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華羅滅理是総長・柳生エイリスの事情

「柳生!」

「てめえ、昨日の。どうしてここに……つーか、何でアタシの名前を知ってるんだ?」


 俺が屋上のドアを開けると同時に叫ぶと、柳生の顔は驚きの色に包まれた。

 それは見つかったことへの驚きか、それとも名前を知られていたことに対してか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。


「単刀直入に聞く。お前が一連の財布泥棒の犯人だな?」

「意味わかんねえ。てめえマジでウゼエな」


 柳生はしらばっくれる。当然だ。

 どこにも証拠がないんだし、たとえ監視カメラで財布が盗まれる瞬間を写したとしてもそれは財布がひとりでに消える怪奇現象の一部始終を収めるだけだ。

 柳生が自白しない限り、誰も彼女にたどり着けない……はずだった。

 だが、俺は柳生を一瞬で追い詰める秘密兵器を持っている。


「超能力者、なんだろ?」

「はあ!? バカじゃねえのか? 超能力とかある訳ねえだろ、んなもん」


 柳生は目に見えてうろたえた。

 ただまあ、これだけじゃまだ知らんぷりされてお終いだ。

 だから俺はさらに続ける。


「実は俺もなんだよ。千里眼の使い手だ。さっきドアを開けると同時にお前の名前を読んだだろ? あれはお前がここにいるとわかってないとできないはずだ」

「……てめえは、アタシをどうしたいんだよ」


 柳生の目つきが焦りから怒りに変わる。


「え?」

「アタシを犯人だって、先公やサツのやつらに突き出してえのか?」


 事実上の自白だった。

 たしかに早急な解決を図るんだったら柳生の言うようにした方がいいんだろう。

 しかし、俺が目指すはあくまで穏便な解決。

 警察なんてもってのほかだし、学校に告げてもよくて退学は免れられないはずだ。

 それに、俺の考えじゃあこれはただ柳生エイリスという一個人が起こした財布盗難事件には収まらないような気がしている。

 たぶん、柳生にも何か事情があるんだ。

 だとしたら――


「俺は、お前を助けたい!」

「はあ!? 何言ってんだ、てめえは!?」

「お前、何か悩んでるんだろ?」

「……どうしてそう思うんだ」

「さっき、辛そうにしてたから」


 柳生が自白したとき、その手は震えていた。

 自分が犯人だと言い当てられ、どうしようもなくなって、それでも誰かに助けを求めるように……俺にはそう見えたのだ。


「何が目的だよ、てめえは」

「可愛い女の子を助けるのに理由なんかいらねえだろ?」

「なっ、ななな!? ばっ、バカじゃねえの!? よくそんな恥ずかしいことを堂々と言えんな!?」

「だって本当のことだし」


 柳生エイリスは美少女だ。

 やはりハーフの女性というのは(たまに擁護が及ばないほどの例外があるものの)えてして美しく生まれる宿命にあるらしい。

 俺の個人的な感情としても柳生のような美少女が退学するのは惜しいし、ともすれば助けたいと考えるのは自然だ。

 それのどこに恥ずかしがる要素があるというのだろう。


「チッ、マジで頭おかしすぎんだろ。……けど、お前みたいなやつの方が意外となんとかしてくれんのかもな」

「なに、俺今ディすられてんの? それとも褒められてんの?」

「うぜえ……。まあいいや。てめえがそこまで言うんなら、相談……乗ってくれるか?」

「ああ、聞くよ」


 そう答えると、柳生はゆっくりと語り始めた。


「アタシはさ、華羅滅理是っつーレディースチームで走り屋やってんだ。昔はただ風を感じて何もかも忘れたかったんだ。そしたら同じようなやつらが集まって、チームを結成して、気づいたら総長を任されていた」


 この辺は茜から聞いた通りだな。

 俺は柳生の独白に黙って耳を傾け、ただ頷いていた。


「けどよ、アタシらが大きな顔してるのを見過ごせないやつらがいたんだ。事情が変わったのが昨年末、舎弟の一人が本職の幹部が乗ってる車と事故っちまてよ……つっても、後から仕組まれたことだとわかったんだけど。そしたら、法外な慰謝料を請求されて……もちろん、払える訳がなかった。アタシはそいつをなんとか助けてやりたくて、そいつのいる事務所に話つけに行ったんだよ。したら、事故の件を不問にする代わりに毎月上納金を払えって。破格の条件だったし、ちゃんと金を払えば不問にするどころかチームの後ろ盾にもなってくれるって言うからよ……まあ、どの道断る選択肢はなかったんだけどな」

「それで、財布泥棒か」


 柳生は、自分が泥を被ることで仲間を救おうとしたのか。

 こいつは夏穂の言う通り、いい人だな。それも底なしの。


「ああ。最初はチームの全員でバイトしたりして払えてたんだ。けど、段々と請求される金額が高くなっていって……ついには盗みに手を染めちまった。チーム結成の時に決めた硬派一筋の掟を破って恐喝なんかもやった。もうアタシ、どうしていいかわかんねえよ! なあ、アタシは仲間を見捨てればよかったのか!?」


 柳生は俺の服をわし掴みにして、悲痛な叫びを漏らした。


「いや、柳生のやったことは間違ってねえよ。手段こそ悪かったかもしれないけど、仲間を守ろうとしたお前の行動は立派なものだと俺が保証する。それにまだ、今なら取り返しがつくかもしれない」

「え?」

「ひとつ聞くが、お前らから金をせびってんのはどんなやつらなんだ?」

「……近衛組だ。この付近一帯を傘下に収める暴力団さ」

「そうか……」


 俺はそこで一呼吸置き、宣言する。


「よし! そいつら潰すぞ!」

Q.たとえ暴力団相手でも潰すのは犯罪なんじゃないんですか?

A.茜さんがなんとかしてくれます。

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