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決着・対会長令嬢

 茜の名乗り口上を上げた愛歌ははあ、と呆れた顔でため息をついた。


「な、なに? そんなに私の自己紹介がおかしかったとでも言うの?」


 うん。

 忍者ですって言われても、普通の人は大体同じ様な反応すると思うよ。


 と思ったら、愛歌のため息の理由は別にあるらしかった。


「あなたがあの上泉の当代ですか……そんなのがわたくしに刃向かってよろしいんですの?」

「ど、どういうこと?」

「あなたの家の“お仕事”の八割ほどが中条家からの斡旋(あっせん)ですのよ。わたくしに逆らえばあなたのご家族は路頭に迷うことになりますわ」


 “お仕事”か……。

 茜の家は忍者の家系というだけあって、黒い仕事を生業(なりわい)としてるんだっけ。

 中条財閥があれだけの成長を遂げたのも、茜の家みたいな力を使って影でライバル企業を蹴落としていた、という事情もあるのかもしれない。


「ぐっ……」


 さすがの茜も、愛歌のこの脅しにはひるんでしまった。


「あの役立たず女は……お父さん、茜さんなんかと違って私はちゃんと助けてあげるからね!」

「夏穂さん、こっちにいらっしゃいな」

「な、なんですか」

「どうかこれで一つ穏便に……」


 愛歌が夏穂に分厚い茶封筒を握らせている。

 あれって……。

 夏穂は怪訝な顔をしながらも、封筒を覗き込む。


「……はっ! こ、これは……えへへー」


 夏穂がすごくだらしのない顔になった。

 金か!? 金なのか!?


「おい夏穂、目を覚ませ! 俺を助けろ!」

「はっ! な、なんて恐ろしい魔術を使う女……この魔女め!」

「あら、残念。でもわたくし、夏彦さんを返す気はありませんわよ。これでも少々武術を(たしな)んでおりまして、あなた一人程度なら如何様(いかよう)にもできますわ」


 愛歌は手慣れたように構えを取る。


「――そっかー、でも二人ならどうかな?」

「なっ!?」


 愛歌は予期せぬ人物の声に驚き、振り返った。

 そこには忍者刀を構えた茜がいる。


「あなた……家族がどうなってもいいって言うのですか?」

「知るか。私は夏彦くん第一なんだい! 家族が路頭に迷おうと、それこそその辺で野垂れ死のうと知ったことか!」


 この親不孝者め。

 思ってても口に出せるようなことじゃないだろ……。

 といっても助けて貰おうとしている身、茜の批判はできない。

 ああ、なんともどかしい。


「ふっ……降参ですわ」


 愛歌は静かに構えを解いた。


「なんだ、残念。向かってくるというなら夏彦くんの害敵を排除するチャンスだったのに」

「お前にも一応人道というものが残ってたんだな」


 茜なら戦う意志のない人間も積極的に攻撃するもんだと思っていたわ。


「さすがのわたくしも家族との天秤にはかけられませんもの。わたくしの恋心は今さっき自覚したばかり……あなたには到底敵いませんわ」

「当たり前でしょ。私は夏彦くんのためだったら親すら殺す覚悟があるんだから」


 愛が重すぎる。

 クーリングオフしていいですか?


「……でも。わたくし、諦めませんから! 今に見ているといいですわ。いずれ夏彦さんのハートを射ぬいて見せるんですからね!」

「お断りします」


 拉致監禁の加害者を好きになるのはちょっと無理かなー。


「ぷぷっ、振られてんのー!」


 茜が愛歌を指差し笑う。

 けどお前も、人のこと笑える立場じゃないからね?


 あとそれと――


「なんでもいいから早く解放してくれない?」


 いつまで人をベッドに磔にしてくれてるんだ。


 その後、何もともあれ俺は無事に解放された。

 帰りは愛歌に気を利かせてもらい、コールマンの運転で送ってもらうことになった。


「……って、あんた何があったんだよ」


 コールマンの服は爆撃にでも遭ったかの様にぼろぼろだった。


「いやはや、上泉氏が中々に手強くて。こちらは命は奪わないように努めましたが、上泉氏は本気で殺りに来るものですから」

「それって、まるで私と戦ってる時に手加減してたって言ってるように聞こえるんだけど」


 茜にも忍術体術に関してはプライドがあるのか、少し不機嫌そうにした。

 たしかに、茜と戦闘で渡り合える人間はそうそういないだろうけど……。


「さて、どうでしょう。上泉氏はお強くあられますよ?」

「答えになってないし……」

「ぷ。手加減した執事と互角の忍者(笑)」

「あなたねえー!」

「あーもう! 夏穂は茜を煽るんじゃねえ! お前も挑発に乗んな!」


 なんて、俺が止めても火に油。


 口論がどんどん盛り上がる。どうやって協力体制を敷いたのかが不思議なくらいに仲が悪い。

 ああ、まるで針のむしろだよ……。

 コルちゃん、鼻唄歌いながら運転してないで、どうか俺を助けてください。


 結局家に着くまで喧嘩は続き、非常に居心地が悪かった。


 ***


 愛歌にさらわれた翌日、教室に着くと違和感が……。


「あら、夏彦さん。ごきげんよう」

「な、何故愛歌がここに!?」


 俺の隣の席に愛歌が座っている。


「わたくし、先生方に“お願い”して、A組に移籍したんですわ」


 お願いって……金か。また金なのか。

 さすが行動派お嬢様。動きが早いこと。


「というか、その席に元々座ってた青葉くんは?」

「青葉……そんな方もいましたわね……」


 愛歌は遠い目をした。

 え? 愛歌の代わりにC組に移ったとかじゃないの?


「まあ彼は……元気にやってると思いますわ!」

「青葉くんは!?」


 青葉くんの安否は神のみぞ知る……。

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