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投げられたのは……?

「中間テストだよ、お兄ちゃん!」


 部屋でくつろいでいると、ノックもせずに千秋がドアを開けてきた。


「いつもノックはしろと言っているだろ」

「あ、そうだった。いやぁーうっかりうっかり」

「本当かよ。わざとやってるんじゃないだろうな」

「違うよ! ノックもなしにドア開けられたら、エロゲーやってる時にお兄ちゃん困るもんね! 私は見ても見られても気にしないけど!」

「お前こそ気にしろよ!」


 普通、年頃の女の子がエロゲーやってるなんて死んでも隠したいはずなんだけどなあ。

 それどころか、千秋は自分の友人にすら開けっぴろげにしているし。

 友達でいてくれる早月に感謝しろよ?


「しかし、もうテストの時期か。全然そんな気がしなかったよ」

「ダメだよお兄ちゃん、そんな心構えじゃ。シーザー風に言えば、『匙は投げられた』んだよ!」

「諦めてんじゃねえよ!」


 まだ始まってすらいないのに。


「え! 私なんか間違えた!?」

「お前が言いたいのは『賽は投げられたんだ』、だろ?」

「……え? サイ投げ飛ばすにはクレーン車でも使わないといけないんじゃない? シーザーの時代にそんなものあったと思えないし……うーん」

「唸ってるところ悪いが、賽は動物じゃなくてサイコロのことだから」

「え、そうなの? ったく、紛らわしいぜ」


 かなり有名な言葉だけど、それを知らないなんてテストは大丈夫か? ……って、世界史は二年からだっけ。

 こいつの場合日本史も怪しいけどな!


「で、どうしたよ」


 千秋がわざわざテストのことを教えに来る殊勝な妹とは思えない。

 といっても、千秋の用事は大方見当がついてるんだけど。


「勉強がまったくわかりません! 教えてくださいお兄様!」

「……お前の場合、『匙は投げられた』で正解だったな」


 とはいえ、俺もそんな頭いいわけではないから勉強のことで頼られても困る。


「神田にでも頼むか?」

「え、やだ。神田先輩ってやらしい目つきで私のこと見てくるんだもん」


 当然のように却下する千秋。

 哀れ、神田。


 しかし、神田の他に頼れそうなやつというと……。


 ***


「文乃、ちょっといいか?」


 千秋から相談を持ち掛けられた翌日。

 クラスメイトで勉強のできそうな人を考えてみたところ、文乃は真面目そうだし頭もいいんじゃないかと思い至った。


「なっ!? なに、一宮くん!」


 急に声を掛けたからか、文乃はびくっと肩を震わせた。


「そんな驚かなくても。ちょっとお願いしたいことが――」

「ごめん、ちょっと私用事思い出したからまた今度ね!」


 話を切り出す前に文乃はどっか行ってしまった。

 図書室での一件以来、どうにも避けられてる気がする。

 先に帰ってしまったのは悪かったけど、次の日に謝ったら気にしてない感じだったし……。


「でもやっぱ嫌われたのかなあ……?」

「――むしろその逆ですな」


 天井に張り付いてたのか、俺の隣に降り立ったコールマン。

 なんだかもう驚かなくなってきたな。

 教室にいた皆も茜のせいで耐性がついているのか、人が落下してきてもスルーしてるし。


「逆?」

「どうにも夏彦様と佐々木氏、図書室でいろいろとあったようですな。極限状態に置かれた男女二人……異性として意識するようになってもごく自然なことでありましょう」

「たしかにいろいろあったけど……なんであんたがそれを知ってるんだ」

「それはもちろん盗聴……おっと、失礼。機密事項でございます」

「ちょっと待て! 今盗聴って言ったよな!?」


 揃いもそろってなんなの?

 俺のプライバシーなんてあってないようなものなの?


「とにもかくにも、佐々木氏は夏彦様に恋心を抱いてしまったようですな」

「――つまり私の駆除対象が一人増えたってことだね!」


 コールマンと同じく、音もなく反対側に着地した茜が言う。

 挟まれてしまった。俺も忍者にならなきゃいけないの?

 ……ってコールマン執事だし。忍者じゃないし。


 しかし、文乃が俺のことを好いていようが、嫌っていようが、逃げられてしまっては誘えないことに変わりない。

 他にクラスメイトで成績良さそうな人といえば池尻さんくらいだけど、ほとんど話したことないし……。

 どうしたものだろうか。


「ずいぶん賑やかですわね。なんの話をしていたのかしら」


 頭を悩ませていると、騒ぎを聞きつけた愛歌が近寄ってきた。


「……中条愛歌!」


 茜が恨めしそうに反応する。

 俺を監禁したことに対して根に持ってるのかもしれないけど、茜も同じようなことしてたからね?


「これはお嬢様。実は夏彦様が妹の千秋様に勉強を教えてくれる人を探しているようでして」

「俺まだ一言も説明してないよね!?」


 なんで事情知ってんのさ。

 ……って、盗聴されてるんだった。

 もうやだ、人間怖い!


「あら、そうでしたの。でしたらわたくしにいい考えがありますわ!」


 と、愛歌は言う。

 でも愛歌よ。知ってか知らずかはわからないけど――それ死亡フラグだから!

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