校舎の上の痴女
財布をなくしたので茜にパンの代金を立て替えてもらい、それを手に教室へと戻った。
俺は昼食をともにする神田と話題に、再び盗難事件ことが挙がる。
「ノミヤも盗まれたのか?」
「ああ。茜がいるからって完全に油断していた」
「上泉の力を持ってしても防げないとは相当だな。購買に行く途中だっけ?」
「そうだけど……なんかあるのか?」
「ふむ……とするとあの噂も幾分か信ぴょう性があるな」
神田は顎に手をあて。何か呟きながら考え込む。
そのまま黙ってしまったので、俺はもう一度尋ねた。
「どうかしたのか?」
「あ、すまん。実は今回の騒ぎの犯人が1-Bの誰かじゃないのかっていう噂が流れていてな。ほら、購買と一年の教室って近いだろ」
「それは……穏やかじゃないな」
1-Bといえば千秋と早月のクラスだ。
二人に限って財布盗難の犯人ということはないだろうが、疑いの目を向けられるだけでも心が痛むというものだ。
「聞くところによると、1-Bだけに盗難の被害件数がゼロらしい。だからってその内の誰かが犯人と決めつけるっつーのも早計だと俺は思うけどな。犯人が1-Bにいると思わせるためにあえて手をつけなかったってこともあるだろうし」
「それは……まあそうだろうな」
しかし1-Bだけ無事というのも気になる。
もちろん、その中の誰かが犯人だと疑っているわけではない。
問題は早月が所属しているクラスであるということだ。
これは俺の憶測に過ぎないが、犯人は超能力なのではないかと思う。
それならば茜の目を欺いて財布を盗むことができるかもしれないし、早月のクラスだけが被害に遭わなかったことも納得がいく。
状況証拠としては上々だろう。
だとすると犯人は俺の恋人候補である可能性も高いのだが、厄介なことになったものだ。
俺としては財布泥棒と恋仲になるどころか、関わり合いになるような面倒事はできれば遠慮したい。
けれど、自分も盗まれた以上そうも言ってられないのだろうなと落胆した。
***
「念写で財布泥棒の犯人がわからないか……ですか」
「ああ。今、頼れるのは愛歌だけだ」
昼休み、俺は盗み聞きされないように愛歌を屋上に呼び出し、財布盗難事件の犯人探しに協力を頼んでいた。
財布泥棒と積極的に関わる気はないと思いつつも、やはりやられっぱなしは癪なので一目その顔を拝んでやろうと思った次第だ。
実は先ほど茜にもサイコメトリーでの調査を頼んだのだが大した成果は得られなかった。
あと犯人を探すことができそうなのは愛歌の念写くらいなもので、こうして手を合わせて協力を願い出ている。
「わたくしだけ……夏彦さんが頼りにするのはこのわたくしだけ……」
……ん? なんだか俺の言葉が曲解されている気がするなあ……。
でもこの不気味に笑うお嬢様、なんだか怖いから考えないようにしよう。
「夏彦さんがそこまで言うのならこの愛歌、喜んで協力いたしましょう!」
「お、おう。ありがとう……」
自分だけが頼りにされることがそんなに嬉しいのか、愛歌は勢い良く胸を叩いて答えてくれた。
実は夏穂に他の超能力者の話を聞くという手段もあったので、これだけ喜ばれると少し申し訳ない気がしてくる。
とはいえ、超能力者が関係しているというのは俺の推論に過ぎず、だからこそ愛歌に頼っているのだが。
「おや、夏彦様。黙られてどういたしました? さては叩かれて揺れるお嬢様の胸に目を奪われましたかな?」
すこし考えに耽っていると、いつの間にか隣に来ていたコールマンが下世話な視線を向けてきた。
最近こいつの言動に関して執事失格なんじゃないかと思うときがあってならない。
「あんた、使用者を目の前にしてよくそういうこと言えるな……。セクハラでクビになったりしないの?」
「ふむ、確かに不用意な発言でしたな。今後気をつけることといたしましょう」
「勝手にしろよ……」
コールマンに呆れつつ視線を前に戻すと、胸を手で寄せ上げている愛歌がいた。
「揉みます?」
「お前もお前で大概だな!」
にこやかに首を傾げる愛歌に、俺は叫ばずにはいられなかった。
なんなのこの子、恥じらいというものを捨てているの?
教室で脱ぎだそうとしたり、人に胸を気軽に揉ませようとしたり、実は痴女なんじゃないだろうか。
……でも、愛歌の豊満なバストには少しだけ興味があったり――――
「ちなみに揉んだ場合は責任を取って婿に入ってもらいますわ」
――――あっぶねええええ!
よかったあ、触る前で。
かわいい顔してなんて恐ろしいことを思いつくんだ、この女は。
「と、とにかく協力はしてくれるということでいいんだな!?」
「ええ、わたくしにお任せください」
話を逸らす……というか戻すために愛歌に再度確認を取る。
それに対して愛歌は快く了承した。




