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カチコミ! 暴力団事務所

「ちょ、ちょっと待て! てめえ本気か? つーか正気か!?」


 柳生は目が飛び出さんくらいに驚いた。

 まあ暴力団に喧嘩売るなんて宣言したらそうなるよね。

 俺だって一人だったらこんなアホなこと言わない。

 けど俺が頼めば確実にオーケーをくれる地上最強の女子高生、上泉茜がいれば一暴力団を壊滅させることも容易いだろう。

 その他諸々の後始末も請け負ってくれるだろうし、報酬が必要ならば適当に労ってやれば納得してくれそうだ。

 まあ、依頼が依頼なのでキスくらいなら求められても我慢しなくはない。

 ……あれ? 俺の思考、なんかクズっぽい。

 い、いや、茜の所業には散々迷惑をこうむってきたんだし、迷惑料と思えば安いもんだろ。……たぶん。


「本気も本気。搾り取られた金はきっちり耳を揃えて返してもらおうぜ」

「おいおい……マジで死ぬかもしれねえぞ。やつら、噂じゃかなりヤバイ武器持ってるらしいし。日本刀(ポン刀)拳銃ハジキどころの騒ぎじゃねえぞ。いや、それだけで充分やべえけどさ……」


 うん、知ってる。

 近衛組って言ったら、夏休みに茜の家襲撃してたからね。

 アサルトライフルやロケットランチャー持ってた本職の人もいたけど、全員茜が制圧してました。素手で。


「なにも心配いらねえよ。この俺、一宮夏彦に全部任せろ」


 俺はどんと胸を叩いた。

 って言っても、結局全部茜に丸投げするんだけどね。

 ずいぶんと格好つけたが、実情はなんとも情けない話である。


 ***


 多くの人は寝静まっているような夜、俺と茜の二人は近衛組の事務所が入っているという建物の前にいた。

 外見は何の変哲もない雑居ビルだが、茜が言うからにはそうなんだろう。

 大体暴力団の事務所だと明らかにわかる方が問題だ。


 ……やはり足がすくむな。

 ただ、いくら茜が強いからと言って、一人で危険な場所に行かせるわけにはいかない。

 だから――茜は反対したものの――俺が同行したのだ。

 万一の時には俺が守ってやらないと。

 大丈夫、茜には遥か及ばないが俺だって強いはず。


「夏彦くん、見て。誰か入っていくみたい」


 茜がビルの前を指差す。

 そこには一人の男がいた。

 ビルはセキュリティ万全のようで入りあぐねていたのだが、入ろうとしている人を見れば抜け道が見つかるかもしれない。


「ドアのオートロックが解除された隙に一緒に入るか?」

「待って」


 腰を浮かせた俺に、茜が制止する。

 ドアの前の男は壁の横に取りつけられた機械、たぶんマイクだろうと思われるものに向かってぼそぼそと呟いている。

 それが終わるとドアが開き、男はビルの中へと消えていった。


「89665」

「え、聞こえたのか!?」


 茜が急に数字を唱える。

 もしかしてさっき男が言ってたのはそれか。

 正しければドアのロックを解除する暗証番号だろうけど……。

 ここからは結構離れてて、聞こえるような距離ではなかったはず。


「まさか。ただ上泉流読唇術で読み取ったまでだよ」

「マジですげえな、上泉流忍術」


 強い上に便利と来た。

 果たして上泉流忍術でできないことはあるのだろうか。

 というか、そもそも読唇術に流派も何もあるのだろうか。

 なんて思いつつ、上泉流忍術に細かいことを気にしてはいけないということはよく知っている。

 俺たちはドアの前に立つと、茜がマイクに向けてもう一度暗証番号を唱えた。


「89665」


 それに対し、ブブーッという機械音が鳴り、扉は閉じたままだった。


「あ、あれ?」

「実は番号が間違ってたんじゃないか?」

「いや、そんなはずは……ちょっと待ってね」


 茜は壁横の機械に手を触れる。

 サイコメトリーか?


「うん、なるほどなるほど。どうやらこの機械、暗証番号と一緒に声も認識するらしいね。登録されている声じゃないとロックが解除されないみたい」

「おいおい……どうすんだよ」

「大丈夫、それがわかっているなら打つ手はあるから」


 打つ手って、登録制じゃどうしようもないように思えるんだが。

 そんな俺の考えに反して、茜が軽く首を叩いたあとにまた暗証番号を唱える。


「89665」


 ――今度は、男のような野太い声で。


『暗証番号ヲ認証シマシタ』


 ロックが解除されたらしく、ドアが開いた。


「さ、行こう」


 茜は爽やかな顔をして言った。


「お前今何したの!?」

「やだなあ、そんな驚かないでよ。ただの上泉流声帯模写術を使っただけだから」

「なんかお前、上泉流ってつければなんでもいいと思ってない?」

「それはうちの開祖に言ってよ」


 何故なんだ、上泉流忍術の開祖よ。

 俺が念じても死人から答えてくれない。

 まあ上泉流の理不尽さはいつものことだし、俺はため息をついてビルの中へと進んでいくのだった。

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