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遊園地デート(?)の定番

 午後七時、スーパー宇野田ランドのナイトショーが始まった。

 結論から言えば、ウノビット以外をないがしろにしているとも取れる、あのパンフレットの煽り文句は全くもって正しかった。


 園内中央部に設置されたステージで始まったショーは、うさぎを模した看板マスコットのウノビットがダンスや手品などのパフォーマンスを行うものだったのだ。

 それ以外のキャラクターは全てが引き立て役に徹していて、まさにウノビットによるウノビットのためのウノビットのショーと言えるだろう。

 可哀想だからもう少し他のキャラクターにも出番やれよ。

 ただまあ、パフォーマンスの巧みさは本物で、特にキレのあるダンスは俺たち全員見惚れてしまった。

 そんなこんなでショーは終わりを告げた。


「うん、やっぱり見に来てよかったな」


 ショーを見終えて、神田が感嘆の声を上げると、一同が口々に肯定した。


「信行くんがパンフレットの案内を見つけたおかげだね。まるでプロのダンスのようだったわ」

「実際、プロダンサーにも引けを取らない動きだと思いますわ。着ぐるみを着たままあそこまで踊れるのは大したものです」

「愛歌、大きな声で着ぐるみとか言うのはまずいんじゃ……」


 近くを歩いてたちびっ子の夢がぶち壊しだぞ。

 隣にいた母親が必死でごまかしている。

 子どもの夢を守るのも大変だなあ。


 呆れる俺をよそに、他のやつらいまだショーの感想を言い合っている。


「アタシもダンス、やってみようかな……柄じゃねえか」

「柳生さんがダンス! いいんじゃないですか、イメージ合ってますよ!」


 柳生がダンスか……スタイルはいいんだし結構様になるんじゃないだろうか。

 夏穂もこう言ってることだしやればいいのに。

 俺が柳生と夏穂に目を向けていると、不意に肩を叩かれた。


「ナイトショーよかったね、夏彦くん」


 茜だ。

 俺が茜以外を見ていたことにまた嫉妬したのだろうか。


「ああ、そうだな」


 不用意に事を荒立てる必要もなければ、俺は素直にうなずいた。


 話が盛り上がる中、神田が歩みを止める。


「閉園まであと一時間ほどあるが、これからどうする?」

「俺はもう帰り……なんでないです」


 茜が睨んできた。怖い。


「じゃあ、あまりギリギリでも大変だろうし、閉園三十分前に退場ゲート付近に集合ということで。じゃあ、ミサキさん。行きましょう」


 神田は今後の予定を決めると、流れるようにミサキさんを誘ってどこかに行ってしまった。


「これは……ロマンスの香りがするねえ」

「夏穂さんもそう思われます? 後を追いましょう」


 そして、何かよからぬことを企んでいる夏穂と愛歌もどっか行ってしまった。


「は? てめえらどこに!?」


 さっきまで一緒に行動していた柳生は突然のことに反応できず、一人取り残されていた。

 ひでえな、あいつら。


「すまん、柳生。あのバカ共は放っといて俺たちと行動するか。茜も頼む。柳生はあの犬耳作戦には加担してないわけだしここはどうか……って、いねえ!?」


 柳生を誘う間に茜が姿を消していた。

 ほどなくしてスマホにメールが届いた。差出人は茜だ。


『なんか面白そうだから、私も神田くんを追うね』


 あんにゃろう……。

 まさか茜が神田とミサキさんのデート(?)を優先するとは思わなかった。

 いや、だがいたらいたで面倒くさいからラッキーか。


「茜もいなくなっちまったし、二人で行くか」

「あ、ああ」


 俺が肩をすくめながら言うと、柳生の同意を得てゆっくりと歩きだした。


 しばらく、何をするでもなく園内を歩いていたが、気まずく思ったのか柳生の方から話を切り出す。


「何か乗るか?」

「俺は茜のせいでへとへとだから、絶叫系以外なら……」

「そうか、それだと観覧車がここから近いな」

「観覧車か。じゃあ乗るか」


 観覧車ならゆっくりできるし、それなりに楽しめるだろう。

 こんな優しい提案をしてくれる柳生がいいやつに思えてくるぞ。

 まあ実際そこまで悪いやつとも思えないが。


 俺と柳生は観覧車の列に並んで十数分、ゴンドラに乗りこんだ。

 前にはそこそこ人がいたように思えるが、存外回転率はいいようだ。

 回転速度はそれほどでもないので、ゴンドラの数が多いのだろう。

 係員がゴンドラの扉を閉めると、緩やかに地面との距離が離れていった。


「なんか、女子と二人きりで観覧車なんて恋人みたいで緊張するな」

「そうなのか?」


 俺の深く考えずに放った言葉に柳生は目を丸くした。

 何か驚くようなことだったか。


「なんか、意外だな。ナツは女に困ってねえみたいだが、今更これくらいで緊張したりすんのか」

「柳生までそんなことを……言っとくが俺はいまだに彼女の一人もできたことないんだぞ」


 自分で言ってて悲しくなるな。

 何故俺は同年代の女子にこんなことを暴露しているのだろうか。


「夏穂も中条もナツがいかにイイ男か、なんてのばかり話してたぞ。あの上泉っつーのもナツにご執心のようだし、早く誰かと付き合っちまえばいいのによ」

「愛歌はまだしも、夏穂と茜は恋愛対象として見るのはきつい」


 あいつらのこと知りもしないのに言ってくれるぜ。


「じゃあ――アタシとならどうだ?」

「え……」

「なんてな。娘の夏穂は除外するにしても、かたや昔からの幼馴染、かたや金持ちのお嬢様だろ。ライバルが強すぎて、不良なんかやってたアタシには敵わねえや」


 そんなことないよ! もうちょっと頑張れよ!

 少し押してくれれば、じゃあ付き合うか、とか言ってたかもしれないのに。

 しかし、今俺が否定すれば同情したみたいになって、逆に気を遣わせてしまうかもしれない。

 そもそも柳生の俺への好感度がよくわかってない訳で、本当に冗談だったのかもしれない。

 なんたる歯痒さか。


「お、そろそろ天辺だな。見ろよ、ナツ。いい景色だぞ」


 柳生は俺が悩んでいることなど露知らず、観覧車を満喫していた。


 観覧車から降りたあと、時間も時間で帰ることになったのだが、結局柳生の本心はわからないままで、家に着いてからも悶々とするはめになった。

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