デッド・オア・アライブ・アトラクション
遊園地にといえば外せないのはやはりジェットコースターだろう。
というより、絶叫系マシンが売りのスーパー宇野田ランドでジェットコースターに乗らないというのはまるでスイーツビュッフェでケーキを食べないが如き暴挙だろう。
まあ俺はこの手のアトラクションにビビったりはしないので、サクッと楽しむとしましょう。
俺と茜はここの遊園地に数あるジェットコースターの中でも、一番高く激しい物に乗ることにした。
しばらく待って、順番が回ってくる。
俺と茜は最後尾に隣り合わせで座った。
昔テレビで見たのだが、ジェットコースターというのは遠心力によって掛かる重力が一番強くなる最後尾が一番怖いらしい。
まあ、スリリングでいいんじゃない。
マシンが動き出し、俺が落ちるのはまだかと心躍らせているところ、茜が話しかけてくる。
「そういえば夏彦くん」
「ん? どうした?」
「この機体、整備不良だよ。さっきネジが抜け落ちてる箇所を見つけたんだ! ほら、多分これが抜けたネジ」
茜がこれみよがしに一本のネジを手にしている。
結構大きめだけど、重要な部品なんじゃないだろうか。
…………ネジ?
「……………………は?」
俺は、一瞬に何を言われているのかわからず思考停止した。
「あ、落ちるよー」
そして、再び意識が戻る頃に俺は自分の今の状況を理解し、絶叫したのだった。
「ぎやあああああああああ!?」
死と隣り合わせの恐怖を耐え凌ぐこと数分、アトラクションは無事に終了した。
しかし、俺はジェットコースターに乗っている間、文字通り生きた心地がしなかった。
「あー、楽しかった! でも夏彦くんは怖がりすぎじゃない? ちょっと情けないよー」
「誰のせいだよ……」
「そうだ、危ないからこのネジはめて来ないとね。あとは駆動音を聞くにまだ怪しいところあったから、そこもついでにいじろう。ということで、ちょっと忍び込んで来るね」
「あ、おい!」
茜は俺を置いて一人行ってしまった。
仕方ないので、その場で待つことにする。
そして数分後、何食わぬ顔で戻ってきた。
「終わったよー。やっぱ結構危なかったね、あれ。事故が起きる前でよかったよ」
「いや、早くね?」
移動時間と整備時間合わせて、たった数分で足りるのだろうか。
「つーか、茜はジェットコースターの整備までできんのな」
「忍者だからね」
忍者とは一体……。
「そんなことより、早く次のアトラクション行こうよ!」
少し前まで生死の瀬戸際に立たされて意気消沈気味な俺とは対象的に、茜はまだまだ元気溌剌としていた。
「次はもっと安全なのがいい……」
ジェットコースターが整備不良な遊園地とか不安しかないんだけど。
せめてもっと緩いアトラクションならまだ安全だろうが。
「大丈夫、何かあったら私が助けるもん。さあ、レッツゴー!」
茜はというと、俺の不安など意にも介さずに、またも絶叫マシンに向かう気満々だった。
やっぱり遊園地なんて話題に挙がった時点で断固拒否すりゃよかったよ。
その後、フリーフォールや海賊船、最初に乗ったのとはまた別のジェットコースターなど、様々な絶叫マシンを楽しんだら、少し休憩を入れることにした。
俺たちは近くにあったベンチに腰を掛ける。
「さすがにこれだけ乗ると疲れたな」
「そう? 私はまだまだ余裕だよ?」
「頼むから茜の基準で人体の強度を語らないでくれ」
昔、上泉家が一家で遊園地に行ったことがあったが、帰って来た時には茜以外が死にかけていたなんてエピソードもある。
おそらく、茜の親父さんも年端の行かない娘には体力で負けないだろうという自信があったのだろう。
茜が乗るアトラクション全てに付き添った親父さんは、それはもう死人のような目をしていた。
そのことから考えても、茜の体の造りはおよそ一般人とは異なっている。
そんな人外の基準で行動を共にすれば、しがない一般人である俺の体はどうなることやら。
まあ、茜のことだから自分と他人の違いを考慮して行動するくらいの分別はあるだろう。
「うーん、これぐらいでも夏彦くんには辛いのかあ」
「そうだよ。もうへろへろだから勘弁してくれ」
「でも夏彦くん? 今日の目的は夏彦くんに罰を与えることって言ったよね?」
茜は眉一つ動かさず、据わった目でこちらを見た。
「あ、あのー茜さん? 顔が怖いですよ?」
「だから休憩なんて生ぬるいことしてないで、さっさと次のアトラクション行くよ!」
「ちょっ、マジ無理! まだ五分も休めてないのに! 死ぬ、死んじゃう!」
俺の腕を掴んできた茜を必死に振りほどこうとするが、茜の馬鹿力には敵うはずもなく、連行される。
「大丈夫。健康な人間は遊園地のアトラクションで死ぬことはないから。夏彦くんには強制的に嫌なことされる苦しみをたっぷり学んでもらわなくっちゃ!」
「ごめん! 昨日のこと謝るから! いやああああああ!」
一宮夏彦、本日二回目の大絶叫である。
まだ絶叫マシンに乗ってもいないのに。




