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酒は飲んでも飲まれるな

 集合時から気分悪そうにしていたミサキさんだが、話によると、昨日大学の友人と遅くまで酒を飲んで二日酔いらしい。

 次の日に遊園地へ行くことがわかっていたというのに、この人はアホなんだろうか。

 加えて乗り物酔いとのダブルパンチで、先ほどまで新幹線のトイレに篭もりっぱなしだった。

 しかし、出すものを出したらむしろすっきりしたらしく、今は爽やかな顔でシートに座っている。


「初対面でみっともない姿をお見せしちゃったけど、改めて自己紹介するわね。私は諸岡実咲、此左麻大学の二年生よ!」


 ミサキさんは女性陣に向けて名乗り出たのち、四人に視線を流した。


「で、みんなは信行くんと夏彦くんのお友達だっけ?」

「夏彦くんの許嫁です!」

「夏彦さんの婚約者ですわ!」

「一宮夏彦の娘兼嫁です!」

「おいこら、てめえらその口を閉じろ」


 なんでこの人たちはこんな堂々と嘘をつくのでしょう。

 それと夏穂はいつになったら初対面の人に俺の娘だと名乗らないと学習するのでしょう。

 こんな頭のおかしい自己紹介にはきっとミサキさんもドン引き……してない!?

 むしろ笑っていらっしゃるんだけど。

 で、ミサキさんはあのバカどもを横目に俺に耳打ちしてくる。


「あっはっは、面白いわねー君たち! ……で、夏彦くんは誰が本命な訳?」

「少なくともあの三人はないです」

「ちぇっ、つまんないのー。……じゃあ、みんな今日はよろしくね、夏彦くんの未来のお嫁さんたち!」


 ミサキさんがそう言うと、みんなは大きく笑い合った。

 それは一見して和やかな光景ではあるものの、ミサキさんが三人を俺の未来の嫁だと表現した時、全員が自分以外の二人を睨みつけて火花を散らせていた。

 まったくといって平和とは言い難い雰囲気を感じ取ってしまった俺は、また胃腸がキリキリと痛みだす。

 まじでそろそろ勘弁してください。


「あの……アタシはただのダチだからな?」


 そして、自己紹介の時間は一人蚊帳の外だった柳生の、ドン引きしながらの一言で締めくくられた。


 新幹線内でトランプなどを楽しみつつ早一時間。

 目的の駅に着き、そこからまた数度電車を乗り換えてスーパー宇野田ランドに到着した。……したのだが。


「うぇぇ……気持ち悪い……」


 ミサキさんはまだ二日酔いが治ってなかったらしい。


「ちょっと、大丈夫ですか?」

「うん、ありがとー信行くん」


 吐きそうになるミサキさんの背中をその都度神田がさする。

 ……なんか、見ててイラつく光景だな。

 まあ、それはどうでもいいが、ミサキさんの体調で一つ心配事が。


「そういや、ここのアトラクションってほとんど絶叫系ですけど、そんな調子で大丈夫なんですか?」

「うん? うーん、だいじょばないかもー。くっ、忌々しきアセトアルデヒドめ! 私の体を蝕むのがそんなに楽しいか! ……うっぷ」


 ただの自業自得だろ……。


「こりゃ、ダメだな。ノミヤ、悪いが先行っててくれ。ミサキさんは俺が一緒についてるよ。この調子で歩調を合わせても、みんなが楽しめないだろ?」


 なるほど、神田のやつはミサキさんと二人きりになるいい口実を見つけたらしい。


「ああ、じゃあ俺たちは別行動ってことで。お二人でのどうぞデートを楽しんでくれ」

「おい、茶化すなよ」

「日頃の仕返しだ」


 俺は神田と軽く言い合ったのち、他のやつらとともに遊園地へ入場した。


 そういえば、今日は茜との約束があるんだったっけ。

 と、俺が思い出したと同時に、茜が俺の意思も聞かずに腕を組んできた。


「それじゃあ、みんな。約束通り夏彦くんは私が借りてくよ」

「まあ、決まってたことだししょうがない……あ」


 どうしよう、柳生がたった今死刑宣告をくらったみたいな顔をしている。

 考えてもみれば、ほぼ知らない人と一緒に遊園地を回るとかなんの拷問だろう。

 想像するだけでも鳥肌が立つぜ。


「おい、ナツ……? アタシ、何も聞いてないんだが?」

「がんばれ! 大丈夫、夏穂は悪いやつじゃない……と思うし、愛歌だって一回会ったことあるだろ?」


 うん、なんかよくよく考えたら問題ない気がしてきたぞ。

 二人にかかれば帰る頃にはきっと親友並みの間柄になっていることだろう。何の根拠もないけど。


「いや、そういう問題じゃ……」

「大丈夫、柳生さん! 悪いようにはしませんから!」

「ふふ、この間はずいぶんと嫌われてしまいましたが、今日は仲良くしてくださるのかしら?」

「おい、なんかアンタら怖いぞ!? 言葉に含みを感じるんだが!?」

「気のせい、気のせい。じゃ、三人ともごゆっくり」

「おい、待て! ナツ、てめえええ!」


 柳生は去り際に俺への怨嗟えんさの声を上げながら、夏穂と愛歌に連行されていった。

 哀れ、柳生エイリス。君の尊い犠牲は忘れないよ。


「さ、いこっか? 夏彦くん」

「ん? ああ……」


 茜は俺といられてそんなに嬉しいのか、無邪気に笑いかけてくる。

 けど、俺からしてみれば茜と二人きりなんて不安しかない。

 柳生、恨んでくれるなよ。

 こっちはこっちで大変なんだ。

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