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自宅への凱旋

「ただいまー」


 無事に魔王城(茜の家)から出たあとは、何事もなく帰宅することができた。

 まあそうだよね。隣だし。


「お兄ちゃんおかえりー」


 リビングを通ると、先に帰ってた千秋がいつものようにテレビを見ていた。

 どうやら今流行りの恋愛ドラマの録画らしい。

 千秋もオタクとはいえちゃんと年頃の女の子らしい趣味も持っててよかったよ。お兄ちゃんは安心しました。


「叔母さん、ただいまです」

「あ、夏穂ちゃんも一緒なんだねー。おかえり……って、お兄ちゃんどしたの?」

「え、何が? 俺の顔になんかついてる?」


 もしかして茜に知らずのうちにキスマークでもつけられたか。

 あいつならやりかねん。


「いーや、そうじゃないけど。なんか顔から達成感が感じられるのだよ。まるで魔王を倒してきた歴戦の勇者のような顔つきをしてるぜ」


 なんと勘のいい奴。

 倒してきたというより和解したが正しいけど。


「まーな。すげーだろ?」


 千秋のはただの冗談だろうけど、面白いので乗ってみた。


「世界の半分は手に入った?」

「おう、ばっちり……って倒すどころか懐柔されてんじゃねえか!」

「魔王に魅せられた兄の心を取り戻すため、剣を手に取り旅立つ妹……かっこいいと思わない?」

「展開は熱いがお前じゃ役者不足だな」


 いくらテレキネシスが使えても、あの最凶の忍者に勝てるかどうかは疑問なところだ。

 ちなみに茜の忍術の腕はあの家系の中で歴代最高らしい。


「そうですよ。そこは兄と妹……ではなく父と娘が最適だとは思いませんか?」

「んー、何? よく聞こえなかったからもう一度言ってみな?」


 千秋は威圧感たっぷりに笑いかける。


「ひっ! ごめんなさいでした!」


 おい、こいつ『ひっ!』って言ったぞ。『ひっ!』って。

 昨日部屋で何かあったのだろうか。


「千秋……お前夏穂に何したんだ?」

「知りたい? お兄ーっちゃん」

「え、遠慮しておこう」


 怖いので聞くのはやめといた。


 お話があるとかで夏穂を連行していった千秋は無視して俺は自室に帰ってきた。

 あー、やっぱり自分の部屋は落ち着くぜ。

 壁には大量の自分の写真ではなくアニメの美少女ポスター。

 床に転がってるのは忍び鎌や鎖分銅、鉄扇といった数々の暗器ではなく、読みかけの漫画やライトノベルたちだ。


 いまだかつてこんな平和な一時があっただろうか。

 もう忍者でストーカーで超能力者な幼馴染に怯える生活はおさらばできるのだ。

 ……あぁ、ここが極楽か。


「お兄ちゃーん! お客さんだよー」


 ――と、人がせっかく平和を謳歌(おうか)しているというのに、空気も読めずに千秋が入ってくる。

 まったく何だというのだ。

 俺に客なんて心当たりがまるでないぞ。


「どちら様だ?」


 俺のプライベートタイムを邪魔するやつは一体どこのどいつなんだ。

 もしこれが神田とかならボコボコにしてやるところだな。


茜姉(あかねえ)だよー」

「ひぃっ!」


 やだ俺ったらボコボコにされちゃうかも。メンタル的な意味で。


「もー、そんな叫び声なんか上げてひどいよ!」

「ぎゃあっ! いつの間に!?」


 突然声がしたので振り向くと、何故か背後に茜が立っていた。

 そんなバカな。物音一つしなかったぞ。


「茜姉久しぶりー」

「久しぶりだねっ、千秋ちゃん!」


 千秋はなんで平然としてんのよ。

 大物なのかバカなのか……多分後者だな。うん、間違いない。


「で、何の用だ?」

「むー、何かいやそうだね。いつでも来ていいって言ったのは夏彦くんなのに」


 茜が湿布を貼った頬を膨らました。


「いや、たしかに言ったけども。まさかこんな早く来るとは思わねえし」


 帰って三十分と経ってねえぞ。

 どんだけ俺のこと好きなんだよ。


「でもこういうのは早く渡さなきゃなって思ったから」


 茜は可愛らしくラッピングされた包みを見せる。

 おいちょっと待て。いつ出したそれ。

 さっきまで手ぶらだったのに全く何か取り出すような素振りは見えなかったぞ。


「わっ。なにこれかわいいー! 何が入ってるの?」


 いつの間にか茜の手に上に出現した包みに、千秋は何の驚きも示さず褒め称えている。

 ここまで平然とされていると俺がおかしいんじゃないかと不安になるな。


「これ? これはねー、クッキー焼いてきたの。夏彦くんには迷惑かけちゃったからおわびにと思って」

「嘘つけ! たったの三十分でクッキーが焼けるわけねーだろ!」


生地の下準備とか考えたら一時間はかかりそうなものだが。


「わー、美味しそう! 何があったか知らないけどよかったね、お兄ちゃん!」


 なんなの、やっぱ俺がおかしいの?

 もしかして人間界の常識が通じない異界に迷い込んだの?


「……受けっとってくれるかな?」


 茜が上目遣いでこちらを見る。

 うっ、可愛い。


「おう、ありがとな」


 もしここで断るやつがいたら人間じゃないな。

 茜は受け取ってもらえたことがそんなに嬉しいのか、顔をぱあっと輝かせた。


「うん! 食べたら感想教えてね! じゃあ、これだけだから私は帰るね」

「じゃあな。気をつけろよ」


 ていっても、すぐ隣だけど。

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