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プログラム十四番︰昼食休憩

 午前の部が終わったあと、各クラスの保険委員は学校中を駆け回っていた。

 例年、伊江洲比高校の体育祭では怪我人が続出するので、人手が何人いても足りないということで、保険委員がひっぱりだことなる。

 それはもちろん2-Aも例外でなく、保険委員の溝口くんや新町さんが何度も校舎とグラウンドを往復しているのを、俺は弁当をつまみながら遠目に見ていた。


 いやはや、二人とも大変そうだけど昼食を食べる暇はあるのだろうか。

 そもそも、教育機関として怪我人が続出するイベントはどうなんだろう。

 まあ、前者は俺には関係のないことで、他人の心配をするよりも午後の部に備えてしっかり休む方が得策というものだろう。

 だって、俺は人より休める時間が少ないのだから。


「おとーっさん! なんでそんな一人で黙々とご飯食べてるのー?」


 俺に抱きつこうと飛びかかってきた夏穂をさっと避け、食事を続行する。

 ただでさえこうやって奇天烈な女どもに振り回されるのだから、余計な心労を増やすのは下策なのだ。


「夏穂、人が食べてる最中に抱きつこうとするのはやめろ。弁当ひっくり返したらどうすんだ」

「そしたら私のをわけてあげるから大丈夫。今日もたくさん持ってきてるからね」


 そう言って、夏穂は重箱のような弁当箱を見せる。

 相変わらずよく食うやつだが、一体その細身のどこに詰め込んでるんだか。


「そうだ、せっかくだから私が食べさせてあげるよ! はい、あー……あれ?」


 俺の意見も聞かずに箸を持ち上げようとした夏穂の手が急に止まる。

 どうしたんだろう。


「ダメじゃん、夏穂ちゃん。勝手なことしちゃ」

「千秋」


 声の聞こえてきた方向を見やると、そこには穏やかな笑顔を保ちながらも怒りを露わにする我が妹がいた。

 なるほど、お前の仕業ね。

 今、夏穂の手が石像のように硬直しているのは、千秋のテレキネシスによるものだろう。

 まあ、千秋は超能力のことを秘密にしているようだからあえてそのことに触れる気はないが。


「来たる体育祭の日にはお兄ちゃんと二人で

 仲睦まじくお弁当を広げるのが入学した時からの密かな野望だったのに、まさか茜姉以外からの妨害を受けるとは当時は思ってもみなかったよ」

「そりゃまあ、私はお父さんの恋愛フラグをぶち壊すためにタイムスリップしてきた訳ですし」


 恨み言を言う千秋に夏穂は反論する。

 そういえばあったね、そんな設定。

 でも、最近じゃ柳生を助けるのに協力する始末だし、すっかり忘れていたよ。


「でも恋は障害があるほど燃え上がるもの……私はどんなに大きな壁が立ち塞がろうと、お兄ちゃんへの恋路を諦めないんだから!」

「お願いだから諦めてくれよ……」


 俺の選択肢には娘だろうと妹だろうと近親ルートは含まれていませんから。

 つーか、夏穂さん。あなたフラグぶち壊すどころか強化してません?


「大丈夫だよ、お父さん。今まではあまり大きな動きはできなかったけど、これからはみんなのことを積極的に邪魔するから!」


 とかなんとか言ってるけど、いまいち信用に欠ける発言だよなあ。


「積極的に……なんだって?」

「も、もちろん叔母さんは除いて!」


 千秋にちょっと凄まれただけでこれだからな。


「……って、今までは? まるで何か邪魔ができない理由があったような言い方だな」


 危うく聞き流しそうになった夏穂の言葉が引っかかる。

 もし理由があるとするならば、夏穂の行動に対策を取れるかもしれないからね。


「あー……私がお父さんの人間関係に干渉することで歴史の流れが早まる可能性があったからね。ほら、塚原さんと最初にあった時に、私が知ってる歴史と違うって話をしたでしょ?」

「そういえばそんなこともあったような……」

「交流の時間が増えることによってフラグが強化されたら困るからね。その点、私が知りうる限りでお父さんと恋愛フラグが立つのは柳生さんが最後だから、これからそんなこと気にせずにアプローチできるように……って、そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ!」

「そんなこと言われても、茜や愛歌みたいな奇人に手を焼いているのに、その上夏穂までとなると俺の身が持たねえよ」


 今だってストレスフルな毎日に胃腸がぼろぼろだというのに。

 まあ、そんなことは置いといて、対策を取れる内容ではなかったな。無念。


「安心して、お兄ちゃん。夏穂ちゃんはお兄ちゃんに手出しできないように私がしっかり調教するから!」

「いや、だから面倒事増やすのはやめて」


 千秋も奇人の一人に含まれているんだからね。そこら辺わかってる?

 いい加減静かにして欲しいよ。

 まったく、休憩時間くらい休ませて……。

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