二度目・二回目
「うん、愛歌がすごく金持ってるのはわかった。だから愛歌自身のアピールポイントとがどうこうという話はやめよう」
また墓穴掘りかねないしね。
「でも、金じゃ動かせないものもあるんだよ。人心は特にだ」
「お金があればなんでもできますわ」
「お前は大金積まれたら見合い相手と結婚したいのか?」
「……ごめんなさい」
自分の発言には責任を持ちましょう。
「な? 俺だって結婚するなら好きな人とがいいんだよ。婚約しましょうと言われて、はいそうですかとは言えないさ」
「じゃあわたくし、夏彦さんに愛してもらえるよう努力しますわ」
中々引き下がんねえな、このお嬢様は。
「あのさ、なんでそこまで俺にこだわるんだ? たしかに念写を信じているというのはわかるが、それがすべてでもないだろ。自分の婚約者くらい自分で見つけたらどうだ?」
「わたくし、この力で失敗したことはありませんの。それに念写で運命の人を見つけても、自分で見つけたとは言えませんこと?」
「……たしかに」
論破されてどうする、俺。
しかし愛歌の話を聞いてる上ではやはり断る理由なんかないのではと思えてくる。
夏穂や千秋よりよっぽど健全だし、茜よりもよっぽど安全だ。
やっぱオーケーしようかな……。
「わたくしは夏彦さんのために美味しくて健康的な料理だって毎日食べさせてあげますわ」
「料理ねえ。食事は好きだしいいかも……」
「そうでしょう? 先ほど、勝手ながら夏彦さんの手にしていたお弁当を拝見しましたが、少々同情してしまいました。わたくしならばあんなものとは比べ物にならない――――」
「はあ?」
――ああ、ダメだ。
やっぱりこいつは合いそうにない。
「えっと、わたくしなにか失言を?」
「……お嬢様。あのお弁当は夏彦様が懇意にされている後輩の方が作られたものです」
コールマンが渋面を浮かべる。
いや、どこでそれを知ったんだよ。
愛歌がコールマンに俺の情報収集でもさせてたの?
コールマンからの報告に、愛歌の顔はみるみる青ざめていく。
「まあ。わたくし、そうとは知らず……」
「そうじゃねえだろ! 知らなかったとしてもだ、誰かに作ってもらったということくらい想像できるはずだろ? 俺が弁当を自作する顔に見えるか?」
「最近は自分でお弁当を詰める殿方も増えていらっしゃいますし……」
「揚げ足取ってんじゃねえ! 俺が言いたいのはそんなことじゃなくて、弁当っつーのは作ったやつが渡すやつに気持ちを込めてるんだよ。それを言うことに欠いて『あんなもの』だ? 結局は人の気持ちを軽んじてるからそういう言葉が出てくるんだよ」
もう自分でも何を言ってるのかわからなくてなっている。
それだけ愛歌が何気ない気持ちで言ったことに頭が来たのだ。
「そんな……わたくし……」
「もういいだろ。俺は帰るぞ」
「……道はわかるのですか?」
「問題ない」
たとえどこにいようとも、千里眼を使えばある程度の道筋は立てられる。
愛歌に心配されるようなことではない。
「……そうですか。では仕方ありませんね――コールマン!」
「はっ! 夏彦様、お許しを。お嬢様の命令は絶対ですゆえ」
「――なっ!? なに……を……」
反応する間もなく、体に強い衝撃を受けた。
何が起きたか理解が及ばす、意識が遠のいていった……。
***
混濁した意識の中で、両手首の冷たい感触に気がついた。
動かしてみると、ぴくりともしない。
眠る前の記憶もあいまいで、金縛りにあったかと思った。
眠気も消えぬままに目を開くと、視界には見知らぬ天井が飛び込んでくる。
首を動かしてみるとも、両腕はばんざい状態のまま、金属の輪っかによってベッドに拘束されている。
……あぁ、そう。
眠る前の記憶を思い出し、なんとなく自分の置かれた状況は理解したぞ。
「……またかよ」
どうやら俺は愛歌に監禁されているみたいだ。
本当に、まったくもって、俺の周りの女どもは………。
「お目覚めになられて?」
「愛歌……どういうつもりだ」
「わたくしは夏彦さんの熱弁に心打たれ、猛省いたしました」
「そうなの? 反省の色が毛ほども見られないと感じるのは俺がおかしいの?」
猛省した人間は普通、人を監禁したりしないよね?
「あら、信じてくださらないの?」
「ベッドに磔にするのは信じて欲しい人にする仕打ちじゃないよね」
「まあ。それとこれとは話が別ですわ」
「別なのかよ!」
俺は最初から監禁の話題だったよね。
「夏彦さんがどう仰ろうと、やはりあのブサイクとは結婚したくありませんの」
「うん。まあ同情はするけど、俺以外の人を探せばいいだろ」
「それがお恥ずかしいのですが……短時間ながら夏彦さんとお話するうちに慕情を抱いてしまいましたわ。わたくしは、あなたがいいんですわ!」
「ええー……」
ちょっと惚れっぽすぎやしませんかね、お嬢様。
俺は人を監禁する女性はちょっと……。
「でも夏彦さんはわたくしではダメなんでしょう? そこで、否が応でもうなずかざるを得ない状況を作ってしまおうと思い至りました」
「……は?」
俺の第六感が全力で嫌な予感を告げているぞ。
第六感って言っても千里眼の方じゃなく。
「既成事実を作りましょう!」
愛歌は、身にまとう衣服を脱ぎだした。




