兄と妹とアキハバラ
週末、千秋との約束通り秋葉原に向かうため、俺と千秋は電車に揺られていた。
「やー、楽しみだなーアキバ」
「まあアキバが楽しみなのは認めよう」
俺とてオタクの端くれ、秋葉原にはそれなりに興味はある。
現実のメイド喫茶とかは恥ずかしすぎるからごめんだけど。ゲームならいいんだけどね。
「そういえばお兄ちゃんと二人で出掛けるのは久しぶりだね」
「そうだっけか?」
「そうだよー。お兄ちゃん、最近は休日は外に出たがらなかったから」
「あー」
そりゃ外は怖いからね。
外にはストーカーとか忍者とか幼馴染とか危険でいっぱいで、用事がなければ積極的に外出はしたくないのだ。
今日だってほら、千里眼で乗ってる電車を俯瞰してみれば外壁にしがみついてるストーカーで忍者な幼馴染が。
というか、外壁にしがみついてのご乗車は大変危険ですのでおやめください。
よく吹き飛ばされないな。あいつ本当に人間か?
と、千秋は頭のおかしいストーカーのことなどつゆ知らず、つり革に掴まりながらのんきに体を揺らしている。
「お兄ちゃんとのデート楽しみー」
「兄妹が一緒に出掛けることをデートと言うな」
てかアキバが楽しみなんじゃなかったの?
「ちっちっ。異性が二人きりで出掛ければそれはもう立派なデートなんだぜ、お兄ちゃん」
二人きりじゃないけどね。
というか、今日はオフ会が目的なんだから本当に二人きりじゃない。
電車を乗り継ぐこと一、二時間。
やっとこさ電気とオタクの町、秋葉原に到着した。
秋葉原はテレビなどで知ってるまんまにいかにもなオタクや、客引きのメイドや、ところかしこにカメラを構える外国人で溢れていた。
千秋も来るのは初めてだと言っていて大はしゃぎである。
「見て見てお兄ちゃん! ラジ館! ラジ館だよ!」
千秋の指差す方にはかの有名なラ○オ会館。
ほー、これがあの。
「あれー、屋上にタイムマシンは不時着してないね」
「お前って本当にゲーム脳だよな」
と、呆れながらも千秋にツッコむが、俺も本当は期待してたのは内緒だ。
未来人と会えるなんてロマンがあるもんな。
……って、毎日会ってるじゃん。
「あ、そうだ! お兄ちゃん、私オフ会の前にちょっと寄りたいところがあるんだけど」
「ん? どこだ?」
「あそこ!」
千秋が指差した方角にあったのは、いわゆる“アダルトショップ”というやつだった。
アキバってこんな堂々と建ってるのね。
「却下」
「えー、なんでー」
「なんでじゃねえよ! お前未成年だろ!」
そもそも兄妹で入るようなところじゃないですし。
「でも、手錠とか縄とか新調しないといけないし……」
「おい、新調ってなんだ。新調って」
まるで普段から常用しているような言い草だが。
「夏穂ちゃんっていつもおいたが過ぎるからその度におしおきしてるんだけど、すごく暴れるから拘束具がすぐダメになっちゃうんだよ。エロゲーとかでは調教って簡単にできるのに夏穂ちゃんは強情でねー」
やだこの子怖い。
というかゲームと現実の区別はつけようぜ。
「帰ったらお前の部屋の検査してその類いのものは没収しておこう」
「なっ!? この鬼兄ー! 鬼兄vol.2!」
「俺はシリーズ物のエロアニメじゃねえぞ!」
なんだよ、vol.2って。
「まあアダルトショップは冗談だけど――」
「まったく冗談に聞こえなかったんだけど」
「とりあえずゲーマ○ズでも行く? まだ時間あるし」
「あー……」
そういえば今日は好きな漫画の新刊が発売される日だった気がする。
「よし行くか」
ゲーマ○ズで俺が目当ての漫画を買い終えたあとも千秋は商品を熱心に物色していた。
千秋が手に取っていた商品は軒並み兄妹愛ものの漫画やらライトノベルやらだったが絶対にツッコまんぞ。
気にしたら負けだ。
「そういえばなんでゲーマ○ズなんだ? アニ○イトとかじゃなくて」
俺的にはアニ○イトの透明なブックカバーが好きなんだけど。
「私の欲しい店舗特典がこっちだったから」
「へえー」
千秋はそういうのも気にするのか。
俺としては店舗特典なんてもらえてラッキー程度のおまけ感覚だからな。
「だってアニ○イトの特典ってあの主人公と幼馴染のツーショットポスターカードだよ? マジ誰得? って感じ。そこは主人公と妹の一択でしょ。描いた作者さんは幼馴染との恋愛という不純物を描くという過ちを犯したけど、それ以上に兄妹の新たな可能性を表現した功績がそれ以上に大きいからまあ許すとしよう。憎むべきはその展開にゴーを出した編集と、あの店舗特典を許可したやつら……まじゴートゥーヘル」
あ、やばい。
なんか地雷だったぽい。
千秋は聞いてもいないのにそれからグチグチと語りだして止まらない。
ちょっと店内でやめてください。恥ずかしいから。
周りにも迷惑かかるでしょ……と思いきや、周りのオタクの客たちが千秋の論説にうんうんうなずいてる。
このまま放置しておくと教祖様として祀り上げられるじゃないかという雰囲気さえある。
一方で何言ってるんだお前、とでも言いたいかのように千秋を睨んでいるオタクもたくさんいたのは言うまでもなかった。
ほら、人の好みはそれぞれなんだからそろそろ黙りなさい。




