の食事のことだろうか。
ということはさぞや高級で美味しい料理なのだろう。
未知なる美味に胸躍り、喉をごくりと鳴らしてしまった。
「ごっはんー、ごっはんー、セレブリティごっはんー」
千秋も楽しみなのか、わけのわからない歌を口ずさんでいた。
「会長令嬢の普段食……きっとすごいんでしょうね……」
「ふふ、存分に期待してくださいな。きっと驚きますわよ」
愛歌もこう言ってることだし、さぞ美味いんだろう。
どんどん期待が高まる。
トリュフか? キャビアか?
なんでもいいが早く食べたい。
想像だけで唾液が溢れそうだ。
そして、待たされること数分。
コールマンがワゴンを押しながら戻ってきた。
「お待たせいたしました」
え? さすがに早くない?
……あ、来ることはわかってんだし、きっと予め用意してたんだな。うん。
「さあ、召し上がれ」
「……えっと、なにこれ?」
……たしかに驚いた。目が飛び出てそのまま地面に落下するくらいには驚いた。
テーブルに配膳されたのは、人数分の米、生卵、そして醤油瓶。……以上。
「なにって……一目瞭然、卵かけご飯ですわ!」
いや、それはわかるよ。
だけど、え? 卵かけご飯?
これって中条財閥会長の娘さんが、いつも家で食べてる普通の昼ご飯だよね? 違ったっけ。
「あ、もしかしておかずがないの気にしていらっしゃるの? 心配なさらずともあとでちゃんと来ますわ」
「そういうことじゃねえから!」
「会長令嬢も卵かけご飯なんて俗っぽい料理……と言っていいかもわからない物食べるんですね」
早月、代弁ありがとう。
「もちろんですわ。好物ですもの。あ、でも当然普通の食材じゃありませんわ。ご飯、卵、醬油……全て最高級の物を使わせてますわ! その卵なんて一個600円もしますのよ」
「一個……ってパックのこと?」
「パック? 卵一個600円ですわ」
わお。
「ほら、ご飯が冷めてしまうから早く食べなさいな」
「い、いただきます……」
促されるままに食べ始め、完食した。
会長令嬢式卵かけご飯……美味かったような気もするが、味はよく覚えていない。




