プログラム十三番︰部活対抗リレー(前)
小学校の運動会や中学校の体育祭でもそうだったのだが、こういうイベントの時って妙にそわそわして、一か所に落ち着いていられないんだよね。
ということで応援席をふらふらとしていたら、早月に遭遇した。なぜか体操着でなく道着姿である。
「よう」
「あ、一宮先輩。玉入れ見てましたよ。大活躍だったじゃないですか」
「そりゃどうも。まあ、あれは愛歌のおかげで勝てた面もあるが」
「すごかったですね、体当たりで籠を倒して……玉入れってなんでしたっけ?」
玉入れとはなにか……とは、早月もまた哲学的なことを聞いてきたものだ。
名前の通り玉を入れる競技に決まっているじゃないか。
その程度のことで疑問を抱いているようじゃ、この先の伊江洲比高校で残りの二年半をやっていけないぞ。
「そういえば先輩、白組からの妨害球になにか投げてませんでした?」
「クナイだな」
自衛のため持ち歩いてる暗器だが、玉入れでは守備をすり抜けた妨害球を撃ち落とすのに一役買った。
手前味噌ながら俺もいい仕事するよね。
「なんでそんなもの持ってるんですか」
「早月も茜は知ってるだろう? あいつは俺の幼馴染だから……つまり、そういうことだ」
「先輩……今一度小学一年生から国語の授業を受け直すことをおすすめします」
早月の冷ややかな視線が俺の体に突き刺さる。
久しぶりの蔑むような目に思わずゾクッとしちまったぜ。いや、別にMとかじゃなくて。
「もう俺のことはいいじゃないの。それより早月、その格好は?」
「ああ、これですか。部活対抗リレーに参加するんですよ……」
「すごく嫌そうだな」
「そりゃ嫌ですよ、恥ずかしいですし。なのに引退したはずの元部長がいきなり来て、剣道部の参加を勝手に決めたんですよ!? 大体、あの人の言動は前から意味不明なんですよ。唐突にトランプを持ち出してスピードをやろうと迫ってきたり、引退したかと思えば『俺は受験をやめるぞ、ジョ○ョー!』とかわけのわからないこと叫びながら部室にこもってゲームを始めたり! それを発見した顧問の柿本先生もまったく注意しないし!」
「わかった、もうわかったから」
凄まじい剣幕でまくし立てる早月を俺はなだめる。
真面目な早月としては、今の剣道部によほど不満があるらしい。
うん、まあツッコミ所満載だったけども。
『次はプログラム十三番、部活対抗リレーです。出場する生徒はグラウンドに集まってください』
「あ、じゃあ呼ばれたんで私行きますね」
「おう、頑張れよ」
俺は、競技が目前に迫ってもなお嫌そうにする早月を、静かに見送った。
だってねえ、他のやつらみたいにたかが体育祭に心血を注ぐなんて無理よ?
早月が向かった部活対抗リレーだが、これは紅白混合のチームで戦うので、紅白のどちらにも得点は入らない。いわばエキシビション的な競技だ。
しかし、体育祭には高校見学をしに中学生が来校するため、新規部員獲得の宣伝のために大いに盛り上がる目玉競技の一つでもあるのだ。
……こんな体育祭、中学生に見せて大丈夫か?
『えー、こちら放送席、栗橋南と神田信行の両名に代わりまして、1年A組の相土撃太郎並びに小生、剣京子が僭越ながら務めさせていただきます!』
『相土です。よろしくお願いします』
『さて、部活対抗リレーですが、第一走者がすでに待機していますね。おっと走者の中には先ほど栗橋先輩と共に面白い実況を繰り広げた神田先輩もいますよ! 小生、神田先輩からは直々に実況者の任をいただき、大変恐縮している所存です!』
俺は、実況の言葉に耳を疑った。
なぜコンピュータ部の神田が部活対抗リレーに出場しているのだろうか。
部活対抗リレーはゴール順位に加えて、部特有の独創的な走りを見せることで芸術点が入り、その合計で勝敗が決まる。
俺にはコンピュータ部が特別な走りを見せられるとは到底思えないんだが……。
『始まりました、部活対抗リレー! 現在トップは剣道部』
お、始まったか。
レースを見るに剣道部の第一走者は早月のようだが、中々やるなあ。
『剣道部は竹刀をバトン代わりに、道着姿で走っております。袴のために走り辛そうですが、小生の意見としましては意外性に欠けるので芸術点は低くなることだろうと愚考します! そこのところ、相土さんはどうでしょう!』
『僕もそう思うよぉー』
『小生の浅はかな考えに同意していただけるとは、恐縮です!』
うん、終始へりくだっている実況者だが、言ってることはもっともだ。
やはり部活対抗リレーはくせもの競技だ。
さて、コンピュータ部はどうなっているやら……。
実話。




