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狂気のストーカー大魔王茜

「そういえばさあ、夏穂は俺が拉致られたとき慌ててタイムスリップしなくても一週間待てばよかったんじゃね?」


 家路をたどりながら、ふと沸いた疑問を隣を歩く夏穂に投げかける。


「あの時は焦ってて……それに時間が経てば経つほど正確な時空に移動はできなくなるから。それこそ一年とかの移動だと座標がアメリカにずれてもおかしくないからね」

「ふーん。大変なんだなタイムスリップ……も……? ……なんだ、あれ」


 今日も今日とて授業を終えて、夏穂とともに帰ってみれば、玄関前には変質者。


「……なにやってんの? 茜」


 見間違いじゃなければ俺んちのドアノブを、スティックキャンディでも舐めるかのように必死にしゃぶっているように見えるんだけど。


「夏彦くんの記憶を共有しようと思って……」

「そういうこと聞いてんじゃねえ! 昨日の今日でストーカーとはいい根性してんなあ!?」


 ここまで来ると怒りを通り越して呆れてしまいそうだ。


「だって夏彦くんが言ったんだよ? もっと堂々としていいって。私、後ろめたい気持ちで夏彦くんをつけまわしてたからダメだったんだって目が覚めたの。だからこれからは堂々とストーカーするね?」


 俺の幼馴染の思考回路がマジで頭おかしい。


「ねえ、お父さん。やっぱりこの人だけは本気で殺処分したほうがいいと思うの」


 夏穂が汚物を見るような目で膝立ちでドアノブをくわえた茜を見下ろしている。


「……俺もそんな気がしてきた。だが夏穂。お前がこの変質者のためにせっかくの綺麗な手を汚す必要はないんだぞ」


 夏穂を犯罪者にしないためにもあとで警察に被害届を出しておこう。


「ぶー。なにさ、イチャコラしちゃってさ」

「お前はぶー垂れる前に自分の行動を(かえり)みてみろ」


 世界のどこに自宅のドアノブを舐め回す変態ストーカーとイチャコラしたいと思う男がいるというのだろうか。


「まあそれは置いといて」

「置いとくのかよ」


 お前が始めた話だぞ。


「夏彦くんは何か私に言いたいことあるんじゃないかな?」

「ない」


 少なくとも茜に話すような話はないです。


「断言!? 夏彦くんたら照れちゃってー」


 この、このー、と茜が肘で小突いてくる。

 ……こそこそとしたストーカーと堂々としたストーカーってどっちがよりうっとうしいんだろうね。


「まじで思い当たることがないんだけど」

「あのね、夏彦くん。もう知ってると思うけど私はサイコメトリーっていう超能力が使えるの」

「ああ。ストーカーにふさわしい気持ち悪い能力だな」


 茜は俺の罵声をなかったかのように無視して話を続けた。


「でね、空間には空気があるからそこから夏彦くんの記憶が流れ込んでくるんだよ。といっても思念が霧散しててぼんやりとなんだけどね」

「うわっ、面倒くさっ」


 強制記憶開示モードですか。

 俺にプライバシーはないの?


「お父さん……私、110番に電話してくるね」

「可及的速やかに頼む」

「わっ、ごめんなさい! もうドアノブぺろぺろしたり、夏彦くんの家に不法侵入したり、干してあるパンツ盗んで食べたり、注射器でおやつに唾液混入したりしないから許して!」


 わお。茜の自白によって余罪が次々と明らかに。

 しかも内容が想像以上にひどい。


「……もう何も信じられない」


 今日からもうおやつも食べられないなんて家に帰ったときの楽しみが減るじゃないか。


「でもわかったよね。私から隠し事をしようなんて無理なんだから! 何かを隠してるいることは確実に伝わるんだよ」

「チッ、しょうがない。神田から肝試しに行こうと誘われたんだよ。で、他にも参加者を探してるわけだ……茜以外で」

「お父さん、私も! 私も行く!」


 夏穂が手を大きく上げてぴょんぴょん跳ねる。かわいい。


「夏穂は元から連れて行く予定だったから……ん?」


 肩に温かさを感じたと思えば、いつの間にか茜の手が置かれてたいた。

 音もなく近づくなんて忍者怖い。


「ふむふむ……待ち合わせは明後日、土曜日の午後六時、伊江洲比高校校門だね。ちゃんと遅刻しないで行くよ!」

「勝手に人の記憶読まないで」

「自家発電の回数はもう少し減らした方がいいかなあ……私のためにも」

「殴るぞ、グーで」

「わわっ、冗談だよっ!」


 茜は両手の手のひらをこちらへ向けて後ずさる。

 冗談で人の性事情を暴露しないでいただきたい。


「と、とにかくっ! 明後日は私も必ず行くからね!」

「おう、三時間ほど遅れてきて構わないぞ」

「置いてく気満々だね!? ぜったい間違えないから。待ち合わせ時間変えても無駄なんだからね! 全部わかっちゃうんだから」

「わかったからさっさと帰れ。俺が家に入れん」


 ドア開けた瞬間に忍者持ち前の俊敏さで忍び込まれたら敵わなんからな。


「はーい」


 茜は不満そうに返事した。


「しょうがないから部屋から望遠鏡で観察するだけで我慢するよ」

「怖いからやめて」


 ストーカーな幼馴染に望遠鏡で自室を観察されるとかどっかの漫画で見たような設定だな。

 夜間には暗視ゴーグルで尾行とかし始めたりしないでね。

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