表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/162

洋館と旗の謎

 早月を探すこと約三十分ほど、探し人は服が汚れるのを意にも介さず地面に体育座りをしていた。

 思ったよりも早く見つかってほっと胸をなで下ろす。


「塚原、大丈夫か?」

「……一宮先輩?」


 早月はべそをかきながらこちらを見上げる。


「……あの、ちゃんと生きてますか? 幽霊じゃないですよね?」

「人を勝手に殺さないでくれない? ちゃんと生きてるから」

「うぐっ、ひっぐ、よかったあ!」


 早月が嗚咽おえつを漏らしながら抱きついてくる。


「ほら、もう大丈夫だから、高校生にもなって泣くんじゃない」

「……はっ! 私ったらなんて情けない……こんな姿を先輩に見られるなんて屈辱です!」


 早月は慌てて目元を拭った。


「泣いてるところも可愛かったぞ?」

「わ、忘れてください!」

「わかったわかった。さっさと行こうぜ。今度は勝手に離れんなよ?」

「うぅ……気をつけます」


 一人で暴走して痛い目見たからか、早月も今回ばかりはやけに素直だった。


 再び山を登りだすが、一旦かなり下ったためにそこそこの時間がかかりそうだ。


「やっぱり不気味ですよね……」

「本当に怖いんだな」

「な、なっ、そんなことないですよ!?」

「さっき勝手にはぐれて一人泣いてたのはどこの誰だっけ?」

「忘れてって言ったじゃないですか」


 早月をからかっていると、気を悪くして口を尖らせてしまった。


「あー、悪い悪い。ま、俺もそばにいてやるからそう怖がることもねーだろ。存分に頼ってくれて構わないんだぜ」

「寝言は寝てから言ってください」


 ツンとした物言いとは裏腹にさっきより距離が近いのは何故でしょうか。

 早月は袖を掴むどころか俺の腕に抱きついている。


 それからまた少し歩き、ようやく目的地に到着した。


「ここが例の洋館だな」


 神田がフラグを置いてきたという洋館は山中林間にものものしい雰囲気を漂わせてそびえていた。

 洋館は廃墟らしく壁が所々朽ち果てていて、ドアの金具なんかは(さび)にまみれている。

 また、窓から(うかが)える内装はには、ガラス越しからでも家具がたくさんのホコリをかぶっているのが分かった。 

 たかに幽霊が出ると言われる館としては申し分のない。


「ほ、本当に行くんですか……?」


 早月に恐怖を与えるにも充分すぎるほどだった。


「そりゃあフラグ取ってこないといけないし」

「でも……」

「なんなら俺だけ行って塚原はここで待ってるか?」


 この提案に早月がぱっと顔を明るくした。


「えっ、いいんですか?」

「うん。俺は大して怖いわけじゃないし」

「じゃ、じゃあお願いします……」

「まかせろー」


 俺は意気揚々と洋館へ入ろうとする。

 びびってる早月を、不気味な洋館の前に、一人置き去りにして。


「ちょっと待って! やっぱ私も行く!」


 早月が上ずった声で叫んだ。

 ちっ、気づいたか。


 改めて早月と二人で洋館の探索をする。

 まあでもそうそう幽霊と遭遇するなんてこともなく、この分だと普通に終わりそうだな――


「あれっ、今なんか音がしませんでした?」


 何事もなく終わりそうだと思った矢先、早月が気味の悪いことを言う。


「いや……なにも」


 洋館は物音一つせずにひっそりとしている。

 しいて聞こえるとしたら俺たちの足音と呼吸音くらいなものだ。


「いや、でもほら、女の人の泣き声みたいなのが……」

「おいおい……勘弁してくれよ。さっきの仕返しか?」

「違いますって。あ、さてはまた私をからかってるんですか? せ、性格悪いですね」


 本気で怖がってるのか、早月の毒舌もキレが悪い。

 え、まじで言ってんの?


「あ、テーブルの上に旗が! さっさと持って帰ってトンズラしようぜこんなとこ」

「そ、そそ、そうですね! そうしましょう」


 目的のフラグを手にしたあとは、すぐさま洋館を後にして下山した。

 山を下るときも早月は俺の腕に掴まったままで、ひっつきすぎだと言っても「そばにいる、頼っていいと言ったのは先輩なんだから」と言って聞かなかった。


 ただ再集合したときに、俺の腕に早月が抱きついていることに対して何もないわけないはずで。


「おう、ノミヤ! 遅かったじゃねーか……って何があった!? 早くも恐怖心を共有したことでできちゃったのか? やるじゃねーか、色男。爆発しろ!」


 神田が茶化すように肩を叩いてくる。


「おい神田。うかつな発言は控えてくれ。塚原の命が危ないから。そして塚原もそろそろ離れろ」

「あ、はい」


 俺から離れた早月はいまいち話が飲み込めていないようだが、俺には見えた。

 神田の言葉を聞いて袖口から何か金属のようなものを光らせていた夏穂と茜を。


「お父さんの周りの女ってチョロすぎるよね……やっぱ始末するのが手っ取り早い……」

「むしろお前がチョロインの筆頭だよね。それと袖の中に隠してる物はしまっておきなさい。危ないから」


 何故か最初から好感度マックスだし。

 というか、どこかヤンデレ風味があって好感度マックスどころ話じゃない気もするすけど――


「あの女の皮を剥ぎ取って私が被れば夏彦くんは好きになってくれるかな……」


 ――茜の方が手の施しようのないほど頭おかしいから、夏穂のことが大した問題に感じられないんだよなあ。

 やばいな、俺。感覚がマヒしてやがる。


「こらこら、イチャイチャするのは後にしろ。ノミヤ、フラグは回収してきたんだろうな?」

「ああバッチリと」


 神田に言われ、洋館で取ってきたフラグを渡す。


「これで三つだな。確かに受けと……あれ?」


 神田がフラグを受けとると、なんでかフリーズしてしまった。


「どうした?」

「……ノミヤ。これ……俺が置いたフラグじゃない……」

「……………え?」


 ……この日の夜、俺は朝まで眠ることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ