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父は超能力者

 千里眼。テレコグニションとも。

 遠く離れたところを見ることのできる超能力だ。

 これは俺、一宮夏彦の秘めたる能力である。

 生まれた時から使えたわけではないけども、いつの間にか使えるようになっていた。

 超能力が身についたきっかけや理由などはなく本当にたまたま会得したのだ。


 夏穂が俺の娘だと告げられてさして驚かなかったのは、ひとえに自分自身が超能力者であったからである。

 とはいえこの能力、積極的には使いたくない力である。


 いつでもどこでも見れると言えば聞こえはいいが、結局のところ見るまでは分からないのが弱点でもあるのだ。

 気軽な気持ちで使うと見なければ良かったという場面や、見てはいけなかったという場面に少なからず遭遇するのである。


 あれはまだ千里眼の力を手にしたばかりのことだ。

 実験を兼ねて外から自室を覗いた時、幼馴染が俺の部屋のタンスを漁っていた時はぞっとした。

 しかしまあ、恐ろしいトラウマを植え付けられる可能性を除けば便利ではあるのだ。

 例えば、玄関先で自宅にに入る前、家の中に家族がいるかどうかの確認をしたい時とか。


「ダメだ、全員揃って家にいやがる」


 家族一同、揃って帰宅済みである。

 どうするんだよ、これ。


「ふんふふーん」


 当の悩みの種は俺の気苦労など知る由もなく、軽快に鼻歌なんか歌ってる。

 控えめに言ってすげえ殴りたい。


「なあ、夏穂。本当に俺ん家に泊まる気?」

「そりゃあ、行く当てないし。それともお父さんはこんな寒空の下、愛娘を外に投げ出すの?」


 夏穂は目を潤わせてこちらを見上げる。

 右手に握り込まれた目薬が無ければうっかりときめきそうなものだが。


「春だから凍死することはあるまい」

「もう、お父さんったら鬼畜ね。あ、鬼畜な父親ってエロゲーに出演できそうだね!」

「誰だこいつに変な知識仕込んだ奴は!」


 多分俺。


「真面目な話、時間移動できるんだろ? 寝る時だけ帰ればいいんじゃないの?」

「時間移動には制約があって一週間に一回しか使えないんだよ」


 残念そうな口振りとは裏腹に、こいつの表情は明るい。

 まさにデメリットも含めて作戦だと言わんばかりだ。

 まったく抜け目のない奴だ。親の顔が見てみたいよ。

 毎日鏡で見てるけど。


「それにお父さんのことは昼夜を問わず監視してないと何があるか分からないから。女豹たちが常にお父さんの隙を付け狙ってるもの」

「一応聞くけど、女豹たちってお前の母親も含まれてるの?」

「当然でしょ。あの人、所構わずお父さんにベタベタするんだよ。お父さんは私の物なのに!」 


 とんだ親不孝者である。

 母親共々俺の恋愛相手を葬り去ろうというのだから今更だけど。

 何としてもこいつの暴挙を止めねばな。

 とすると、やはり近くに置いておくべきか。


「はあ……腹括るか」


 二階の自室へは家族のくつろぐ居間を通り抜けなければたどり着けない。

 夏穂の存在を隠して部屋に連れ込むのも不可能だ。

 きっと色々言われるんだろうなあ。

 胃が痛い。


「お父さん?」


 しばらく黙り込んでいたせいか、夏穂が覗きこんでくる。

 顔は可愛いのに、頭のネジが二、三本どころじゃなく外れてそうなのがもったいない。


「なんでもない。家に入るぞ」


 ドアが今までになく重い。

 これから一体何が起こるのだろうか。

 でもうじうじと悩んでいてもしょうがないからな。


「ただいま」


 お茶を飲んでいた父が首だけ回してこちらを見る。

 普段と代わり映えない様子だ。


「ああ、おかえ――なっ!?」


 平穏も束の間、父さんは手にした湯のみをひっくり返した。

 床に水たまりができるが父さんは歯牙にもかけない。


「母さん、大変だ! 夏彦が普通の女の子を連れてきた!」

「えっ!? どういうこと」


 続いて母……よりも先に、学校の制服も着替えずにテレビを見ていた妹が反応する。

 妹は茶色に染めたばかりのツインテールをでんでん太鼓のように振り回しながらこちらを向いた。

 夏穂の姿を見て目を丸くする妹。

 そしてざっと立ち上がって歩き出し、俺の目の前で止まる。

 あ、ちょっと、胸倉掴まないでください。

 暴力反対。


「お兄ちゃん、説明して!」

「母さん、赤飯だ! 赤飯を炊け!」

「話は聞かせて貰ったわ。今すぐ準備するわ」


 ……だから連れてきたくなかったんだよ。

 夏穂が居間に顔を見せた瞬間、我が家は一瞬にしてお祭り騒ぎである。

 というか、妹に尋問される筋合いはないと思うんですが。


「まあ、千秋(ちあき)。まずその手を離して落ち着け」

「これが落ち着いていられるか! なんでお兄ちゃんがそんな可愛い女の子と……まさか、誘拐っ!?」


 落ち着けよ。

 我が妹、千秋は思い込みが激しい節があるから平常運転だけど。


「お兄ちゃん、いくらモテないと言っても犯罪はダメだと思うの。私ならいくらでもデートしてあげるから、この子は元いた場所に帰してこよう?」

「捨て犬じゃあねえんだぞ」

「お父さんが望むならペットにでもなるよ!」


 夏穂さん、頼むから話をややこしくしないで。


「お父さん!? パパなの? その年でキャバクラなの!? その上ペットプレイなんて……」

「おーい、千秋ー。戻ってこーい」


 未成年だし。

 パパって呼ばれるほど金持ってないし。


「おかしいなあ。お兄ちゃんの趣向的には今はメイドのはずだけど……そうか、主従関係か!」


 千秋は納得したように手を叩いた。

 俺は納得できないんだけど。

 今すごく聞き捨てならないことを言ってた気がする。

 なんで千秋が俺のトレンドを知ってるんだよ。


「俺が女といるのはそんなにおかしいか」

「だってお兄ちゃんが彼女を作るなんて天文学的確率でしょ?」

「俺が彼女を作るのは運とか確率の話なのか」


 宝くじかなにかかよ。


「とりあえず、ちゃんと説明するからちょっと待っててくれ」


 もち米と小豆を買いに行った母さんが戻るまでな。

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