会議は踊らず。そして進まず。
「ノミヤ、人は集まったか?」
教室に入ってそうそう神田がデカい声で話しかけてきた。
朝っぱらから元気なやつだ。
「ああ。とりあえず夏穂ど千秋と茜は来そうだ。もう一人誘ったんだけどそっちは無理っぽい」
「そうかあ……」
神田は俺の報告に声のトーンを落とした。
なんか落ち込んでいるみたいだ。
「どうした。お前のお望み通り女子ばっかだぞ?」
女として見ていいかは別として。
「チクショウ、このナンパ男め! そのメンバーだと俺を差し置いてお前がハーレム形成する様子が目に見えてるんだよ!」
「じゃあお前が自分で誰か誘えばいいんじゃない?」
そもそも俺は知人友人自体少ないからな。
三人も来てくれることに感謝してほしい。
「いやー、一応クラスメイトとかに声は掛けたんだけどな。どうもみんな乗り気じゃないな」
「クラス替えしたばかりなのに誰に声掛けたんだ? 前のクラスのやつらはほとんどいないけど」
「何言ってんだ、こういう時こそクラスメイトとの交流を深めるチャンスだろ」
「相変わらず行動力はあるなあ」
これだけコミュニケーション能力があれば俺に頼らずとも彼女の一人や二人できそうなもんだが。
神田は顔は悪くない。むしろ、イケてる方だ。
……とするとやっぱ性格だな。分かってたけど。
どうも下心が見え透いてるのが原因だろう。
「あっ、そうそう。クラス替え直後といえば今日はアレがあったな!」
「アレ?」
「昨日の帰りに言ってたろ。ホームルーム聞いてなかったのか?」
「てめえは昨日寝てただろうが」
そりゃあ一時間目から帰りのホームルームまでぐっすりと。
朝どれだけ早く起きようと、昼間ずっと寝てたら本末転倒だ。
でも神田は授業態度が不真面目なくせにテストの点は毎回オールトップなんだよなあ、ムカつくことに。
「委員会決めだよ。俺は去年に続けて放送委員をやるつもりだけどノミヤは?」
神田は俺のツッコミをスルーして話を続ける。
そういえばまだ決めてなかったな、委員会委員。
今週は色々とおったまげる出来事の多い、濃い一週間だったので一ヶ月は経ったような感覚だった。
けれども実際にはまだ進級してまもなく、クラスメイトの顔と名前も一致しないような状態だ。
「俺は今年もパス。なるべく責任は負わないのが俺のポリシーだ」
「そんなポリシー捨てちまえ」
「まあ決まんなかったら考えるかな」
といっても、誰かがやってくれるだろう。
……なんていうのは浅はかな考えな訳で。
高校生といえど所詮はまだ子供だ。
クラスによっても積極的に仕事に参加していくところもあれば、消極的なところだってある。
うちのクラスは典型的な後者で、話がまとまらなければ延々と堂々巡りをするだけだった。
委員会決めの時間、誰も立候補のない役職が残っており、教室には重々しい空気が流れていた。
司会役の学級委員も見るからにイライラしている。
「あと決まってないのは保険委員と図書委員だけど……誰かやってくれる人いませんか?」
先に決めた学級委員の一人である池尻さんが尋ねるも、静まり返るばかりで返事はない。
と、思いきや男子の一人が立候補した。
「はい! じゃあ俺保険委員やります」
「おお、ありがとう。ええと、保険委員の男子は溝口くんね……他は!?」
溝口くんの立候補を受けてもう一人の学級委員が板書をしていく。
それを眺めてた池尻さんは、板書が終わるのと同時に、再度語気を強めながら尋ねた。
あまりの進展の遅さにいらだっているのだろう。
「池尻さん、そろそろ……」
「あ。……わかりました」
担任が池尻さんの肩を叩き、時計を指差した。
見ればホームルームの時間をもう三十分も過ぎている。
「中々決まらないので続きは来週にします。期限は水曜までなので、それまでに決まらないようでしたら私の独断で指名します」
結局委員は決まりきらないまま来週に持ち越された。
「なんだよノミヤ、考えるとか言ってたくせに立候補しなかったじゃねえか! 溝口を見習え」
ホームルームが終わった途端に神田が怒鳴り立てる。
「考えるとは言ったが立候補するとは言ってない。それにどうせ暇なんだから帰りが遅くなろうと関係ないだろ」
「ばっか、ノミヤと一緒にすんなよ。俺は部活があるんだからさあ」
「お前はコンピュータ部だろうが」
何もやってないわけじゃないが、何をやってるのかはよくわからない部だ。
遅刻しようがさしたる問題が発生するようには思えないけど。
「お前、この三十分が俺が天才ハッカーになるかならないかの命運を分けていたらどうするつもりだ!」
「あーはいはい。ありえないから大丈夫」
たったの三十分で人生が変わってたまるかってんだ。
ましてやここのコンピュータ部ならなおさらだ。
「クソおおお! 適当に返事しやがって。明日は覚えてろよ!」
「は?」
「貴様のはべらせてる女三人全員俺が奪ってやる!」
「ぜひお願いします!」
奪えるもんなら奪ってください。
「私は奪われる気はないよー」
神田の声はでかくて聞こえていたのか、夏穂の声が飛んでくる。
本当、簡単に奪われてくれるくらいなら苦労はしてないんだよ。




