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プログラム二十五番︰騎馬戦(後)

 茜へ向かって直進する俺の騎馬に、もう一騎、白組の騎馬が立ちはだかった。須藤だ。


「一宮、また君か」


 須藤は心底嫌そうな顔をしている。

 よほど、先ほど俺に負けたことが堪えてると見えるな。

 だからといって真剣勝負に手心を加えるほど俺は優しくない。


「須藤こそまたやられに来たのか?」

「言ってろ。今こそ棒倒しでの雪辱を果たす!」


 須藤は啖呵を切るとともに、勢い良く右腕を伸ばす。

 まずまずにキレのある動きだ。さすが、左手に握りしめた大量のハチマキは伊達じゃない……が、まだ粗いな。

 俺は須藤の攻撃を軽くいなし、すかさずカウンターを放つ。


「くそっ!」

「無駄だっ!」


 須藤が反射的に頭を守ろうと腕を引き戻すが、俺はそれを払いのけてハチマキを奪い取った。

 またしても勝利である。


「くっ、力及ばずすまない上泉さん」

「じゃあな、俺は先を急ぐ」


 須藤のせいで余計な時間を食ってしまった。

 茜を自由にさせる時間が長引けば、それだけ紅組は不利になるんだ。

 一刻も早く、あの怪物を止めなくては。


 数多いる雑兵をなぎ払って進み、ようやく、茜の騎馬へとたどり着いた。

 茜自体も強敵だが、優秀なのは馬のリーダーで、神田との一件により茜の不調を犬耳が原因であるものと見抜いたらしい。

 その後は、夏穂たち犬耳勢からは距離を取りつつ、ハチマキが多く稼げるように人の多い場所へと舵を取っていた。

 騎手の差は犬耳で埋めたが、武器使用を禁ずる騎馬戦ではハチマキを取るには騎馬同士が接近しなければならない。

 が、認めたくないが騎馬の質に劣る俺は、犬耳勢から逃げ回る茜騎には厳しい戦いを迫られることだろう。

 なら、やることはただ一つ。 


「上泉茜を徹底的に追い回せ! どこまでも、ねちねちと、執拗にだ!」

「ぐっ、逃げるわよ二人とも。あの犬耳には我らが上泉さんは無力……なんとしても白組の勝利が掛かるこの場で、彼女を失う訳にいかないの!」


 俺の指示に呼応するように、茜騎の馬役リーダーはもう二人の馬に撤退を告げる。

 どうやら回避行動に専念するらしいが、状況判断も早く的確だな。

 思った以上に手強い相手のようだ。


「急げ、離されるぞ!」


 本気で臨まないと茜を失格に追い込めない。俺は更なる加速を馬に求める。

 そこで、思いがけない幸運が舞い込んだ。

 なんと、相手が急に失速したのだ。


「犬、嫌……いやあ!」

「上泉さん、暴れないで。大丈夫、すぐ離れるから、ね?」


 何事かと思えば、俺が接近したことで茜が暴走してるみたいだ。

 目の前では騎手が馬をなだめるでなく、馬が騎手をなだめるという奇妙な光景が繰り広げられる。

 なんにせよ今がチャンス。


「全速前進だあ!」

「ちょっ、一宮来んな! ストーカーマジキモい!」


 ぐっ、あのアマ……精神攻撃を仕掛けてくるとは。

 だが構うものか。ここで負ければクラス中から倍以上の罵声を受けることとなるのだ。

 ……あ、なんか涙出てきた。


 茜騎の馬役リーダーに何度も罵倒されるも、なんやかんやでコート端まで追い詰める。

 あとは恐怖で放心状態の茜からハチマキを奪うだけだ。


「その犬耳もあんたの入れ知恵ね」


 逃げ場のなくなった茜騎馬役は恨めしそうにこちらを睨んでくる。


「仕方がなかったんだよ……」


 何故かは知らないが、うちの体育祭ではほとんどの生徒が命でも賭けてるんじゃないかと思うほど本気だ。

 あの場で茜の弱点を吐かなかったら、一体何をされるか……。

 下手したら夏穂に本格的な記憶改ざんをさせられたり、愛歌に勝手に入籍させられてたかもしれない。俺はまだ結婚できる年齢じゃないけど、愛歌の財力があれば多少の法など無視されかねないし。

 だから文句ならあの場にいた四人に言って欲しい。


「サイテー。人の、それも女子の弱みにつけ込んで勝とうなんて、男としてのプライドってもんがないの!?」

「ぐっ、所詮は負け惜しみだ! 何と言おうとお前らはここで終わるんだよ!」


 わお、我ながらなんとも悪役……それも小悪党っぽいセリフ。

 だがこれもチームのためを思えばのこと。悪く思うなよ、茜とゆかいな仲間たち!

 俺は、満を持して茜のハチマキに手を伸ばす。


「もらったああああ! …………ってあれ?」


 俺の腕は確かに茜の額へ届いたはず。

 しかし、俺の手の中は空っぽだ。

 再度、顔を上げて茜の顔を見つめるがそこにハチマキはなかった。


「やったな、一宮!」


 俺がハチマキを取りそこねたとは夢にも思っていない下の馬たちは、手放しに俺のことを褒め称える。

 だが、茜のハチマキを取ったのは俺ではないのだ。じゃあ、誰が?

 その疑問に答えるように、間を置かずして聞いたことのある声での雄叫びが上がった。


「いよっしゃあああ!」


 俺は声のする方に視線を移す。

 そこで目にしたのは、白のハチマキを持った手を天高く掲げる、2年D組柳生エイリスの姿だった。

 まさか、気づかれないようにアポート能力で奪い取った、のか……?

 なんだそれ、最初から柳生に任せればよかったじゃないか。

 俺、けなされ損じゃん……。

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