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ゲームセンターのアイドル

 放課後、柳生を教室まで迎えに行き、合流していたところで事前に決めていた目的地に向かった。

 そして目的地に到着すると、建物を前に柳生は平坦な声色で呟いた。


「ゲーセンか」

「嫌だったか?」

「嫌じゃねえけど、どうしてここなんだ?」

「やっぱり不良の遊び場と言えばゲームセンターかなと」


 今でこそゲーセンの利用者がオタクが大多数を占めるようになったが、ドラマやゲームでヤンキー物を見ているとやはり不良はゲーセンにたむろしていることが多い。

 だから連れてきたのだが、なんだかウケが悪そうだ。


「なんだその古臭いイメージ」

「違うの? じゃあどこで遊ぶんだ?」

「アタシはもっぱらビリヤードだな」

「似たようなもんじゃねえか!」


 ゲーセンによってはビリヤード台やダーツ台が置いてあるところもあるからね。

 ゲーセンの仲間だよね。


「全然ちげえし。あれ結構汗かくんだぞ。スポーツだよありゃ。不健康なビデオゲームと一緒にすんじゃねえ」


 ビリヤードがスポーツと言われても激しく動く訳じゃないしイメージ湧かないなあ。

 あ、でもボウリングも運動不足だと一ゲームやるだけできついし、それと同じなのかもしれない。

 確かにそれに比べればゲームは不健康だろうが、俺の好きなものをただバカにされるのは納得がいかないので一応反論してみる。


「汗ならゲームでもかくぞ。……手汗だけど」

「そうかよ。なんでもいいけど行くならさっさと行こうぜ」


 柳生はため息をついて、俺の反論をさらりと流した。

 あれ、なんだか呆れられてる?


 ゲームセンターの中に入ると、いつもより狭く感じた。

 平日の伊江洲比にあるゲームセンターには珍しく、人が多いのだ。何かあったのだろうか。

 もっとも、柳生はそんなこと意に介さずに進んでいく。


「柳生。やけに迷いなく歩いているけど、どこ行くか決まってんのか」

「ああ。さっきはああ言ったけどよ、アタシもたまに来るからな、ゲーセン。やっぱアタシが好きなのは『グレートフィスト』だな」

「『グレートフィスト』か。コンシューマ版なら何作か家にあるけど、ゲーセンではあんまやんねえなあ」


『グレートフィスト』は格ゲー黎明期から続く、格闘ゲームのロングセラータイトルで、現在稼働している最新機種は十五作目となる。

 シンプルなシステムゆえにアップデートによる操作感が変わることは少ないというのが根強い人気の一因だろう。

 俺としてはコンシューマ版で早月に手も足も出なかったことが記憶に新しい。


 そんな『グレートフィスト』だが、根強い人気といえどゲーセン離れの加速する昨今、ましてやこの伊江洲比のゲームセンターではたまに一人二人がプレイしている程度だ。

 しかし、今日には限っては様子が違う。


「なんだ、あの人だかり……」


『グレートフィスト』の筐体を取り囲むゲーマーを目にした柳生がドン引きしている。


「確かにありゃ異常だな。何があったんだ」


 俺が何気なく呟くと、近くにいたゲーマーの一人が寄ってきた。


「おや、ご存知ない? 今日はなんとあの鬼神may.Tが来店しているんですよ! 何気なくSNSを見ていたら情報が回ってきて、私もおっとり刀で駆けつけた次第で。あなた方もあの神プレイを是非ご覧になるべきです」


 そいつは聞いてもいないのに早口で説明してくる。

 けど確かにあれだけの人だかりを作るほどの名プレイヤーともなれば気になるので、俺は密に並んだ頭を避けるように背伸びしてプレイ画面を覗き込んだ。


「なんだあれキメえ……」


 画面に映っていたのは、『グレートフィスト』における最弱と呼ばれたキャラクターが、ぶっ壊れ、公式チートなどと呼ばれた最強キャラクターを一方的に嬲っている姿だった。

 しかもそんな最弱キャラは気持ち悪い動きでコンボを繋げて相手を追い込んでいく。


「なるほど、あれでコンボ繋がんのか!」

「may.T、相変わらずつええ」

「おい、対戦してんのってskyだろ? あのskyがこうも一方的にやられるなんて」


 観戦者は口々にmay.Tを賞賛する。

 どうやら最弱キャラを操作しているのがmay.Tらしい。


「おい、ナツ!」


 思わずmay.Tとやらのプレイに見入っていたら、柳生に袖を引っ張られた。

 そうだ、遊びに来たんだった。

 当初の目的を忘れるところだったぜ。


「悪い。ほら、台空いてるぞ?」

「できるか、こんなところで!」


 キレられた。

 柳生さんは多勢に見られながらのプレイはお気に召さないらしい。

 しかし、俺達の会話を周囲の人たちは勘違いしたようだ。


「お、次はそこの姉ちゃんが挑戦すんのか!」

「やってけ、やってけ! may.Tと対戦できる機会なんて滅多にないぞ」


 先ほどまで対戦していたskyというのは負けたみたいだ。

 柳生をmay.Tとの対戦志願者と誤認した観戦者たちが彼女の背中を押す。


「あ!? ちょっ、やめろって!」


 柳生は抵抗するも多勢に無勢、流されるままに席につかされた。


「なんでアタシがこんな目に……」


 もはやプレイを断れる雰囲気ではない。

 柳生は渋々コインを投入し、may.Tとの対戦が始まった。

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