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妹は発情期

 変質者を家の前からどけて帰宅したあとは自室にこもって静かに過ごせるというものだ。

 そうだ、どこぞのストーカーが覗いてるやもしれんからカーテンを閉めておかねば。

 我ながらセンスのいいと思う黒を基調としたシックなデザインのカーテンを閉めて、改めてイスに座り直す。

 夏穂は一階で母さんと雑談にふけこんでいるし、今俺のプライベートを邪魔する者は誰もいな――ガチャリ。


 安心したと同時に下の方から聞こえた音は帰ってきた千秋が玄関のドアを開けた音か。

 で、このドタドタと落ち着きのないのは階段を駆け上がる音。

 そして今、バタンと間近で聞こえた音は――


「ただいま!」


 ――千秋が俺の部屋のドアを開けた音だ。


「帰ってきたら手を洗え。階段は走るな。部屋に入るときはノックしろ」

「お兄ちゃんったら冷たい!」

「一般常識だろ」


 当たり前のことを言っただけでなぜ非難されなきゃならないんだ。


「あ! ごめん、もしかして自家発電中だった?」

「なあ、茜と打ち合わせしてるわけじゃないよな?」


 ……揃いもそろって俺の周りの女は。


「それはそうと兄上! 愚妹千秋と共にエロゲーに興じましょうぞ!」

「本当に愚かだな」


 妹がこんな頭のおかしい子に育ってお兄ちゃん悲しい。


「というかなんだその口調は」

「前にお兄ちゃんが時代劇みたいなこと言ってたから好きなのかと思って」


 そんなこともあったかもしれないがあまりにも直結な考えだな。

 たくましい妄想癖は通常運転のようだ。

 ちょっとときめいたのは秘密だが。


「俺が時代劇が好きだとしてもエロゲーはやらないから」

「まあまあ、そう言わずに。今日はあの名作と名高い『こいのこゝろ』を持ってきたんだよ」


 ほら、と千秋がエロゲー特有の大きな箱を見せつける。

 FFSフリーフライソフト信者の俺は他メーカーのゲームは詳しくないから名作とか言われても困る。


「って、お前その箱どっから出した!? 自分の部屋にも寄らずここに来ただろう」

「ん? あー、ア○ゾンで注文してたやつが今日届いて玄関に置いてあったんだよ。お母さんが代わりに受け取ってくれたみたい」


 受けとんなよ。

 母親が娘の健全な成長を率先して阻害してどうする。


「で、やるの? やらないの?」


 なんだそのしょうがなく付き合ってあげてるみたい言い方は。

 別に俺がエロゲーやりたいわけじゃないからね。


「やりません。さっさと手を洗ってきなさい」

「えー、下宿宿の一人息子となって下宿人の先生とその友人Kという二人の美少女に言い寄られるという神シチュなのにー?」

「夏目漱石に謝れ」


 とうとうエロゲー業界は高尚な文学作品にもその毒牙を伸ばしたか。


「へ? どうしていきなり夏目漱石?」

「国語の教科書でも読んでろ」


 勉強するのは二年生だもんね、こゝろ。

 ただ日本を代表する文学作品のあらすじくらい知っておいてもいいんじゃないかな。


「活字を見るとアレルギーでじんましんが!」


 千秋に期待した俺が馬鹿だった。


「そうか。じゃあ千秋の部屋にある漫画やライトノベルは俺が処分しておこう」

「やめてよ! この鬼兄!」

「でもアレルギーならアナフィラキシーショックが起こるといけないだろ?」

「あなふぃら……ってなに? なんかのプレイ? それとも隠語? なんとなく語感がひわいだね」

「ひわいなのはお前の頭の中だ」


 妹が思春期……というよりは単にエロゲーのやりすぎだな。うん。


「お兄ちゃんって脳姦が好きだったの!? さすがの私もそれには付き合えないかなあ……」

「もうお前出てって!」


 これ以上俺に誤った人物評を付け加えないでください。


「何だよお兄ちゃんのいけずー」


 千秋は不満を垂れながらも部屋を出ようとする。

 だが千秋になんだか甩があった気がするなあ。

 あ、そうだ。


「待て、千秋」

「ほえ?」


 俺が呼び止めると千秋は間の抜けた声を出しながら振り向いた。


「明後日、神田に肝試しに誘われたんだが千秋も来るか?」

「肝試しかあ……うん、面白いかも」


 千秋がまたいつもの妄想癖をこじらせている気がする。

 俺が誘った手前やっぱなしとはできないけども、こいつを連れて行って変なことしないだろうか。

 変なことなら間違いなく言うだろうけど。


「来るのか?」

「もろちん! まちがった、もちろん!」

「またベタな間違いを……」


 こいつはしゃべると下ネタが出る病気なのだろうか。

 外に出すときは口を縫い合わせておきたいほどだ。ミシンでしっかりと。

 むしろ夏穂にお願いして性的な知識を消してもらおうか。……うん、それがいいな。

 あとで頼んでおこう。

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