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男女図書室監禁事件

 読書机と書棚を幾数往復。

 本の山は更地へと変わった。


「文乃」

「あ、終わった?」


 文乃は本を閉じると、カバンを背負った。


「じゃあもう帰ろうか」

「おう」


 先導する文乃に、俺はカルガモのごとく後に続いた。

 そして、図書室のドアを開けようとする文乃だが、何やら異変が。

 文乃はドアをガタガタと鳴らすが、開かれる様子はない。


 ……た、立て付けが悪いのかな?

 そんな俺の楽観的推測は、顔をこちらに向けて青ざめる文乃の表情を見てすぐさま違うとわかった。


「一宮くん、どうしよう……鍵、閉まってる」


 だと思ったよ。


「どれ、ちょっといいか」


 文乃にどいてもらい、俺もドアを動かしてみる。


「たしかに閉まってるな」

「ど、どうしよう」


 図書室のドアは内側からは鍵が開けられないという、極めて不可思議な構造をしている。

 設計ミスかよ。


 放課後になると生徒は部活にいそしみ、ほとんど図書室の近くの廊下を通ることはない。

 まさか明日になるまで閉じ込められたままなんだろうか……。


 いや待て、夏彦。

 そう悲観的になるものではない。

 こういう時こそ変態ストーカーの出番だ。


 一応千里眼で茜の居場所を確認してみる。

 ……って、あれいない。

 あ、そういえば今日は忍術教室の特別講師として呼ばれているとか文句言ってたっけ。

 つくづく使えねーなあいつは!


 他に脱出手段は……そうだ、電話で助けを呼ぼう。

 ポケットからスマホを取り出し、ダイヤルを……


「って、電源切れてんじゃねーかっ!」


 授業中にずっとソシャゲをやっていてバッテリー消耗してたのを忘れてたぜ。

 思わずスマホを地面に叩きつけた俺の肩に文乃が手を置いた。


「一宮くん、図書室では静かにしなきゃ」

「そんなこと言ってる場合かよ」


 というか、俺と文乃以外に誰もいないんだからよくね?

 ……男女二人きりで密室か。

 ――ごくり。


「――いてっ! なにするんだ!?」


 文乃がわりかし強く俺のすねを蹴ってくる。

 めっちゃ痛い。弁慶も泣くわ、こんなん。


「今変なこと考えてたでしょ……」


 文乃にジト目を向けられる。

 さっきからさとりですか、あなたは。


「まさか。俺は紳士中の紳士だぜ。今も脱出方法を考えてるのさ」

「どうだか……」

「そうだ、文乃が携帯で助けを呼べばいいんじゃないか?」

「それが、私携帯持ってないの」

「……教室に置いてきたのか?」

「じゃなくって、所有してないの」


 な、なんてアナログな!

 この情報化社会の現代において花の女子高生が携帯を持ってないなんて、絶滅寸前の希少種だ。


 って、驚いている場合じゃない。

 文乃も助けが呼べないとなるといよいよ困ったぞ。

 さて、どうしようか。


 窓からの脱出は……二階だから厳しそうだな。


「一宮くん、あそこはどうかな?」


 文乃の指差す先はドアの上に取り付けられた小窓だ。


「あー……そうだな」


 たしかに文乃の華奢きゃしゃな体なら出れそうではあるが。


「じゃあ私が試してみるから、一宮くんが下で台になってよ」

「えっと、別に俺はいいんだけど……」

「どうかしたの?」

「いや、文乃がいいならいいんだよ」


 俺は言われるがままに肩車の姿勢を取る。

 ただ、俺がしただと文乃が出ようとした途端、スカートの中が見えそうな気が……。


「なっ!?」


 肩に乗りかかった文乃が素っ頓狂な声を上げた。


「ど、どうした!?」

「下ろして! 早く!」

「は、はい!」


 なんだか尋常ではない様子に、慌てて文乃を下ろした。

 パンツ見れなくてちょっと残念だ。

 文乃はというと顔を赤くして、怒ってるのか照れてるのかよくわからない表情を浮かべている。

 その中間というべきか。


「一宮くん。今私のスカートの中見ようとしてたでしょ」

「な、ナンノコトカナー?」

「ごまかしてもダメ! 一宮くんったらえっちなんだから」

「そりゃあ男ですから」

「え!?」

「おい、なぜそこで驚く」


 ……男ですよ?


「いや、ごめんごめん。一宮くんもちゃんと女の子に興味あるんだなあって」

「……どういう意味ですか?」

「ほら、一宮くんって周りに可愛い子いっぱいいるでしょ? でも神田くんが彼女いないって言ってたからもしかしたらホモだったのかと」

「違うよ!? 俺の近くの女たちは顔がよくても、それを相殺するほどの性格の残念さだから」


 まともなのと言えば早月と文乃くらいか。

 そりゃあ俺だって彼女の一人や二人欲しいさ。……真人間の。


「そ、そうなんだ」


 文乃が苦笑いしする。


「ところでなんでそんなことを?」


 俺がホモだったところで文乃に影響は――あるのかな?


「さあ、どうしてだろうね」

「文乃は俺のことが好きだったり」

「そ、そんな! 違……わないのかな?」

「お前のことだろ」


 俺に聞かれても困るんですけど。


「うーん、でも今一宮くんの近くにいるとドキドキするかも?」

「吊り橋効果じゃない?」


 密室に閉じ込められたわけですし。


「そうなの?」

「知らん」

「そっか」


 そこで会話が止まった。

 沈黙が続く。


「……出られないな」

「……うん」


 どうしよう。

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