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柳生エイリスの苛立ち

「助けていただき恐悦至極です! ありがとうございます」


 カツアゲにあっていた少女は柳生と俺に頭を下げた。

 かと思えば、すぐに目を輝かせながら顔を上げる。


「よもやお二方のような有名人に顔を合わすことができ、この剣京子、感激の極みです!」

「剣京子……あ、体育祭の時にふざけた実況してた一年か」


 どうりで聞き覚えがあると思ったら。

 あの不良共を擁護する気はないが、いじめられるのも当然と思うほどの腹が立つ低姿勢な口調で話していたあの。


「さすがは鬼畜王と呼ばれる一宮先輩だけあって手厳しい。小生、ふざけていたつもりはないのですが……」

「うん、それはいいんだけどさ、鬼畜王っていうのやめてくんない? なに、俺ってそんな有名なの?」

「それはもう! あのエンジェリックマーダーの二つ名を持つ一宮千秋さんのお兄さんともなれば話題もひっきりなしですから」

「エンジェリックマーダーって何!?」


 千秋ちゃん、いつの間にそんな物騒な二つ名で呼ばれるようになったのよ。

 お兄ちゃん、心配で胃に穴が開きそうだよ。


「二つ名といえば銀麗の凶刃、華羅滅理是名誉総長の柳生エイリス先輩! 柳生先輩の一喝もお見事でしたね」

「あ? てめえはカタギだろ。どうしてアタシのこと知ってやがる」

「手前味噌ながら小生、そこそこの情報通でして」


 柳生は鋭く睨みつけたが、剣は臆するどころか照れながら答えた。

 柳生を元暴走族と知りながら娘の態度、肝がすわっているのか。


「何はともあれ本当に助かりました」

「チッ、あいつらが気に食わなかっただけだ。勘違いすんじゃねえ。ついでに言わせりゃてめえのヘコヘコした態度も気に入らねえ。んなんだからいじめられんだ」

「いじめ? 小生はただ今月のお友達料金を請求されていただけですが。彼らは嫌われ者の小生と話してくれる稀有な方々ですからね。今日はすかんぴんで困っていました」

「いやそれをいじめって言うんじゃ……」


 俺は思わずツッコんだ。

 ひょっとしてこの子、肝がすわっているというよりはただのバカなんじゃ……。


「チッ、やってらんねえ。ナツ、行こうぜ」


 剣の脳天気加減に柳生も愛想を尽かしたか、俺に声を掛けて出ていこうとした。

 ていうか、俺のこと気づいてたのね。よかった。

 柳生があまりにも俺のことをノータッチで話進めてくからてっきり……って、柳生さん、歩くの早いです。


「おい、柳生! 待てって。……えっと剣とやら。君はもうちょっと堂々とした態度でいた方がいいと思うぞ?」

「は、はあ」

「じゃ、またな。……おーい、柳生!」


 俺はぽかんとする剣を置いて、柳生の後を追った。


 ***


 俺と柳生は二年の教室群がある新校舎、南棟三階へ向かう。

 柳生は若干早足に歩を進めていた。


「なんだか不機嫌だな」


 いやまあ、柳生がご機嫌な様子なんか見たこともないが、今の柳生はまるで初めて会った時のようなトゲトゲしさが感じられる。


「ちょっと、嫌なこと思い出してな」

「さっきのことと関係が?」

「ないこともないな」

「意外だったよ。俺のイメージじゃあ柳生は加害者側かと」


 我ながら失礼な物言いである。

 でも俺の不良のイメージなんてそんなものだ。

 だからだろうか、あの不良どもをたった一声で散らした時には結構格好良かった。


「てめえはアタシを何だと思ってやがる!?」


 当然、柳生は俺の気持ちなどわからないので烈火のごとく怒る。怖い。


「だ、だって元暴走族だろ?」

「ぐっ、そうだけどよ……。そりゃあ族なんか演ってりゃあチーム間での抗争はあったし荒っぽいこともやったが、アタシはパンピーに手ぇ上げたことは一度もねえぞ」

「そうか」

「ああ」


 そこで会話が途切れる。

 なんだか気まずい。

 どうせ教室はすぐそこだし、また会う時には今日のことは忘れているだろう。

 だから本来ならば柳生の傷をえぐるような突っ込んだ真似はすべきじゃないのかもしれない。

 だが――


「なあ、放課後どっかに遊びに行かないか?」


 このままにしていたらなんだか嫌な予感がする。

 俺の悪い予感はよく当たるんだ。


「は?」

「ほら、嫌なことがあって気分が悪いってんなら、ぱーっと遊べばすぐに忘れられるだろ」


 もし柳生が放課後には朝のことなど忘れていたら、むしろ思い出させるようで余計な提案だが。

 しかし、柳生の心配は別のところにあったらしい。


「二人きりでか? ナツの彼女が怒るんじゃねえか?」

「あっ……多分、大丈夫……なはず。早月は部活で忙しいと思うし」


 不安なのは陰で聞き耳を立てている茜が俺と早月の仲を裂こうと密告することだが、あとで俺の私物でも握らせて口止めすれば大丈夫だろう。

 本当はすごい気持ち悪いのでやりたくないけど。

 まったく、柳生は俺と早月の仲を心配してくれるのに夏穂や茜ときたら、この差はなんだろうか。


「そういうことなら……よろしく頼む」

「よし、じゃあまた放課後」

「お、おう」


 柳生と放課後のデート(?)の約束を取り付けたところで、丁度2-Aの教室前まで来たので俺は柳生と別れた。

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