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忍者の資質

「死ぬかと思った……」


 茜に連行されてからというもの、俺はノンストップで絶叫マシンに乗せられまくった。

 どうやら茜のやつ、忍者としての情勢把握能力に加えてサイコメトリーを無駄に駆使し、絶妙に待ち時間の少ないアトラクションを回ってやがった。

 こいつ、絶対途中から俺を殺しにかかってた気がするんだけど。

 絶叫マシンの乗り過ぎなんていう不名誉な死因は何があっても御免被りたい。


「やわだなあ、夏彦くんは」

「俺がやわなんじゃなくて、お前が丈夫すぎるんだと俺は声を大にして主張したい」

「またまた、そんな大げさな。夏彦くんだって修行すればこのくらい余裕だって。たまには道場の方にも顔出したら?」

「いや、遠慮しとくよ。おじさん厳しいし」

「お父さんが厳しくするなんて、才能がある証拠だと思うよ?」

「そうなのか?」


 茜の親父さんには幼少の頃からこってりと絞られてきた。

 それはもう、俺のことが嫌いなんじゃないかと疑うほどだ。

 てっきり俺が才能がなくて茜を任せられないので、強くなるまで鬼のような指導をしていたのかと思っていた。


「お父さんは指導者としては天才だったけど、忍者としての資質いまいちだったからね。才能があるのに努力しない人は厳しくなるんだよ。自分にはなかった物を持ってるのに……って」

「へえー、そんな事情があったのか」


 まあ、人外の茜と比べるのは酷だとも思うけど。

 茜の親父さんも俺が手も足も出ないくらいには強いからなあ。


「私も昔はよく怒られたよ。お前は才能があるんだから真面目に修行しろって」

「今じゃ考えられねえな」

「うん、これも全部夏彦くんのおかげだよ。あの時、夏彦くんが体を張って助けてくれたから今の私があるんだから」

「あ……おう」


 俺は、茜の屈託のない笑みに不覚にもどきりとしてしまった。

 普段からスキスキ言ってくるので感覚が麻痺していたが、こうして改まって好意を示されると、やはり茜も一人の女の子なんだと意識してしまうな。

 俺は茜ごときに照れてしまって動けなくなる。

 そんな俺をリードするかのごとく、茜は俺の手を取った。


「さあて、私も少しやりすぎちゃったね。午後は純粋に遊園地を楽しもっか」


 俺は、されるがままに腕を引かれた。


 茜も昨日のことを許してくれたので、午後はもう少し人間に優しいコースを歩いてくれるのかと思っていた。

 浅はかだった。

 茜の言葉を額面通りに受け取った俺が馬鹿だったのだ。


「あの、茜? さっきから絶叫マシンしか乗ってない気がするんだけど……」


 実はやりすぎたとか言ったのはこいつの嘘で、内心まだ怒っているのだろうか。

 もしそうだとしても、俺には何の反論の余地もないのが辛いところだが。


「いやだなあー、夏彦くん。絶叫マシンが売りの遊園地で絶叫マシン以外に乗ってどうするの? それに今は少し待ち時間のあるアトラクションを選んでるから、体力的にも余裕はあるはずだよ?」


 茜は本気でわかっていないのか、不思議そうに首を傾げる。

 やべえ、こいつ純粋に絶叫マシン乗っとけば全員楽しめると思ってやがる。


「そうじゃなくてだな、絶叫マシンだけだと飽きるだろ。たまにはメリーゴーラウンドとか観覧車みたいな体に優しい乗り物に乗ってもいいと思うんだが」

「えー? 私は楽しいのにー。それにメリーゴーラウンドなんてあんなの子供の乗り物でしょ?」


 いや、それを言うなら遊園地自体子供騙しみたいなものじゃないでしょうか。

 だからこそ、茜はいかに高校生が子供騙しを楽しもうとしているのかもしれない。

 ただ、付き合わされる身としてはたまったもんじゃないけども。


「メリーゴーラウンドじゃなくてもいいけど、俺はたまにはゆっくりしたいんだよ……」

「ダメだよ! やっぱ高校生にもなればスリルを求めなきゃね! そういう意味では最初に乗ったあれはいつ脱線するかわからなくてドキドキだったね」

「遊園地にそんなスリルは求めてねえ!」


 なぜ遊びに来て自分の命を掛けないといけないのか。

 あんな状態で楽しめるのは事故っても生き残れる茜だけだと思います、ボクは。


「ということで、さあ次行こうか」

「もう本当に勘弁して……」


 ああ、でも次で乗ってない絶叫マシンは最後だ。

 多分コンプリートすれば茜も開放してくれることだろう。

 そんな俺の希望的観測は、茜による「二周目いこっか?」という言葉で粉々に打ち砕かれたのであった。

 今なら手に取るようにわかる、茜の親父さんの苦労が。

 遠き昔聞いた、彼の『茜とは二度と一緒に遊園地に行かない』という宣言に、俺は心の中で強く同意した。

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