叔母と姪とアキハバラ
第百六十七回チキチキアダルトゲーム品評会は遅れてきた猫助さんを加え、その後三時間ほど続いた。
……あれ? 百六十九回だっけ?
やれ昔と今のエロゲーの違いがどうだの、やれ予告の出てる次回作で期待できるのは何だの、話し合ってるうちに部屋の退出時間を迎え、会議は終わりを告げる。
普段ならここから二次会に行ったりもするそうなのだが、今日は全員予定があるらしく、アダルトゲーム品評会はお開きとなった。
「では、サウザンドオータム氏とそのお兄さん、ごきげんよう」
「あ、はい」
「さよーならー」
俺が生返事しかできなかった一方で、千秋はコルちゃんにぶんぶん手を振る。
この辺はさすが千秋というべきだが、ごきげんようと言われても返事に困る。
そんなお上品な挨拶初めて聞いたぞ。
外国人だからおかしな日本語講座でも受けたのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えていると、千秋が肩を叩いてきた。
「ねえお兄ちゃん。せっかくだしもうちょっと遊んで帰らない?」
「あー……」
千秋の提案を聞いて、腕時計をちらりと見た。――まだ四時半か。
もう高校生なんだし帰るのが多少遅くなっても、というかあの両親なら千秋と朝帰りしても怒らないと思うが……。
「そうだな、そうしよう」
俺としてもせっかく秋葉原に来たのにこのまま帰るのはもったいない。
千秋の提案に乗ってやろうじゃないか。
「やった! お兄ちゃん、あそこ行こ! コ○ブキヤ!」
「みっともないからあまりはしゃぐんじゃない。あ、こら、袖を引っ張るな!」
俺は千秋に引きずり回され、フィギュアをねだられたり、パソコンショップでウィンドウショッピングをしたり、途中で休憩がてら小腹を満たすためにクレープ屋に寄ったりと、あらかた秋葉原を満喫した。
メイド喫茶行きたいとか言われなくてよかった。
そして――
「あれ? もしかして、あれって夏穂じゃないか?」
「え? 本当だ」
秋葉原の地で偶然発見したのは意外な人物……でもなんでもないな。
夏穂はサブカルチャーの話題に明るいことからオタクであることは想像に難くない。
「あ、こっちに気づいたみたいだぞ」
こちらを見て、俺と千秋であることに気づいたのだろう。
その瞬間、夏穂は何故だか逃げ出そうとした。
……が、夏穂はその場で足踏みするだけで全く前進していない。
というか、足が地面から若干浮いている気がする。
隣に視線を移すと、千秋が意味深に手を動かしている。
……ああ、テレキネシスで止めてるのね。
「足踏みなんかしてなにやってるだろうね、夏穂ちゃん。ちょっと話聞いてみようか」
お前がさせてるんだろう。
話を聞こうという千秋はまるでおもちゃを見つけた子供のような顔をしていた。
夏穂に近づいて千秋が声をかける。
「夏穂ちゃん。こんなところで何してるのかな?」
「あ、叔母さん……と、お父さん。こ、こんなところで奇遇ですね!」
「ねえ、今逃げようとしなかった? したよね?」
「な、ナンノコトデショウ」
夏穂、がちがちの返答。
おーい、嘘がバレバレだぞー。
「あ、その袋はなに?」
千秋が指差したのは夏穂が手に提げている袋。
「いやー、別に見ても面白いものじゃないですよー」
「じゃあ見てもいいよね!」
「え゛っ゛!」
夏穂がものすごい声を出しながらうろたえた。
うーん、なんかこの場で見てはいけない物のような気がしてきたぞ。
「おーい、千秋ー? 買い物なんて人の自由なんだし別に中身を知る必要はないんじゃないかなー?」
「そそ、そ、そうですよ! プライバシーですから!」
「あ、お兄ちゃんいたんだ」
いたよ! さっきまでお前とカオスなオフ会に参加してたよ!
「でももう開けちゃったし」
「えっ!? 袋がない!」
夏穂が手元を確認し、いつの間にか買い物袋をくすねられたことに驚く。
そして、千秋は袋に入ってる物を検分し始めた。
「ふむふむ、発信器に盗聴器、監視カメラ……その他犯罪臭のする機器が諸々……」
なにそれこっわ。
「夏穂ちゃん。これ何に使うつもりだったの?」
「えっと、秘密です」
凄んで問いかける千秋に夏穂はガクブルしながら答える。
ねえ、千秋さんは本当に何したの?
「へえー……そっかあ。じゃあ今はお兄ちゃんとのデート時間が惜しいから見逃してあげるけど、帰ったらこってり絞ってあげるから――覚悟しててね?」
「ひいぃぃっ!! お父さんヘルプ!」
「……ノーコメント」
夏穂には悪いが、この件に関しては俺も身の危険を感じるので千秋さんに教育をお任せしたい所存です。
「そんな! 後生だから助けてええ!」
……夏穂の叫びは空しく、アキバの空にこだました。
「さあお兄ちゃん! デート続けようか」
「あっはい」




