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プログラム二十番︰棒倒し(前)

『さあ、伊江洲比高校体育祭もそろそろ佳境ですねぇ、相土さん?』

『そうだねえ』

『そしてなんと、次の種目は二年生対抗戦棒倒しですよ! 例年、屈強な男たち――こほん。もとい、二年生の男女たちが極太の棒を巡って組んずほぐれつの熱い戦いを見せてくれるこの競技には小生、期待に胸がいっぱいです! むふふ』

『燃えるねえ』

『はい、萌えます!』

『なんかイントネーションが違うような……剣さんが楽しそうだからいっか』

『まあ小生の個人的な楽しみは置いておくとしまして、この棒倒しが今年の体育祭の勝敗を左右すると言って差し支えないでしょう。序盤はリードしていた紅組も、あれよあれよと追い抜かれて、現在は白組に二百点のビハインドを許している状況です!』

『自由、だからねえ』

『はい、そうです。注目選手である二年、上泉茜さん。序盤の玉入れこそ敗北を喫したものの、それ以外の彼女が参加した競技は全勝! 今年のテーマは自由ですので、選手が望めば出場資格のある競技には何回でも出られることになっいますが、その利点を大いに活かされております。小生、恐れ入ります』

『すごいねえ』

『まったくです。ですので、残りの競技もわずかなこの場で、紅組はなんとしてでもこれ以上の失点を防ぎたいことでしょう。あっ、いよいよ選手の入場です!』


 ***


 棒倒しは両チーム三本、計六本の棒をグラウンドに立てて、先に相手側の棒を全て倒した方が勝者となる。

 このルールで重要となってくるのが戦力の分配だ。

 バランスを重視して三本に均等に守備を配置するか、二本を完全に捨てて一本を死守するか。あるいは裏をかいてもっと変則的な戦力分配を行うか。

 まあ、敵に茜がいる以上、こちらの防御力は無いものとして扱った方がいいだろう。

 問題は茜が攻撃と守備どちらに配置されるかだが……。


「――おい。おいノミヤ!」

「ん? ああ、神田か。なんだよ」

「なんだよ……じゃねえよ。ボーッとしやがって。今回の勝敗はお前がどれだけ上泉の注意を惹きつけられるかにかかってるんだから、しゃきっとしろよな」


 そう、作戦では俺が茜と戦う手筈になっている。

 腐っても幼馴染なら手の内は知らないことはないし、勝てずとも多少は止めることができるかもしれない。

 だからこそ戦いやすさの違う攻撃か防御かで大きく差が出るのだ。


「やれるだけやってみるが……期待すんなよ?」

「大丈夫、十秒も戦場から引き剥がしてくれればありがたい」

「言ってくれるよ」


 一秒持つかどうかすら怪しいのに、神田ときたらあいつの人外っぷりを甘く見てやがる。

 ただ、やるからには全力だ。できるだけ止めてやるさ。


 試合開始の笛が鳴った。

 紅白両チーム、攻撃役が一斉に駆け出す。


「行けええ、紅組ィィ!」

「白組よ、紅組共を踏み潰せェェ!」


 紅白の怒号が飛び交い、興奮の熱が伝わる中、俺は茜の姿を探す。

 視線を数往復させたところで、一つの棒の上に鎮座するそいつを発見した。


 ――ちっ、防御側か。


 一般的に攻撃の方が何も気にせず戦えるから厄介と思えるかもしれないが、実はそうではない。

 真に手強いのは防御。守るものがある故にいかなる攻撃にも神経質にならざるを得ず、ミスを許さぬその姿勢が付け入る隙がまったくなくなるのだ。


 だが、俺がやることに変わりはない。

 棒に張り付いた茜を引き剥がすだけだ。


「そうはさせるか!」

「何!?」


 どこからか、声と共にクナイが飛来してくる。

 咄嗟に地面を転がって避けたが、いきなり攻撃とは穏やかじゃねえな。


「須藤、てめえ……」

「僕が大人しく君を上泉さんに近づけると思ったのかい?」


 2年B組の生徒にして、茜の手下、須藤快翔。

 なるほど、茜ほどじゃないがこいつも一筋縄じゃ行かないらしい。

 さっきのクナイ投擲も中々の切れ味だった。

 夏休みに研修を兼ねて、茜と共に各地の上泉忍術道場へ修行に行ったという話は伊達じゃないということか。

 こいつも忍者としての振る舞いが板についてきたようだ。


「だが、所詮数ヶ月修行した程度のひよっこが俺に勝てると思うなよ」

「ひよっこかどうか……試してみるかい?」


 須藤は両手に三つ又の形状をした金属の武器、さいを持った。

 なるほど、それがお前の武器って訳か。

 俺は立ちはだかる須藤を突破するため、クナイを手に突撃する。


「大口を叩いた割にはこの程度かい、一宮」


 クナイでの攻撃を、須藤は釵で受け止める。

 うん、守りの筋もいい。……が、まだ甘いな。

 俺はクナイを持った手を引き、一歩下がる。

 そして、ポケットから取り出した目潰し――空の卵殻に唐辛子、石灰等を配合したもの――を思いっきり須藤の顔に投げつけた。

 目潰しもろに食らった須藤は、その場で激しく咳き込む。


「ぐっ!? なんだこれ!?」

「この程度防げないようなら、そこで大人しくしてるんだな」


 地面にへたり込む須藤を背に、俺は茜の下へと向かった。

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