番外編 遊園地前日の柳生エイリス
遊園地に行く前日、エイリスは華羅滅理是の二代目総長であるユキの家を訪れていた。
「ユキ、頼みがある!」
「エイちゃん? 急に改まってどうしたんだよ」
「アタシに服を貸してくれ!」
エイリスの頼みを聞いたユキは目を丸くする。
それもそのはずだった。
「今まで服といえば学校の制服か特攻服だったエイちゃんが、一体どういう風の吹き回し?」
「実は明日、ダチと遊びに行くんだよ。そこに着ていく服がトップクっつーのも……どうかと思ってな」
「ダチ? ……ははぁーん。わかった、私のとっておきの一枚を貸してあげるから待ってな」
「え? そんな、悪ぃよ。適当で構わねえんだけど」
「いいから、いいから」
ユキはエイリスの言葉を軽く流し、家の奥へと消えていった。
しばらく玄関で待ちぼうけをくらっていたエイリスだが、十数分するとユキが戻ってくる。
よほど真剣に服選びをしていたらしい。
「はい、これ」
「ちょっと可愛すぎやしねえか……? アタシに似合うとは思えねえんだが」
ユキが持ってきたのは白のワンピース。
丈も長く、飾りっ気のないシンプルなそれはいわゆる清楚系というやつだ。
族の総長なんかやっていた自分にはイメージでないというのが、エイリスの正直な感想だった。
「大丈夫、それを着ていけば例のあの男もエイちゃんの魅力にイチコロだって」
「なっ、一宮はそんなんじゃ!」
「あれぇ? 私誰とは一言も言ってないんだけど? 大体その一宮? って名前知らないし」
語るに落ちたエイリスに、ユキは下世話な笑みを向けている。
ハッとしたエイリスは慌てて弁明し始めた。
「なっ!? ユキ、てめえ騙したな! 今のは本当にちげえから!」
「はいはい、わかったから帰ってきたらたっぷり感想聞かせてね」
用意された服にエイリスが呆然とするうちに、ユキは自宅からエイリスを閉め出す。
「……あれ? おい、ユキ開けろ」
エイリスは何度もドアを叩いたり、インターホンを鳴らすが反応はない。
途方に暮れたエイリスは仕方なく帰ることにした。
***
「ぜってぇ、似合わねえよな……」
自室でユキから借りた服に、一人感想を漏らすエイリスだったが、せっかくなので試着してみることにした。
着替えたエイリスは鏡の前で腕を伸ばしたり、くるくると回ったりする。
やはり、似合わない。
そう思うエイリスだったが、ユキの言葉を反芻し、夏彦はこういうのが好みである可能性もあるんじゃないかと考えてみる。
それに、普段の特攻服よりは色気ってものが出たんじゃないだろうか。
エイリスは改めて鏡を見た。
(一宮、褒めてくれっかな……?)
明日の遊園地がまた、楽しみになったエイリスだった。




