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美人に似合わぬ服はなし

 早朝、インターホンで呼び出された俺は、眠気で重たいまぶたをこすりながら階段を降りて玄関に向かう。

 ドアを開けた先にいたのは柳生エイリスだった。


「よ、よう」

「おはよう。ずいぶんと早い到着だな」


 先日、せっかく友達になったんだからと柳生を今日行く予定の遊園地に誘ったところ、快い返事をもらって同行することになったのである。

 いきなり駅前で面識のないやつらの輪に放り込むのも酷だと考え、とりあえず我が家に来てもらったのだが……さすがに早すぎないだろうか。集合時間までまだ一時間はあるんだけど。


「別に、楽しみでいつもより早く目が覚めたとかじゃねえかんな! それに遅れるよりはいいだろ」

「まあな。それにしても……その格好は」


 今日の柳生の出で立ちはというと、普段の特攻服とはうって変わって、白のワンピースというシンプルな格好だった。

 清楚系なその服装は、柳生の色白な肌や長く綺麗な銀髪によくマッチしていて、何も知らなければいいところのお嬢様だと言われても信じてしまいそうだ。


「なんだよ……あんまりじろじろ見てんじゃねえよ……恥ずかしいだろ。アタシの柄じゃねえってことはわかってっからよ」


 Oh……これは。

 柳生の自信が持てずに恥じらうその姿には、男心が刺激されますなあ。


「アタシはもうレディースを引退したし、さすがにダチと遊びに行くのに特攻服トップクはどうかと思ってな。普通の服をチームのやつに借りたんだよ。やっぱ……変、だよな?」


 柳生は破壊力抜群の上目遣いで尋ねてくる。

 いったいどこの男がこれに対して変だと言えようか。


「変じゃねえって。よく似合ってるし、可愛いと思うぞ」

「か、かわっ!? バカじゃねえの!? 心にもないことを軽々しく言うんじゃねえよ。期待しちまうだろ……」


 いやいや、もっと自信持っていいと思うんだがなあ。

 そもそも、柳生は美人なんだから似合わない服なんてそうそうないだろうし。

 なんでこいつは自分の容姿に対してこんなにも卑屈なんだろうか。


「本気で言ってるんだけどなあ」

「とにかく、アタシたちはただのダチであって、それ以上でもそれ以下でもないんだから、か、可愛いとか気安く言うんじゃねえ!」

「努力はしよう」

「わかったな!?」

「あっ、はい」


 ……できる範囲で、と心の中で付け加えておくけど。

 可愛い女の子を見たら褒めるのは男の義務だからね。エロゲーで習った。


 柳生と朝の挨拶をひと仕切り終えたところで、玄関に置いてある時計に目を向ける。

 ふむ、駅前での集合時間までまだ一時間半はあるな。


「まだ時間も早いし、とりあえずうちに上がってくか?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「部屋まで案内しよう」


 と、階段を上ろうとしたその時だった。


「お兄ちゃん、朝から騒がしいよおー? 私、今日は出かけるんだから朝はたっぷり寝たい……誰その美人!?」


 俺に文句を言いに部屋を出ていた千秋が、柳生を目撃した途端に今にも閉じそうだ目を見開き、寝起きとは思えない声量で叫んだ。

 千秋はものすごい勢いで階段を駆け下り、柳生の周りを回りながら検分を始めた。

 何やらどこかで見た光景だが、やはり類は友を呼ぶのだろうか。

 一方でまるで標本のごとく観察されている柳生は、ただただ困惑するばかりだった。


「お、おいナツ! なんだこいつは!?」

「俺の妹。ただのアホだから気にしなくていいぞ。……って、ナツ?」

「お前のことだよ。夏彦だからナツだ。ダチなんだからあだ名で呼んだっていいだろ。だからナツもアタシのことをエイちゃんって呼んでいいんだぜ?」

「遠慮するわ」


 そんなの傍から見ればラブラブカップルじゃねえか、誰がやるか。


「そうか……じゃなくって!」


 柳生は千秋をどうにかしろと、俺に視線で救助信号を送る。

 でもここで俺が柳生を庇おうものなら、思い込みの強い千秋のことだからおかしな誤解を与えかねん。

 俺も藪をつついて蛇を出す気はないので、ここは我慢してくれ。

 俺がだんまりを決め込んで一分弱、ようやく千秋は柳生の検分に終わったらしい。

 顔を上げた千秋は、なんとも不愉快そうに眉を寄せていた。


「お兄ちゃん、私というものがありながら誰彼構わず女の子に唾つけるのはどうかと思うよ? そりゃあお兄ちゃんがかっこいいのはしょうがないけどさあ」


 ごめん、柳生。助けようと助けまいと結果は同じだったらしい。

 つーか、千秋ちゃんは何をさりげなく正妻面してんの? ただの妹だからね?


「柳生はただの友達だ。あと俺は誰彼構わず女の子に唾つけた覚えはない」

「お兄ちゃん……残念ながら男女間の友情は成立しないんだよ」

「ナツ、そうなのか!?」

「いや、そんなことないだろ……」


 意見の分かれるところだろうが。俺は男女間の友情もあると思う。

 いつだったか、愛歌が神田のことを友人に含めていたし、神田も愛歌のことを恋愛対象としては見てないだろうから、あれは男女間の友情といっていいんじゃないだろうか。


「だよな! ふぅ、まだ一ヶ月と経ってないのにナツとダチをやめなくちゃいけないのかと焦ったぜ」


 俺の返答に、柳生は胸を撫で下ろしていた。

 ヤバイ……こいつもなんだかポンコツ集がするな。

 これ以上変人が増えるのはごめんなんだがなあ。

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