未来人vs忍者
「じゃあまた明日」
「うん、またね」
佐々木さんとすこし雑談したあと、別れの挨拶をした。
佐々木さんは部活があるそうだ。文芸部らしい。
「おとーっさん! 一緒にかーえろっ!」
話が終わったタイミングを見計らって夏穂が突撃してきた。
抱きつかれるのをさらりとかわして返事する。
「ああ。わざわざ待ってたのか」
「お父さんは佐々木さんと話してたでしょ? 私、あの人ちょっと苦手で……」
夏穂が苦虫を噛み潰したような顔をする。
あんな人畜無害そうな美少女を苦手とはどういうことだろう。
というか、夏穂が人柄を知っているということは佐々木さんにもフラグが立つのか。
モテ期ってやべえな。
これで他にモテるのが血縁者や頭のおかしい幼馴染じゃなければ最高なんだけど。
「佐々木さんがねえ……いい人っぽいけど」
「まあ、悪い人じゃあないんだけどね……ヤバさで言えば茜さんと同等かそれ以上かも」
なにそれこわい。
あれよりやばい人間がこの世に存在するというのか。
「ちょっと! 私のこと夏彦くんに悪く言うのやめてよ!」
「茜!? なんでいるんだよ!」
教室の壁がめくれて茜が出現する。俗にいう隠れ身の術だ。
いったいいつからいたんだか。
忍者がストーカーとか本気で洒落にならん。
「私は事実を言ってるだけですけどー? 何か問題あるんですかー?」
「はあ!? 意味わかんない! 私はただ夏彦くんに想いを伝えてるだけなのに、まるで狂人みたいに言わないでよ。夏彦くんが勘違いしたらどうしてくれるの」
すみません、夏穂が悪く言わなくても狂人だと思ってます。
「だからそれが事実だって言ってるんですよ、この陰湿ストーカー女」
「あなたこそ娘だかなんだか知らないけど、夏彦くんにベタベタしすぎ! ただでさえ千秋ちゃんとか、あの一年の女とか、夏彦をくんには誘惑が多いのに……夏彦くんが迷惑に思ってるのわかんないの?」
いや、茜さんの方が迷惑です。
しかも一番たちが悪いし。
夏穂と茜の口論がどんどんヒートアップしていく。
やめて! 俺のために争わないで!
「まあまあ、二人とも落ち着け」
とりあえず喧嘩を止めるために、二人に割って入りなだめる。
「夏彦くんは口出ししないで!」
「これは私と茜さんの問題なの!」
「あっ、はい」
しまった。二人の気迫に気圧されて引き下がってしまった。
夏穂と茜はおよそ世の中の女子高生が口にしていい言葉ではない言葉で罵り合いを始めだす。
悪口合戦はさらに激化し、もう収拾がつきそうにない。
誰か助けてください。
***
「……ってなことがあった」
「おつかれーお兄ちゃん。モテる男は辛いねえー」
俺は勝手に人の部屋に入り、勝手に人の漫画を読んでいる千秋に対して愚痴をこぼしていた。
「胃が痛え……胃潰瘍になりそうだ」
まさか口喧嘩であんなことやそんなことを言うとは思わず、見ていて非常に精神衛生上よろしくなかった。
あのまま殺し合いに発展しそうな勢いすらあったので放置するわけにもいかなかったし。
「変人だもんねー、あの二人は。やっぱ常識人なお兄ちゃんには常識人な私が一番お似合いだと思うんだよ」
「寝言は寝てから言え」
世界のどこに親にエロゲーをねだるような常識人がいるのだろうか。
常識人ってのは早月みたいなやつのことを言うんだよ。
あいつはあいつで、見ていて別の意味で胃が痛くなりそうだけど。
「ぶっちゃけさ、二人ともお兄ちゃんのことが好きなんだから、調教すればいいんだよ。調教してお兄ちゃんの都合のいい奴隷にしても二人はそれで幸せだと思うよ」
爽やかに笑いながらなんてすごいことを言うんだろう、この子は。
「今日聞いた発言の中で一番ぶっ飛んでるな。エロゲ脳もほどほどにしろ」
「えー、わりと真面目な話なんだけどー。手錠と鞭も貸すよ? あ、それとも縄やローソクの方が好みだった?」
「なんでそんなもん持ってるんだよ……」
お兄ちゃんは妹の未来が心配です。
将来はエッチなお店の女王様とかにならないでね。
「インターネット通販で買ったんだよ。あ、そうそう。ネットといえば今度の日曜日に私が参加しているネット上のコミュニティでオフ会があるんだけど、お兄ちゃんも一緒に行かない?」
「いや、いいわ。面倒くさいし」
「えー、そう言わずにさー」
「部外者が行っても気まずいだけだろ……」
「でも、その名も第百六十七回チキチキアダルトゲーム品評会だよ!」
「ぜひともついていこう」
そんな危険な会に可愛い妹を一人でなんか行かせるわけにはいかない。
信じて送り出した妹がキモオタたちの欲望渦巻く視線にドハマリしてヲタサーの姫になって帰ってきたら目も当てられんからな。
あと何気に歴史長いのな。なんだよ、第百六十七回って。




