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怪しい女

 その少し変わった風貌の女は、机の上に片膝を立てて座っていた。

 変わった、というのはまるで暴走族が着るような特攻服らしき上着のことで、それを制服の上から羽織っている。

 また、薄く開いた窓の隙間から吹き込む風にたなびかせている、腰ほどまで伸ばした長い銀髪も目に新しかった。

 彼女が俺と愛歌の存在に気づくと、切れ長で、髪と同じく銀色の双眸そうぼうををこちらへと向けた。


「誰だ、てめえら」


 女は極めて不機嫌そうに目を細める。


「あら、わたくしたちのことをご存知なくて? 特に、二年生でこのわたくしにそのような質問をぶつける輩がいるなんて、ひょっとしてモグリなのかしら」 


 一丁前に有名人気取りですね、愛歌さん。

 けれど、俺はともかく愛歌のことを知らないやつがこの学校にいるのはたしかに驚きだ。

 ましてや、この銀髪女がブレザーに着けている赤のバッジは二年生であることの証明だ。

 同学年だったら愛歌の存在というのは嫌でも目につくはずだが……。

 そして、わたくしたちと仰られましたが愛歌さん。俺は有名人じゃありませんよ? 本当だよ?

 ちまたでハーレム王なんて不名誉な称号を授かっている事実、俺は認めないからな。


「知らねえよ。アタシは学校のことなんか何も興味ねえ」


 女はそう言って机にかけてあったカバンを担ぐ。

 そして、俺と愛歌の前で立ち止まった。


「おい、そこどけ」


 やはり、彼女は不機嫌そうに言う。


「どこ行くんだ?」

「帰る。つーか、いちいち聞いてんじゃねえよ、うぜえんだよ。チッ、これだから学校は嫌いなんだ」


 銀髪女は悪態をつきながら、俺と愛歌の間に強引に押し入り、空き教室から去っていった。


「行ってしまいましたわ」

「怪しさ満点だったよな。何も聞けなかったが」


 とはいえ、逃がしてしまったものは仕方がない。

 本当は追いかけてもよかったんだが、うざいと言われたのが地味にショックだったりして心を折られた。

 女の子にあんな冷たい目を向けられてなお、追いかけるなんて怖い真似は俺にはできない。


「でも念写に写ってたのはあの女じゃなくて教室なんだし、探せば何かあるかもしれないな」

「念写が正しく機能してれば、の話ですが……」


 愛歌は先ほど銀髪女と会話を交わしていた時とはうって変わり、自信なさげにうつむいた。

 それだけ調子が悪いとでもいうのか、高飛車な愛歌らしくもない。

 こんな時は励ます言葉の一つでもかけてやりたくなる。


「もっと自信持てよ。ダメだと思い込んだら本当にダメになっちまうぞ。愛歌はいつも通りドンと胸を張ってればいいんだ」


 俺は活を入れるつもりで、軽く愛歌の背中を叩いた。


「むぅー。もしかすると夏彦さんってば、わざとやってますの? だとしたら意地が悪いですわよ?」

「は? なんのことだ?」

「知りません! 自分で考えてくださる?」


 励ましたらなぜだか怒られてしまった。謎だ。

 とにかく、元気は出たようでなによりかな。


「と、とにかくだ! この教室を調べてみようぜ」


 俺はぷっくりむくれる愛歌を促しつつ、空き教室の捜索を始めた。


 調べた結果、収穫はゼロだった。

 机や教卓の中など漁ってみたのだが、特に手掛かりとなりそうなものはなかった。

 つーか考えてみれば、わざわざ手間暇を掛けて調べずとも茜にサイコメトリーを頼めばよかったな。

 まあ終わったことは仕方ないとして、後で茜に願いしておこう。

 今のところはそれだけが当てとなるのかな。


「何も見つかりませんでしたわ。骨折り損でしたわね」

「やっぱりあの銀髪女が関わってんのかね」

「だといいのですけれど」


 そんな愛歌の言葉には自分の念写が上手く行っていればという意味を暗に含んでいるのだろう。

 そこで俺はある提案をする。……いや、元々頼む予定ではあったのだが。


「不安か? ならまた念写を頼んでもいいか? それで上手く行けば愛歌の不調なんてただの思い過ごしってことになるだろ」

「ですが……」

「なに、難しいことじゃない。さっきの女の似顔絵を念写してもらいたいんだ」


 俺はこの教室のことと合わせ、さっきの女も茜に調査してもらおうと考えていた。

 銀髪の女などそうそういるものではないし、特徴を教えれば茜は難なくこなしてくれるとも思ったが、やはり視覚に訴えた方が確実だろう。


「それくらいなら……コールマン、新しい紙を」

「はっ、こちらに」


 いつの間にか消えていたコールマンが、また突如として現れる。そして、愛歌に白紙を手渡した。

 いきなり消えたり出たりするのは心臓に悪いからやめて欲しいんだけど。

 紙を受け取った愛歌は、屋上でやってみせたように念を込め始める。

 そして、紙にみるみると絵が浮き上がってきた。

 浮き上がった似顔絵は、多少ぼやけているものの個人を特定するに足る出来栄えだ。


「これでよろしいでしょうか?」

「上出来だ。どう考えても愛歌の念写はすごい能力だよ」


 俺は銀髪女の似顔絵を受取りながら、愛歌の頭をなでた。

 すると、愛歌は照れているのか視線を外し、うつむいてしまう。

 うーん、かわいい。

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