ベタなイベント
登場人物紹介を作りました。↓
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彼女ができた。もう数日前のことである。
早月と千秋が喧嘩を始め、そのどさくさ紛れに早月から告白されたのでオッケーした。
恋人になったからって、あの後は何もなかったけどね。
早月は部屋を盗聴されているとわかってなお、いかがわしい行為に及ぼうとするほど恥知らずではないらしい。
つーか、盗聴どころか盗撮されてる可能性があるんだよな。
あのまま千秋が乱入してこずに事に及んでいれば、一部始終の記録が後世にまで残ってしまう可能性すらあったかもしれない。
あぶない、あぶない。
とにもかくにも、とうとうこの俺にも春がやってきたのだ。
…………ふう。
よっしゃああああ!
彼女だってよ、これが喜ばずにいられるかってんだ。
神田に先を越された時はショックを受けたが、今や俺もリア充の仲間入りである。
そして、この彼女がまたかわいいのなんの、って。
今朝も学校に着いて早々メールが来たかと思えば、『お昼ごはん一緒に食べませんか? 中庭で待ってます』だとよ。
萌え死にそう。
てなわけで昼、俺は呼び出しに応じて中庭へとやってきた。
早月はすでにベンチに座って待っている。
「おっす」
「先輩、こんにちは。……って、またコロッケパンですか。健康に悪いですよ?」
早月は俺の手元に目をやると、げんなりと息を吐いた。
「いいだろ別に。好きなんだから」
「よくありません。先輩が油の摂りすぎで太ったら一緒にいる私まで恥ずかしいです。だから今日はそんな不摂生な先輩のために私がお弁当を作ってきました」
「おお、マジか!」
早月の手作り弁当は前にも食べたことがあるが、かなり美味かったので期待できる。
それにこういうの恋人っぽくて、端的に言えばすごく、いい。
「か、勘違いしないでくださいね! これはか、彼氏である先輩の見た目が悪いと私が恥をかくので、自分のためにやっていることですから! 別に、先輩に喜んでもらいたくて作ってきたとかじゃありませんから!」
手作り弁当を持参したことに対して照れ隠しか弁明をする早月に、恋人同士なんだから素直になればいいのにと呆れつつも、俺は早月の頭をなでた。
「おう、それでも嬉しい。ありがとな」
「そういうのいいですから、さっさと食べてください」
早月は頭に置かれた手を払いのけ、ぷいと顔を逸らした。
この恥ずかしがり屋さんめ!
とりあえずさっさと食べてと言われて、俺は弁当を受け取った。
中身を見てみると、メニューは玉子焼きやハンバーグといったオーソドックスでありながら男心をガッチリと掴むような内容だった。
主張しすぎない程度にほうれん草やプチトマトが添えられていて彩りのバランスもいい。
以前もらった時よりも手が込んでいるように見えるのは、恋人だから気合を入れてくれたのだろうか。
それにしても意外にも、と言っちゃあ失礼だが早月って女子力高いよね。
「うん、美味い」
さっそくハンバーグを食べ、率直な感想を述べる。
早月の作った弁当は相も変わらず美味だ。
「そうですか」
素っ気ない返事とは裏腹に、早月の頬はだらしなく緩みきっている。
「ああ。だから早月も早く弁当食えよ。ちゃんと食わねえとまたぶっ倒れるぞ?」
このまま褒め殺しにして早月をからかうのも楽しそうだったが、歯止めが利かなくなりそうなのでやめといた。
代わりに、早く昼飯を食べるよう促す。
「そうですね。では、いただきます」
早月は弁当を前にして礼儀正しく手を合わせる。
そうして、俺たちは隣り合って昼食を始めた。
ああ、なんて平和な……こんな時間が永遠に続けばいいのに。
そうだ、平和といえば。
「ところで早月。今日変わったことはなかったか?」
今、早月が無事であるのを鑑みるに危険なことはなかったようだが、そろそろバカどもが何らかのアクションを起こす頃だろう。
部屋を盗聴していた夏穂はもちろんのこと、茜や愛歌に早月との交際がバレてると考えて間違いはないだろう。
どうなってやがる、俺のプライバシーは。
あとは……今日、文乃が俺のことを何度もチラ見していたが、誰かから何か聞いたのだろうか。
まあ文乃に関しては知られても害がないだろう。
だとしても、付き合い始めてから数日、ましてや手の出しやすい学校で早月の身に何かが起こってもおかしくない。
「変わったことですか。特には何も……あ! そういえば千秋に宣戦布告されました」
「宣戦布告? なんだそりゃ」
千秋といえばここのところ気の抜けたような顔をしてたかと思えば、それまで元気がなかったのが嘘のように意気揚々と学校に向かって行ったが。
「千秋いわく、『お兄ちゃんがさっちゃんに篭絡されたのは一時の気の迷いだから。お兄ちゃんの心は私が絶対取り戻すから覚悟して!』だとか」
「相変わらず都合がいいなあ、千秋の頭は。たとえ早月と別れたとしても千秋とは百パー恋仲になんかならないのに」
「別れるんですか?」
「あ、悪い。ただのものの例えだよ。だからそんな顔すんなって」
俺の失言のせいで早月は表情を暗くしたので、慌てて取り繕う。
「まったく先輩は……。これは冗談でも私と別れるなんて言わないように、もっと先輩の心を私に釘付けにしないといけませんね」
「じゃあ仲を深める意味でデートでもするか」
「いいですね、それ! 採用です!」
早月は俺の提案に目を輝かせる。
「じゃあ日程はどうしようか。どうせなら早いほうがいいだろ。どっか空いてる日あるか?」
俺はスマホのカレンダーを早月に見せながら尋ねた。
すると、早月は何かを思い出したようにはっとする。
「すみません、私かなり先まで予定埋まっちゃってます。少し前からバイト始めたんですけど、こんなことになるとは思ってなくて限界までシフト入れちゃったんです」
「へえ。どんなバイト?」
「えっと、秘密です!」
早月がバイトとは初耳だったので気になったのだが、早月は何をやってるか教えてくれない。
これは怪しい。
根掘り葉掘り聞き出したい衝動に駆られたが、早月は俺の本棚への追及をしなかったことを思い出し、俺もこれ以上は深く聞かないことにした。
それはそうとデートである。
休日に二人きりでまったり、といかないのは残念だが、他にいくらでもやりようはある。
「まあ、それならしょうがない。けどさ、休みの日でなくともデートにぴったりなイベントが迫ってるよな?」
「それって、もしかして!」
俺の発言に早月も察しがついたようだ。
「文化祭、一緒に回ろうぜ」
「はい!」
早月は二つ返事で了承し、文化祭でデートをすることになった。




