プログラム十三番︰部活対抗リレー(後)
『バレー部はスリーマンセルでの出場のようですね。なんと、一方がボールをトスし、もう一方がスパイクによって他の走者を妨害! あとの一人がボールを回収していますが、これはなんとも独創的! 高い芸術点が見込まれますが……解説の相土さんはどうでしょう』
『えー、はい。ぼくもそう思うかなぁー』
『恐縮です!』
部活対抗リレーは第一走者にしてすでに混迷を極めていた。
実況が言ってたようにバレー部が他のレーンに攻撃を加えたり、野球部はキャッチボールをしながり走ったり、サッカー部が曲芸ばりのリフティングをしていたり、美術部が水彩画を描いたり、吹奏楽部がフルートを演奏したり、エトセトラ、エトセトラ。
あ、吹奏楽部の人が胃の中の物をリバースしてる。さすがにフルート演奏は無理があったようだ。
一際異彩を放っていたのがコンピュータ部の第一走者こと神田だ。
なにやらノートパソコンを操作しながら走っているが、絵面が地味すぎて逆に目立っている。
『神田先輩……失敬、コンピュータ部は何をなさっているのでしょうか? ただノートパソコンをいじるだけでは、失礼ながら高い芸術点が得られるとは思えないのですが』
『僕も同感だなぁー』
『おや、ポケットから何か取り出しましたね。あれは……ウェブカメラでしょうか?』
『みたいだねぇー。パソコンに取り付け始めたよ』
『不躾とは思いますが画面を覗いてみましょうか。こんなこともあろうかと双眼鏡も用意しています!』
いや、どんなことだよ。
まあその、競技の観戦用ということなんだろうが、今の話の流れだとパソコンの画面を覗き見るために双眼鏡を持ち歩いてる様に聞こえるぞ。
『あれは――ツイキ○ス! ツイキ○スです! なんとコンピュータ部、走行中にツイキ○スで生配信を始めました!』
もうマジで意味がわからん。
いやしかし、この意味不明さは芸術点は相当高いんじゃないだろうか。……興味ないけど。
『神田選手、第二走者にバトン代わりのヘッドセットを渡し、選手交代です! コンピュータ部は現在トップの剣道部部長、藤崎真虎選手を追い上げます!』
『神田選手は機材の取り付けをしていた分、スピードがでなかったんだろうねぇー』
『解説ありがとうございます! では、せっかくですからコンピュータ部の配信を見てみましょうか! こんなこともあろうかと、中条グループ協力の下、巨大モニターを用意しています!』
いやだからどんなことだよ。
体育祭の部活対抗リレーでコンピュータ部が生配信を始めた時のためにモニターを用意とか、もはや予言者の域なんだが。
『さあ応援席の皆様、後ろをご覧下さい!』
実況の促されるままに後ろを向くと、そこにはどでかい液晶画面が。
画面には今現在走っているコンピュータ部の第二走者がピースをしながら映っていた。
『いえーい、観てるー? 来年伊江洲比高校に入る予定の中学生たち、我らコンピュータ部をどうぞよろしく!』
片手でノートパソコンを支えながらもう片方の手でピースを作り、実況をしながらリレーを走る……って、かなりの芸当だと思うんだが、この人はなんでコンピュータ部なんかに入ってんだろう。
運動部にすればよかったのに。
『コンピュータ部すごいです! 見学に来た中学生のみならず、ネット配信によるアピールもした上で、意外性による芸術点稼ぎという計算し尽くされた行動! 肉食……まさか、いかにもインドア派が入りそうな文化部とは思えない肉食性です! 小生、敬服しました!』
なんか、さっきから薄々思っていたんだけど、この剣とかいう放送委員の一年生失礼じゃね?
話し方は異様に腰が低いのに、いちいち人の神経を逆なでするような発言が見受けられる気が……。
『おおっと、ネットではコンピュータ部の配信が拡散されまくっています! 某巨大掲示板にも複数スレが建っている模様! 恐るべきコンピュータ部、全国を爆笑の渦に巻き込んでいます!』
……もう、俺は疲れた。
なぜ心の中で届きもしないツッコミを続けなきゃならないのだろうか。
大体、この高校の体育祭に疑問を持つこと自体が間違いだったのだ。
これからはすべてを受け入れて競技に臨もう。うん、そうしよう。
俺が固く決意をしたと同時に、肩に誰かの手が乗せられていた。――文乃だ。
「一宮くん、お疲れ」
「文乃……」
文乃はどこか、遠い目をしながら労いの言葉を俺に投げかけた。
そうか、俺の他にも常識人がいたらしい。よかった。
ちなみに、リレーの結果はというと最初にゴールしたのは剣道部だが、一位はぶっちぎりの芸術点を手にしたコンピュータ部だったらしい。
もう勝手にやってろ。




