サツバツ・ダイニング
早月にゲームで虐げられて溜まりに溜まったフラストレーション。
これを解消するにはメシをたらふく食って幸せな気分に浸るに限るね。
満腹は人間にとって最上級の幸せである。
俺は意気揚々と食卓に着いたのだが。
「母さん、今日はめでたいことでもあった?」
俺は卓上の赤飯を前に、尋ねずにはいられなかった。
もちろん、何もなければ赤飯を食べてはいけないなんてルールはない。
が、我が家は両親ともども縁起を担ぐのには積極的だ。
であれば、今日の献立に赤飯が登場したのも何らかの理由があってしかるべきだろう。
どうせろくなことじゃない気がするけど。
「そんなの決まってるじゃない。夏彦がまた可愛い女の子を家に連れ込んで……あなたの未来のお嫁さん候補が増えるのはいいことだわ。なんなら今すぐにでも孫の顔を見せてくれてもいいのよ?」
「お、お、お嫁さんだなんて、私と先輩はそんな関係じゃありませんよ!?」
母さんのたちの悪い冗談に、俺の隣に座っていた早月は顔を真っ赤にして否定する。ポニーテールを左右に激しく振って、さながら暴れ馬だ。
すごい慌てようだが、そんなあからさまな反応したら母さんはもっと悪ノリするだろうなあ……。
「先輩だなんて、夏彦あなた帰宅部じゃなかったかしら? どうやってこんな可愛いお嬢さんをたぶらかしたのよ」
「たぶらかしたって……早月は千秋の友達だよ」
「茜ちゃんといい、夏穂ちゃんといい、夏彦も隅に置けないなあ。まるで若い頃の俺を見ているようだ」
俺の説明などなかったかのように、父さんと母さんは話を続ける。
人の話聞けよ。
「お父さんが若い頃はたくさんの女の子に言い寄られてたものね。おかげで邪魔者を排除するのに手間取ったわ……」
気のせいだろうか、一瞬背筋が凍りついたような。
今まで俺の両親はただのバカップルだと思っていたけど、勘が正しければ深い闇がある気がする。
が、藪蛇にはなりたくないので、忘れることにしよう。
「そういう母さんだって大学時代はミスコンで優勝していたじゃないか。まあ母さんの美貌は今なお衰えていないがな!」
一方で、父さんは俺の気も知らず脳天気に笑い声を上げている。
「お父さんったら口が上手いんだから。うふふ」
「はっはっは」
いつの間にか俺たちを差し置いていい雰囲気になっているバカ二人。
こんな両親を早月に見られてなんだか情けない気分になるぜ。
「先輩、先輩のご両親っていつもあんな感じなんですか?」
「お恥ずかしながら」
早月は可哀想な物を見るような視線を我が父母に送りながら耳打ちしてくる。
毎日のようにこんな惚気け合いの応酬を見せられている俺は、否定したくても出来ずにいたたまれない気持ちになった。
「ぐぬぬ、さっちゃんが私の指定席を奪った挙句、お兄ちゃんとあんな仲良さげに……夏穂ちゃんはこのままでいいの!?」
「いいか悪いかで言えば、いい訳ありませんが、さすがにここで刀傷沙汰は起こせませんから。いくら叔母さんの頼みでもこの場を収めるのは無理です」
千秋は自分の居場所を早月に奪われご立腹の様子。
しかし、元はと言えば自分でまいた種なのでばつが悪いのだろう、自ら動くのではなく夏穂に意見を求めた。
夏穂も俺と早月が仲良くするのには納得していないみたいだが、具体的な解決案はないらしい。
いや、武力行使という案自体は浮かんでいるみたいだが。
さらりと刀傷沙汰とか物騒なこと言うのやめようぜ。
「ぐぬぬ、高校生になってからお兄ちゃんと二人きりの時間がどんどん減ってる気がするよぉ」
「まあまあ、一日二日の辛抱なんだし暇な時はほどほどに構ってやるから。家族なんだから時間はいくらでも作れるだろ?」
しょんぼりする千秋をなだめる。
確かに最近は千秋に時間を割いてやれなかったから、今度遊びにでも連れて行ってやろう。
「そうだよね、私とお兄ちゃんは兄妹なんて垣根を超えた真実の愛で結ばれてるんだもんね。私、間違ってたよ。大切なのは過ごした時間じゃなくて絆の強さなんだね!」
「お前は一体何を聞いていたんだ?」
俺の言葉はありえないほど曲解を受け、千秋は一人納得してしまった。
こんな立派なブラコンに育ってしまって、どこで選択肢を間違えたんだろう。
本来なら子供を正しい道に導く役割があるはずの親はというと、二人だけの世界に行ってしまっている。
つーか、こいつらは兄妹ルート推奨派だから当てにならない。
うん、俺も現実逃避しよう。
「千秋ってやっぱ頭おかしい」
「……うん」
俺が考えるのをやめようとした直前、早月の冷静な意見が聞こえてきたので、俺は静かに頷いた。
よかった、まだ味方がいて。
早月よ、お前だけはまともな感性でいてくれ。




