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会長令嬢の苦悩

「わたくし、お見合い結婚することになっていますの」


 愛歌は物憂げな表情で言う。


 なるほどな。

 お嬢様だからその辺は色々と事情があるのだろう。

 大方政略結婚といったところだろうか。


「つまり好きでもない人と結婚させられそうになってると」

「ええ。まあ、それ自体は仕方がないと思ってますわ。十六歳の誕生日を迎えた時から覚悟はしてましたし、尊敬する父の頼みを無下にはできないですもの。ただ……」


 愛歌はそこで一呼吸置いた。

 その時、愛歌はまるでこの世の地獄でも見たかのような、ひどく陰鬱な顔をしていた。


「ただ……なんだ?」


 何があったか聞くのも怖いが、恐る恐る尋ねてみる。


「ただ、どうしようもなく、本っ当に! ……相手方の男性が好みではないのですわ」

「あー……」

「あ! 今なんてくだらないとかお思いになられました!? わたくしとっては深刻な悩みですのよ」

「いやいやいや。そんなこと思ってないって」


 俺もブスと結婚しろって言われたお断りだもん。

 美人じゃなくていいから普通の子と結婚したいね。血縁者とかストーカーとかじゃなくて。


「いえ、絶対に真剣にとらえていらっしゃらないでしょう。お見合い相手の写真を見ればこれがいかに重大な問題かわかると思いますわ。コールマン!」

「はっ。写真はこちらに」


 まるで準備していたかのように、コールマンは手際よく写真を取り出し、机の上に置いた。

 俺は置かれた写真を何気なく覗き込む。


「うわ!」


 ……うん。

 思わず声を上げてしまうほどのぶさ……個性的な面立おもだちですこと。


「おわかりになったでしょう!? これですわよ! ふざけんじゃねえ、クソ喰らえ……ですわ!」

「最後に『ですわ』って付ければ何でも上品になるわけじゃねえぞ」


 女の子がクソ喰らえとか言うんじゃありません。


 でもまあ、気持ちはわかる。

 これと結婚しろって言われても絶対無理だわ。

 お金払ってでも返品したいレベル。


「わたくし、お父様に結婚はできないと申し上げましたの。お父様に何故だ、と聞かれましたので、わたくしにはすでに心に決めた人がいると……」

「本当はいないのに言ったわけか」

「ええ。そしたらお父様が『じゃあその心に決めた人というのを連れてこい』と」

「で、念写で俺を探し当てたと」

「その通りですわ。ねえ、よろしいでしょう? 悪いようにはしませんわ」


 と、言ってもなあ……。


 金持ちと庶民じゃ住む世界が違うので安請け合いはできない。

 愛歌はスペック的には全てが申し分ないし、性格も話している感じ茜とかよりは大分ましだと思うけど……。

 やっぱ出会ってすぐの人と婚約をするのは不安が残る。


 愛歌の境遇には同情するが、そこらの漫画のように偽者の婚約者として振る舞うのも無理がありそうだ。

 もしそのお父様とやらの前に出ていこうものなら問答無用で結婚させられそうだし。


「やっぱ俺は……」

「何を悩むことがありまして? うちに来ればそれこそ一生遊んで暮らせますわ」


 ごくり。

 魅力的な提案に思わず唾を飲み込む。


「欲しいものは何だって手に入りますわよ。それにわたくし、容姿だってそれなりだと自負していますわ。こんな良物件をみすみす手放すなんてもったいなかはありませんこと?」


 たしかに、今生二度とないチャンスかもしれない。


「……エロゲーだって買い放題」


 おい。

 なんかぼそりと隣で聞こえたぞ。

 いいのか? 執事がこんなんでいいのか!?


 愛歌がダメ押しとばかりに話を続ける。


「何より……手前味噌ではありますが、夏彦さんに言い寄るハイスペック女性は世界中のどこを探してもわたくしだけですわ!」

「断言かよ!」

「あら、ご存知なくて? 普通のお金持ちは家柄で結婚相手の足切りをなさるのよ?」


 うわー、なんて夢のない話。

 もしかしたらいるかもしれないだろ、俺のことを好きになる物好きな金持ちが。


「うーん……」

「快諾することはあっても迷う理由なんてどこにもなくはありません」

「いや、愛歌と結婚して得られるメリットが大きいのはわかった。だが……」

「だが……なんですの?」


 そう、断る理由などどこにもない。

 容姿も性格も悪くない。しかも結婚後は金を湯水のように使えるときた。

 “メリット”としてはこれ以上にないくらいなのだ。とても、魅力的で心惹かれる提案……だが――


「だが断る」


 決まったぜ。

 俺の言葉に愛歌は呆気にとられていた。


「な……なぜでして?」

「いやー、一度言ってみたかったんだよね。少年漫画のキャラクターの有名な台詞なんだけど、中々シチュエーションが合わなくて」


 ある意味オタクの夢だよね。


「そ、そんな理由で断られましたの、わたくしは」


 怒りか失望か、なにかはわからないが愛歌は震えている。


「いやまさか。理由は別にあるって」

「なんですの?」


 愛歌はよほど悔しかったのか、ジト目になって聞いてきた。


「さっきから聞いてたらさ、愛歌のまともなアピールポイントって結局は金だろ? でもそれってお前の親の力でお前自身の魅力じゃないじゃん」

「あら、わたくしの個人資産は一億ほどありますわよ。お小遣いから株やFXで増やしましたの」


 ……お嬢様の方が一枚上手でした。

 俺、負けないもん。

次回は来週更新。

何日になるかは未定。

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