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旧友? 仇敵

 柳生に丸子新と呼ばれた男は、背丈は俺と同じくらい、年もそう変わらないだろう。どこにでもいそうな取るに足らない男、といった印象を受ける。

 そんな凡夫然とする男は、にやと粘っこい笑みを湛えていた。


「ヤギちゃん、久しぶり! 五年ぶりくらいだっけ? いやあ、美人になったじゃない」


 丸子は馴れ馴れしくも柳生の肩に手を回す。

 仲の良い友人なのかと思ったが、柳生の表情から察するに違うらしい。居心地が悪そうだ。

 柳生の気分を害すとは、丸子はなんとも恐れ知らずだ。柳生が元暴走族ということを知らないのだろうか。


「どうしててめえがこんなとこに」

「あれぇ、しばらく見ないうちに粗暴な喋り方するようになったんだねえ。俺にそんな口聞いていいんだっけ?」


 お前こそそんな口聞いて大丈夫か? と、心の中でツッコむも、柳生は丸子に対し何もしない。


「うっ……ごめん」


 それどころか、自分の方から謝る始末だった。


「ま、いいけどさ。俺は観光だよ。なんでもこの辺に心霊スポットがあるらしくて。伊江洲比山……とか行ったっけ? そこに肝試しにきたんだよ。小学生時代の友達と同窓会も兼ねてね。クラスメイトのよしみだ、ヤギちゃんも一緒にどうよ」

「それは……」


 柳生は丸子の誘いを迷惑そうにしているが、どうにも歯切れが悪くて断りの言葉がでない。


「そうそう、なんでもその山奥にマジで出るっていう廃屋があるらしくて、滅多に人が寄りつかないんだとよ。どうせ眉唾だろうけどな。……ところで俺さあ、ヤギちゃんがこんな美人になるとは思わなくてさ、今日は小学生の時を反省して優しく可愛がってあげようと思うんだよ。まさか断ったりしないよね?」

「えっと……」


 そう言う丸子は下卑た笑みを浮かべている。

 可愛がるというのは言葉通りの意味じゃないだろう。

 こんな男の誘いに乗る必要ないとは思うが、柳生は口ごもるだけだ。何か反抗できない理由でもあるのか。

 仕方がない。助け舟を出すか。


「やめといた方がいいぞ。あそこの心霊現象、本物だから。噂じゃそこで自殺した少女の仕業らしくてな。男女で肝試しなんてリア充みたいな真似したら、きっと嫉妬でたたられるぞ」


 ……あれ? もしかしてこの理屈だと俺も祟られてる? まあ、たぶん大丈夫だろう。

 俺が丸子の前に立つと、丸子は怪訝な目を向けてきた。


「あ? 誰だよあんた」

「俺のことはどうでもいいんだよ。それより人のツレをなんの断りもなく誘うなんて、ちょっと勝手がすぎんじゃなねえの?」

「もしかしてヤギちゃんの男か? おすすめしないよ、こいつ何の面白みもない女だからさ」


 その面白みのない女を連れて行こうとしているのはどこのどいつだよ。すげえムカつくなこいつ。絶対に友達にはなれないタイプた。


「そっちこそ、柳生と遊ぶなんて火傷するかもよ。小学生の頃どうだったかは知らねえけど、こいつは今や暴走族の名誉総長だ。無人の廃屋なんかに連れ込んだ日にゃ、いつの間にか病院のベッドで寝てるかもしれねえよ」

「はっ! ヤギちゃんが暴走族? そりゃ傑作だ。ヤギはヤギらしくメェメェ鳴いときゃいいものを。族だろうとなんだろうとたかが一人。こっちにゃ族なんかよりよっぽど怖ーい先輩方だって一緒に来てるんだ。あんたも怪我したくなかったらヤギちゃんを置いて帰んな」

「嫌だね。柳生は今日は俺と遊びに来てんだよ」

「そうかよ、じゃあ仕方ねえ。痛い目見てもらうしかないようだな」


 丸子は口での説得が不可能と見るや、ズボンのポケットからサバイバルナイフを取り出した

 やべえこいつ、頭おかしい。

 しかしナイフか。負けない自信はあるといえやっぱびびるよなあ。

 いやしかし、お互いのためにもここは一旦冷静になるべきだ。


「ちょっと待って。話し合おう」

「今更おせえよ! あんたが悪いんだかんな」


 違うんだって。俺は君の為を思って言ってるんだ。

 そんな俺の思いも届かず、ナイフ片手に丸子は向かってくる。

 あーあ、どうなっても知んねえぞ。


「オラァ――っぅあ!?」

「夏彦くんに何向けてんの!」


 丸子が腕を振りかぶったと同時、丸子の上から飛来した何かによって彼はのされてしまった。茜の飛び蹴りだった。

 ほら言わんこっちゃない。


「ふぅ。夏彦くん、無事だね」

「おう。助かったよ」

「もっと褒めて!」


 俺の安否確認をしに近寄ってくる茜。

 俺が茜を労うために頭をなでると、おかわりを要求された。この欲張りさんめ。

 まあ助かったから褒めるくらいはいいだろう。


「さすが茜だ。いい幼馴染を持ったよ。でもストーカーはやめてね」

「えへへぇー」


 茜は俺に褒められたのがそんなに嬉しいのか、だらしなく顔を緩めた。

 こいつ、最後の注意聞いてねえな。


「……で、こいつの処遇はどうする?」


 茜は満足すると、今度は倒れている丸子に目を移した。


「夏彦くんにナイフ向けるとか、万死に値するよね。上泉流拷問術で生き地獄を与え続けてみる?」

「やめい」


 お前んちの武芸書に載ってたの読んだことあるけど、殺されるより残酷だったぞ。

 さすがのこいつもあれをされるほどの罪は犯してないと思う。


「丸子は放っておいていいよ。それより柳生だ」


 丸子が片付いたところで柳生を見ると、柳生は声にもならない嗚咽を漏らしながら震えていた。

 明らかに普通じゃない。


「うーん……私、今の柳生さんと同じような状態の人を見たことあるけど、これはたぶん過去のトラウマかなんかがフラッシュバックしてるんじゃないかな?」

「トラウマ? なんとかならないのか?」

「まずはトラウマの元を知らないことにはどうにも」

「なら茜はうってつけじゃないか。サイコメトリーで柳生の過去を見てみたらどうだ?」

「人のプライベートに土足で踏み入るのはいい趣味とは言えないよね」

「どの口が言うか」


 人のこと散々ストーキングしまくってる人間とは思えない理由で中長期的しやがって。

 けど、確かに無許可で人の過去を覗き見るのはよくない。

 別の方法を考えるか。


「まあ、夏彦くんの頼みなら聞くけどね。サイコメトリー行っきまーす」

「やんのかよ!」


 せっかく俺の良心が働いたというのに、茜は止める間もなく柳生に手を当てた。

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