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番外編 神田の告白、茜の決意

「遊園地デート(?)の定番」の茜サイドの話です。

 上泉茜はストーカーである……が、それ以前に一人の乙女である。

 信じがたいことに、夏彦への変態行為と常人離れした戦闘力に目を瞑れば、ごく普通の女子高校生なのだ。

 事実、この頭のネジが何本か外れていそうな女がなんのわだかまりもなく彼女の所属するクラスに溶け込めているのがその証明だろう。

 それどころか、須藤快翔という彼女に対するストーカーまで出現する始末――いや、これは類友というべきか。


 ともかく、普通の女子高校生が恋バナに盛り上がるのは世の常である。

 であれば、意中の人と目前で発生しそうな青春イベント、どちらを取るか天秤にかけるのも、その結果青春イベントを見に行くのも当然の行動原理であろう。

 ましてや茜は恋する乙女、恋愛事となれば自分の今後への参考になるかもしれないと考えたのである。

 能書きが長くなったが、茜にとって神田信行と諸岡実咲が観覧車に乗って何をするか、というのを調べるのは恋愛を有利に進めるためのリサーチなのである。

 もっとも、それが活かせるかは本人の思考回路に委ねられるのだが……。


 まず茜は先行した夏穂と愛歌に合流し、作戦を練ることしにした。

 二人は同じ夏彦を狙う恋敵ではあるが、観覧車のゴンドラへ工作するには協力が必要不可欠であった。

 もちろん、夏穂と愛歌も茜の能力に関しては認めており、呉越同舟がここに成る。

 かくして計画が始まる。


「茜さん、じゃあこれを手はず通りに」

「わかった」


 夏穂は茜にとある袋を渡す。

 袋には盗聴機材が内包している。夏穂が丹念な調査のもとに秋葉原で買い集めた至高の品だ。

 なぜそんな物を持ち歩いていのか。

 夏穂曰く、「たまたま、カバンに入ってたんだ」とのことである。

 疑問点はそこではなく、どうして所有しているのかだろうが。


 まあなんにせよ道具は揃った。

 茜の分析により、神田とミサキが乗り込むゴンドラにも見当が付いている。

 しかし、さすがの茜も観覧車のゴンドラという狭い密室で人に気付かれずに盗聴機材の業であろう。

 だとすれば、神田たちより先に観覧車に乗るグループに順番を譲ってもらう必要があるが、一体どうするのか――


「中条愛歌、ただいま戻りましたわ。親切な方々に順番を譲っていただけましたわ」


 どうやら第二の問題も解決したらしい。


「さすが中条さん。やっぱりいつもの手ですか?」

「ええ。百万円ぽんと差し上げたらどうぞどうぞと」


 金の力は偉大である。

 夏穂の問いかけに愛歌は悪びれもせず語ってみせた。


「さあ、場は整いました。後のことは頼みましたよ、茜さん」

「うん。上手くやるから心配しないで」


 夏穂としてはあえて茜に盗聴器の設置を任せる必要は無いのだが、バレる可能性も考慮すればこそ念には念を入れた。

 より自然な偽装工作は茜の専門分野だ。


「じゃあ行ってくるね」


 茜は夏穂と愛歌の期待を一身に背負い、観覧車へと歩みを進めた。


 ***


 閉園時間も間近で人の寄り付かない不人気アトラクションの側に、三人の少女が小型スピーカーを囲う様に顔を寄せ合っていた。

 夏穂、愛歌、そして茜の三人だ。

 夏穂が他の二人に目配せすると、二人は静かに首肯する。

 それを見て夏穂はスピーカーのスイッチを入れた。


『ミサキさん、好きです! 付き合ってください』


 スピーカーからは狙ったように神田の愛の告白が流れる。


「「「きゃああっ!」」」


 それを聞いて三人から黄色い声が上がった。

 恋する乙女たち(?)をドキドキさせるには、同年代男子の生告白シーンでは充分すぎたらしい。


『うん、その言葉が聞けて私は嬉しいわ。私も、信行くんが好き!』


 などと、ミサキが神田の想いに応えて見せれば、そこでまた歓声があがる。

 色恋沙汰というのは少女の大好物なのだろう。


 ***


 帰り際、茜は新幹線の中でイチャつく神田とミサキを傍目に考える。

 神田の告白が何故成功したか。おそらく、気持ちを包み隠さずストレートに伝えたのが吉と出たのだろう。

 けれど、茜も好意ならたくさん示している。


 ――まだ足りないのかな。


 まったくもって的外れな考えが茜の脳裏をよぎる。

 そういえば最近はアピールがひかえめだったかもしれないとも茜は思った。


 明日からはもっとわかりやすく夏彦くんに親愛を示してみよう。


 夏彦の預かり知らぬところで一人、茜は迷惑極まりない決意をするのであった。

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