炸裂マネーパワー
早朝、学校に到着すると、外からでもわかるほどの素振りの掛け声が聞こえてきた。
「あ、一宮先輩。おはようございます」
早月の邪魔をしちゃ悪いと、武道場に入っても声は掛けないでいたのだが、俺のことに気づいた早月の方から挨拶してきた。
「おはよう」
早月は近くに寄ってくると、視線を右へ左へとさまよわせ始めた。
「どうした、続きしないのか?」
「し、しますよ! するけど……その」
早月は頭から煙でも出るんじゃないかというくらいに顔が赤い。
「おいおい大丈夫かよ。熱でもあるんじゃないか?」
「へ、平気です。それより……お弁当」
「へ?」
「私の作ったお弁当どうでしたか!」
あー、そうだ。今日はそのために来たのだった。
一昨日の愛歌の件で疲れていたせいで、昨日弁当箱も学校に持ってくるのを忘れたし、それが気まずくて早月とも顔を合わせないようにしてたのだった。
だから早月は感想というものお預けされたわけで。
素振りの手を止めてでも聞きたかったということか。
俺はカバンから弁当箱の包みを早月に渡した。
「美味かったよ。ありがとよ」
「と、当然です! 私はこう見えて料理は得意なんですから」
料理上手は弁当作るのにあんなに手をぼろぼろにしないと思うけどな。
今もまだ絆創膏貼ってるし。
……とは、あえて口に出すまい。
「先輩は私の手作り弁当を食べられたことに感謝するんですね」
「おう、めっちゃ感謝してるぜ。また今度食わせてくれよ」
「き……気が向いたら作ってあげなくもない……です」
赤くなってそっぽを向く早月。かわいい。
「じゃあ早月の気が向くのずっと待ってるよ」
「気が向くといいですね。……それより先輩、気が散るんで出て行ってもらえますか?」
「え? でも今まではそばで見てても何も言わなかったじゃん」
「いいから!」
「わ、わかったよ」
俺は早月に追い出される形で、仕方なく教室へと向かった。
「な、なんだったんだ……一体」
「――きっと恥ずかしかったのではないでしょうか」
「うおっ!? 茜――じゃなかった」
近くの植木から降下してきたのは碧眼白髪の外国人。
「ごきげんいかがですかな、夏彦様。コールマンでございます」
「茜みたいな登場の仕方しないでくれない? 怖いから」
会長令嬢、中条愛歌の執事ジュリアス・コールマンはおや、と頭を掻いた。
「これは失敬」
本当に失敬と思ってんなら少しは申し訳なさそうにしろよ。
なにニコニコしてやがる。
「ところで、早月が恥ずかしかったって?」
「はい。夏彦様から手作りのお弁当を褒めてもらい、塚原氏は嬉しかったのでしょう。しかし、夏彦様の目の前で喜ぶのも癪だったのでしょう。そこで夏彦様を一旦外に追い出し、今は歓喜の舞を舞っているといったところでしょうか」
早月が歓喜の舞か。
なんだかすごく面白そうだけど。
「そんな、まさか早月がねえ……」
最近は会った当初より好感度は上がってきたと自負しているが、俺が褒めたくらいで早月がそこまで喜ぶとは想像できない。
「いけませんよ、夏彦様。あなたはいずれ愛歌お嬢様の伴侶となるお方。全てとは言いませんが多少の女心は理解しませんと」
「俺は愛歌と結婚する気はないからね?」
勝手に人の人生を決めないでください。
愛歌はなあ、比較的まともな方だけど誘拐や監禁をするようなヤバさもあるからなあ。
というか、これをまともと思ってしまう俺の方もそろそろ感覚のまひがヤバい気がする。
教室に着けば、当人がいるし。
「ごきげんよう、夏彦さん」
ほら。
金に飽かせてクラスの移籍を敢行するセレブだもんなあ。
「おはよう、愛歌。やっぱいるんだな……」
さすがに金の力でクラス移籍なんておかしな話で、昨日一日だけの交換かもしれないなんて思ってたけど、そんなことなかった。
愛歌はさも当然という顔をして俺の席の隣に座っている。
「当然ですわ。夏彦さんにお近づきになるために金を積んだのですもの」
「なあ、お前は俺の熱弁に心打たれたとか言ってなかった?」
金の力に頼るのはよくない的な話をした気がしたんですけど。
「まあそれはそれとして、やはりお金はわたくしの強力な武器ですの。他の面でライバルに差をつけるのは難しいと思いましたので、金の力で夏彦さんを籠絡してみせますわ」
「本人に言うことじゃないだろ……」
愛歌は若干呆れの混じえた俺のツッコミを聞き流し、さらに続けた。
「とりあえず金の力でもっと夏彦さんに近づけるよう、コールマンに命じてジ○ジョの漫画を全巻取り寄せましたの」
「なっ!? 全巻……だとっ……」
「ただいま鋭意読書中ですわ!」
……なんだか愛歌には少しだけ好感が持てそうな気がした。




