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ナイトショーの案内

 午後五時、皆が神田に呼び出されて園内の広場に集まった。

 俺と茜が到着するよりも前に、すでに夏穂のグループが待っていて、最後に神田とミサキさんがやってきた。


「おーう、みんなさっきぶり……ってノミヤ!? 顔がすげえやつれてんぞ!?」


 神田は俺の顔を見るやいなや、顔一面に驚きの色を浮かべた。

 そんなにひどい顔をしているのか。


「茜に、殺されかけた……」


 もう一生分……いや、三生分くらいはジェットコースターに乗った気がする。

 俺は今ここで天に召されてもおかしくないくらいに消耗していた。


「おう……なんかよくわからんがお疲れ様」

「たかが遊園地で大げさねえ、夏彦くん」

「あのー、ミサキさん? ミサキさんもノミヤほどじゃないけど、今朝死にそうな顔してましたよ?」

「あれ、そうだったっけ? まあ細かいことは気にしないの」


 くっ、言わせておけば!


 俺は本気で死因がジェットコースターの乗りすぎによる過労死となる寸前だったというのに。

 二日酔いで遊園地に行くアホで、あまつさえ自分に都合の悪い出来事は無視するような人に大げさとはこれいかに。

 あんたも茜と行動を共にすればわかるよ!

 本気にされても困るので、そんなこと口が避けても言えないが。

 忍者の訓練を受けてないミサキさんが茜と遊園地を回ったりすれば、すぐにそのままご臨終だろう。


 と、ここで夏穂が俺たちの会話を遮る。


「ところで、私たちはなんで呼び出されたんですか?」


 夏穂が少しいらついた様子で尋ねた。

 そりゃ呼び出した本人が一番最後に到着した挙句、どうでもいい話をし始めたら腹も立つわな。


「ふっ、よくぞ聞いてくれた。実はこの後、園内でナイトショーをやるらしい。なので皆で観ようと思い、集合してもらったのさ」

「そんなものがあんのか。全然気がつかなかった」

「ダメじゃないか、ノミヤよ。遊園地に来たら何があるのか、パンフレットを隅々まで確認するのが鉄則だぞ。ほら!」


 相変わらずのうざったいテンションで、神田は手にしたパンフレットを指差す。

 神田の指先に視線を移すと、確かに『午後七時よりナイトショー開幕。スーパー宇野田ランドのマスコット「ウノビット」やその他大勢のみんなが夢のような素敵な一夜をお届けするよ!』と、記載されている。

 なんだか雑な煽り文句だなあ……。


 文字制限があるだろうから仕方ないとはいえ、「ウノビット」以外をその他大勢と表現するのは少々乱暴な気もする

 それにナイトショーの案内はパンフレットの目につきにくい所にあるし、文字も小さい。

 本当にやる気があるのだろうか、この遊園地は。


「ナイトショー、楽しみねえ。何やるかはこの説明じゃわからないけど、エ○クトリカルパレードみたいなやつかな?」


 まずい、ミサキさんの期待値が上昇している。

 俺としては、アトラクションの整備もまともにできていない遊園地が某夢の国のパレードを真似できるとは思えない。

 つーか、そんな予算あるなら点検にもっと費用を回して欲しい。

 そう考えるとナイトショーというのもろくなものでないことが容易く想像でき、思わずため息が漏れた。


 ナイトショーは七時からということで、俺たちは園内のカフェで時間を潰すことにした。

 二時間も余裕があることを考えれば集合はもう少し遅くてもよかったかもしれない。

 しかし、園内が広いこともありうまく集まれないかもしれないからと、神田が余裕を持った時間設定にしたらしい。


「高所恐怖症の癖して絶叫系ばっか乗りたがる夏穂には困ったもんだよな」

「だって、目玉アトラクションには乗らなきゃもったいないじゃないですか」

「わたくしは楽しかったので不満はありませんわ。柳生さんこそ怖かったのではありませんか?」

「なっ、なにをバカな! アタシはジェットコースターごときでビビるタマじゃねえよ」


 カフェでは主に夏穂、愛歌、柳生の三人が中心となって談笑を交わしていた。

 最初こそ柳生をほぼ初対面の二人と行動させたことが不安だったが、遊園地を回っているうちに仲良くなれたようで何よりだ。

 夏穂は他のやつらにもこのくらい平和に接してくれると助かるんだけどなあ。


「夏彦くん、夏穂ちゃんたちの方ばかり見てる」

「え?」


 気がつくと、目の前に座っている茜が不機嫌になっていた。


「許したとは言ったけど、今日は私が夏彦くん独占権を持っているんだから、私の方を見てよ」


 なんだ、その俺の人権を一方的に無視していそうな権利は。

 まあ俺に拒否権なんてないんだけど。


「はいはい、わかりましたよっと」


 時計を一瞥すると、ナイトショー開幕まであと一時間ほど。

 俺はその間ずっと茜の顔を見続けることになる。そこに会話はない。

 思えば、俺と茜の共通の話題って改めて考えるとあまりないような……。

 幸いなのは俺が見てるだけで茜が嬉しそうなことだが、一時間もこの静寂の中で茜の顔を見続けるって、一体何の拷問だ。

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