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夏彦と委員会

「先週の続きだけど、あと決まってないのは保険委員の女子と図書委員二人だけど……誰かやってくれる人いませんか?」


 現在、帰りのホームルームで委員会決めの続きが行われていた。

 進行は先週に引き続き池尻さん。

 先週は役職と立候補者を黒板に板書していた、もう一人の学級委員の駒沢くんは隣でひまそうに突っ立っている。


「あー、じゃあ私保険委員やりまーす」


 何を思ったのかギャル風味の女子が気だるげに手を上げる。


「保険委員は新町さんね」


 池尻さんは棒立ちしてる駒沢くんに注意もせずにクラスを見回した。

 まあ、他の委員はほぼ決まっていて板書の必要性がないので、駒沢くんに関しては注意するまでもないのだろう。

 そしてまた池尻さんがクラスメイトたちに問かける。


「図書委員は?」

「じゃ、じゃあ……私が……」


 おっかなびっくりな感じで真面目そうな女子が挙手をした。

 たしか彼女は佐々木さんだったか。


「佐々木さんね、ありがとうございます」


 お、正解。

 空いていた役職もスムーズに決まっていることだし、これなら委員会決めもすぐ終わるだろう。……そう思っていた。


 最後、図書委員の男子だけが決まっていないという状況で再びこう着状態に陥った。


 これは推測だが、新町さんは早くこの時間を終わらせたくて自分で立候補し、佐々木さん内気そうなので立候補する勇気がなかったのだろうと思う。

 だがこのクラスが持っている消極的さは変わっていないわけで、やろうと思っている人間がいない限り、じゃあ自分が……とはならないんだろう。


 このまま、また無益な時間を重ねて、結局池尻さんが指名することになるのだろうか。

 俺が面倒くさいなあと思ったところで、アクションを起こしたやつがいた。


「はい! はいはーい!」


 前に座る金髪男、神田信行だ。

 神田は騒々しく高く挙げた右手を振っている。


「えっと……神田くん? あれ、でも神田くんは放送委員じゃなかったっけ?」


 池尻さんの言う通り、神田は放送委員をやると言っていた。

 委員会の掛け持ちはできなかったはずだが――


「俺じゃなくって、こちらの一宮夏彦くんがやってくれるそうです!」


 ……は!?


「おい、ちょっ、待っ――」

「一宮くんやってくれるんですか? ありがとうございますー。じゃあこれで決まりですね」


 池尻さんは反論する隙を与えてくれず、委員が全部決まったと判断して委員会決めをお開きにしてしまった。

 俺は神田によって有無を言わせず図書委員にさせられてしまった。


「おい神田! てめえどういうつもりだ!」


 ホームルームが終わったあと、神田に詰め寄る。


「だって、ノミヤが決まんなかったら委員やるって言ったんだろ?」

「だからやるとは一言も言ってない」

「俺はコンピュータ部で動画見たり、掲示板に書き込みしたり忙しいんだよ。じゃあな」


 神田は行ってしまった。

 ……遊んでるだけじゃないか。


 とにもかくにも決まってしまったものは仕方がない。

 とりあえず同じ図書委員の佐々木さんにでも声を掛けておこうか。

 と思ってたら、その佐々木さんの方からやってきた。


「あ、あの、一宮くんだよね? 私も図書委員になったんだけど……」

「佐々木さん……だよね?」


 佐々木さんは近くで見るとそこそこの美人だった。


 クラス替えをしてからも茜の追跡を逃れるため授業中以外は教室にいなかったために、クラスメイトの顔を覚える機会はなかった。だから佐々木さんの美人具合には気づく暇もなかった。


 また、黒髪のおさげという髪型と、模範的に着こなされた制服が佐々木さんに対して地味な印象を与えていたのも気が付かなかった一因かもしれない。


「う、うん。私、佐々木(ささき)文乃ふみの。よ、よろしくね?」

「ああ、こちらこそ」


 佐々木さんはどこかおどおどしてて落ち着かない感じだ。

 人見知りとかする方なのだろうか。


「あ、ごめんね。なんだかおどおどしちゃって……あまり男の人とは話す機会なかったから緊張してて……」

「そうなんだ。そんなに気を張ったりしなくても平気だ。取って食ったりするわけじゃないし」


 俺の疑問に対して、佐々木さんは心を読んだかのようにタイミングよく説明してくれた。

 それを聞いて、佐々木さんに対して肩の力抜くよううながす。


「えっ!?」


 だが、どういうことだ。

 佐々木さんが急に何かに驚いたような声を上げた。

 何か変なこと言っただろうか。


「わっ、どうしたんだ。いきなり大声出して」

「あ、ううん。なんでもないよ!」


 佐々木さんは取りつくろって笑って見せる。

 うむ、美人さんの笑顔は尊いものだ。


「えへへー……」


 そして、佐々木さんはなんだか嬉しそうにしていた。

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