愛のカタチは十人十色
「じゃあお兄ちゃんたち、いってらっしゃい! 夏穂ちゃんはお兄ちゃんに手を出したらダメだからね?」
千秋の見送りを受けて、俺たちは家を出る。
「なあ、ナツ。遊園地ってアタシとお前の二人きりで行くんじゃなかったのか?」
「俺は二人きりと言った覚えは一度もないが」
「そうか……たしかにそうだな。で、そいつもナツの妹か?」
柳生は俺を挟んで隣にいる夏穂に目を遣った。
うーん、柳生には超能力のこととか話したし、別にばらしても構わないか。
のちのちばれても面倒だし。
「いや、娘」
「はあ?」
柳生は怪訝な顔をする。
納得の反応ですね、はい。
すると夏穂が俺の発言を補足するように自己紹介を始めた。
「初めて、一宮夏穂です! 時間跳躍と記憶操作の能力者で、お父さんの恋人候補を始末するため未来からやってきました! 私は柳生さんのこともよく知っていますよ」
「色々とツッコミどころ満載だな」
「気にするな、その内慣れる」
「お前も大変だな」
夏穂の突飛な設定に頭でも痛くなったか、柳生はおでこに手を当てていた。
家を出発したあとは、まず隣へ茜を迎えに行く。
初対面の茜と柳生の挨拶もそこそこに、何事もなく合流を果たして駅へと向かうのであった。
さて、俺たちも駅に到着し、全員が集まり次第いよいよ出発だ。
駅前にはすでに愛歌と神田が来ていた。
愛歌は手持ち無沙汰なのかやたら髪を弄っていて、神田は出発前からグロッキーだった。
「神田、具合悪そうだが大丈夫か?」
「大丈夫に見えるか? 昨日の体育祭のせいで全身筋肉痛なんだよ。つーか、なんでお前らは揃いも揃って涼しい顔してる訳?」
そっか、昨日の今日だもんな。
日程を決める際、土曜日に体育祭があって月曜日が振替休日になるので、翌日にゆっくり休めるよう今日行くことになったのだ。
けど、よく考えてみたら伊江洲比高校体育祭の翌日に遊びに行くというのは、普通の人にとっては鬼スケジュールかもしれない。
「まあ、鍛え方が違うということでここは一つ」
「解せねえ……」
こればかりは普段の運動量の差が物を言うからしょうがない。
あとは上泉流忍術のおかげか。
上泉流忍術の初歩である丹田功術、站椿功術は疲れにくい体を作り、また疲労回復の速度を早める効果がある。
だから俺はあの程度の運動で筋肉痛にはならないのだが、それでも普通の人である神田を疲弊させるには十分なイベントだったらしい。
普通の人といえば、柳生には若干疲れが見られるが、夏穂や愛歌は驚くほどにピンピンしている。
夏穂の身体能力は茜の忍者的移動方法について行ける辺り未知数だけれど、愛歌が元気なのはやはり彼女も丹田功や站椿功を修めているからだろうか。
愛歌の言う中条流格闘術には太極拳や八極拳などいう中国武術が盛り込まれているのだから、そうであっても何らおかしいことはない。
「あら、夏彦さんったらそんな熱い視線をわたくしに送られるなんて、どうしましたの? いよいよ婚約の準備ができたのかしら」
「違うから」
本当に元気ね、この人。
洒落にならないジョークもいつも通りキレッキレだよ。
しかし、なにか物足りない気も……ってそうか。
「そういや、今日は愛歌も電車なんだよな。コールマンはどうしたんだ?」
愛歌のジョークの物足りなさは、悪ノリをするコールマンの不在から来るものだろう。
車での移動を期待していた訳ではないけど、愛歌のことだからまたリムジンに全員で乗るかと思っていた。
けれど、実際には駅集合の話が持ち上がった時も、愛歌が異議を唱えることはなかった。
「コールマンでしたら今日は用事があるとか。彼はわたくしの専属執事ですが、たまには休暇があってもいいでしょう? それに、あんなに楽しそうにカバンへ仮面を詰めているところを見たら、ダメとは言えませんわ。でもあの仮面は一体何だったのかしら?」
仮面……なるほど、そういうことか。
たしか千秋も今日は出掛けるとか言っていたな。
でもミサキはよくあっちよりこっちを選んだな。
よほどミサキさんは神田にぞっこんと見える。
「愛されてるなあ、神田」
「何だ急に。全くもって意味不明なんだが」
神田がジト目を向けてくるが、男のジト目なんて萌えないので無視して愛歌に視線を戻す。
「愛歌はいいのか? 一応会長令嬢なんだから、ボディーガードがいないのはまずいんじゃ……」
「一応という文言が引っ掛かりますが……何度かお見せしたようにわたくしは武術の心得があるので、それなりに自衛はできますわ。それに、いざとなったら夏彦さんが守ってくださるでしょう」
「俺もそこそこ強い方だと自負しているが、さすがに茜には勝てないぞ?」
「ちょっと夏彦くん、人聞きが悪いよ! そういうのは見えないところでやるから大丈夫だもん」
「危害加える気満々じゃねえか!」
何が人聞きが悪いだよ。正当な人物評じゃねえか。
「あの、盛り上がってるところ悪いんだけどー」
「今度は何だ! ……ってミサキさん」
「やあ、夏彦くん」
各々が自由に盛り上がる中、ミサキさんがいつの間にか到着していたようだ。
けれど、心なしか顔色が悪いような……。
「あの、ミサキさん? 何だか青白い顔していますが大丈夫ですか?」
「え!? そんなことないよ! 全然大じょ……うっぷ、気持ち悪い……」
全然、大丈夫じゃないんですが。
神田もミサキさんも……グロッキーカップルかい。
「昨日飲み過ぎた……吐きそう……」
ミサキさんはかなり苦しそうに口元を押さえている。
それに気づいた神田はミサキさんに駆け寄り、背中をさすり始めた。
そして、神田は神妙な顔つきで俺に言うのであった。
「なあ、ノミヤ。愛があれば人は多少のことは許せるよな?」
「まあ人にも寄るんじゃね? 俺は好きな人でも吐いてるところを愛せる自信はないけど」
「そうか……ときにノミヤよ。エメトフィリアって知ってる?」
「知らないけど説明しなくていいぞ」
話の流れから察するに、ろくな言葉じゃない気がする。
とにもかくにも、無事に全員集合したのでさっそく遊園地「スーパー宇野田ランド」へと出発するのであった。




