山と闇にはご用心
くじ引きの結果、俺と早月、神田と千秋、夏穂と茜のペアに分かれた。
「なんでこの人と……」
「それはこっちの台詞! 夏彦くんとペアになれなかっただけでもテンションだだ下がりなのに、よりにもよってなんであなたなの!?」
茜による俺の拉致監禁事件のせいか、茜の夏穂の仲は最悪だ。
いわゆる犬猿の仲である。
こいつら二人きりにして殺し合いとか始めないよね?
「まあいいや。さっさと行って終わらせよう。あなたといるのは不快だから」
「そうですね」
茜は木々を飛び移りながら忍者持ち前の身体能力で山を登って行った。
同じペアの夏穂に対する配慮が微塵もない。
これ、後を追えるのか……と、思いきや夏穂も何事もないかのようについて行った。
なんでだよ、未来人すげーな。
「じゃ妹さん、俺達は気楽に行こうか」
「はい、よろしくお願いしますね神田先輩」
千秋、今日二度目のスマイル。
だからやめなさいって。その笑顔で何人の男たちを泣かせてきたんだ。
千秋の社交辞令スマイルに魅せられて告白し、玉砕した男の人数は俺が知っているだけでも十はくだらない。
「ノミヤ! 妹さんを俺にください!」
ほら、神田の頭が可哀想なことに。
「お前なんぞに千秋はやらん」
「お兄ちゃん……妹離れができないと嫌われるぜ。私は好きだけどね! というわけで、私はお兄ちゃんと結婚するので神田先輩はごめんなさい」
「くそおおおっ! リア充爆発しろ!」
「二人とも馬鹿なこと言ってないでさっさと行ってこい」
「「はーい」」
悪ふざけコンビを見送って、麓には俺と早月だけが残された。
「先輩……本当に行くんですか?」
「怖いのか?」
「ま、まさか! 幽霊なんて非科学的なものいるわけないじゃないですか!」
早月さーん、足が笑ってますよー。
「幽霊がいないなら行くのためらう理由もないよな」
「あ、あの別に今から帰ってもバレないですよね? 私たちが最後なんですし、山登りなんかしたら服汚れちゃうし……」
「ダメだって。肝試しのルールは山奥の洋館に設置された三つのフラグを一組一個持って帰って再集合なんだから」
フラグはご苦労なことに神田が昼間に置いてきたらしい。
「はあ……千秋の電話なんか無視すればよかった……」
「まあそんな落ち込まずとも、さくっと終わらせちゃえばいいんだよ」
「そ、そうですよね!」
「でもやっぱ出るときは出るかもなあ……」
「ひっ……いざとなったら先輩を生け贄にします」
さらりとひどいこと言うよね、この子。
先輩に対する敬意はないのだろうか。
「とにかく行こうぜ」
「はあ……仕方ありませんね」
俺と早月は山中にある洋館を目指して登山を開始した。
六時過ぎの山ということもあって、辺りは暗くて見通しが悪い。
おかげでいかにも出るぞという、それらしい雰囲気が漂っていた。
「先輩……距離が近いです。もう少し離れてください」
「近いのは俺の袖を掴んでるからだと思うんだけど」
早月の方からひっついてるのにどうやって離れろと。
まじで態度がツンデレにしか見えない。
もしや本当にツンデレなの? TSU・N・DE・REなのか!?
倒れていたところを助けてもらったために、俺に対して内心淡い恋心を抱いている……なんてこともあるかもしれない。
ばきっ。何か踏んだようで枝の折れる音がした。
「ひいぃっ! ごめんなさいごめんなさい、先輩ならいくらでも食べていいので許してえっ!」
好きな人を生け贄にはしないよね。
うん、俺の勘違い。
「――って、どこいくんだ!?」
物音に驚いた早月は俺の袖を離し、ものすごい勢いで山を駆け下りていった。
――これはまずいぞ。
伊江洲比山も高くはないとはいえ山であることには変わりない。その上この暗さで無闇に動くのは危険すぎる。
「千里眼で探すか?」
我ながらいい案だと思ったが、何も視えない。おいおいマジかよ。
早月の超能力無効化は範囲内にいる人間の能力を使えなくする、という訳ではなくて早月の能力が及ぶ範囲の超能力を受け付けないという性質らしい。
……いよいよやばいぞ。整備されてない道に出れば足場も悪く、大怪我だってするかもしれない。
……考えている場合じゃないな。早く探そう。
たとえ直接早月を視ることができなくたって千里眼にも役に立たないことはない。
千里眼を駆使して、視える範囲と視えない範囲をすり合わせながら早月の居場所に見当をつけていく。
おそらくここら辺のはずだろうと探していくが、早月も移動しているのか簡単には見つからなかった。
……そうだ、千秋に電話しよう。
どうしてこんな簡単なことが思いつかなかったのか。
千秋から早月に連絡してもらって、その場で待つように言ってもらえばいいのだ。
そうと決まれば、と携帯電話を取り出すためにポケットをまさぐるが――
「……ない。どこかに落とした」




