変化、普通か変なのか
祝・百話!
オープンキャンパスに行ってから数日が経った。
あれから神田とミサキさんの仲はそこそこ順調らしい。
聞いていもいないのに二人とも俺に報告してくれるのだ。
例えばとある学校の昼休み、神田がミサキさんとのメールのやり取りを見せつけてくる。
「なあなあ、ノミヤ! ミサキさんからどこかに遊びに行こうと誘われたぞ!」
「そりゃよかったな」
「これってデートだよな!? 脈ありだよな!? くぅー、モテる男は辛いぜ!」
「うっぜえ……」
やっぱり二人の仲人を買って出たのは失敗だったか。
いやしかし、普段から彼女がいないとぼやかれるのも面倒くさいし……たぶん神田はどうあってもうざい運命なんだな、うん。
というか、今の俺にとって神田とミサキさんの進展具合などどうでもいいことだ。
それよりも深刻な悩みがある。
最近なぜか背中がむずむずするのだ。
何か必要な物が足りないというか……まあ、原因はわかっている。
「あの、夏彦くんいる?」
違和感の原因となっている人物、茜が教室の入り口に立っていた。
茜が正規の方法で教室に入るなんてなんとも驚くことだが、最近はこんなことが続いている。
これが違和感の正体だ。茜がストーカー行為を働いていないのである。
いや、別にストーカーされたいとかそんなことでは全然ないんだけど。
「茜、どうした?」
「よかったらお昼ごはん一緒に食べないかなって」
「え、えっと……まあいいか」
普段なら断るところなのだが、いつもと様子の違う茜にペースを狂わされてしまう。
一体全体なんだというんだ?
「お邪魔するね」
茜が空いていた椅子を借りて、近くに座った。
「ノミヤが上泉の誘いを受けるなんて天変地異の前触れか!?」
「何があったかは存じ上げませんが、夏彦さんは私にぞっこんなんですから勘違いなさらないでくださいね」
昼食を共にしていた神田と愛歌は、茜の参入に騒ぎ立てる。
一応俺の幼馴染なんだし、そんなに驚かなくても……。
あと愛歌さん、俺はあなたにぞっこんだった覚えはありませんが。
「やっぱり迷惑だったかな?」
茜が寂しそうな顔をする。
本当にどうしたの、お前。なんか変なものでも食ったのか?
「どうしたというんですの、一体? 気色悪いですわね……」
「同感。最近ずっとこんな調子なんだよ」
いつも顔を突き合わせれば喧嘩ばかりする愛歌にすら心配されるとは、かなりの重症だな。
普段の茜には迷惑しているが、これはこれで気色悪いのでさっさと戻って欲しい。
***
「それって一宮くんが何かしたんじゃない?」
茜の件を解決するべく放課後、委員会活動を共にする文乃へと相談した。
あの茜といえど女の子なので、きっと俺にはわからない事情があるのだろう。
そこで頼ったのが俺の知り合いの中で一番まともな感性をお持ちのふみのんだ。
彼女なら女心という複雑怪奇な謎を解き明かしてくれるに違いない。
いやしかし、常人に奇人の相談を持ちかけるのはむしろ人選ミスなのでは。
……まあいい。あとで夏穂や千秋にも聞けばいい話。
文乃は返却本の棚戻し作業を行いながらも答えてくれた。
しゃべりながら正しい場所に戻していく文乃は流石だなあ。
俺だったら頭の中がこんがらがってできないわ。
「一宮くん、サボっちゃダメだよ」
「さ、サボッテナイデスヨー。アハハー……」
おかしい。
文乃は俺に背を向けているはずなのに何故バレた。
しょうがない。落ち着いてゆっくりやれば、俺も話しながら本を戻せるはず。
「で、茜が狂ったのは俺が原因だって?」
「狂ったは言い過ぎでしょ」
「そうだな。茜が狂ってるのは元からだった」
「変わってないから……。それで心当たりは?」
「まったくもってないなあ」
思い返せば、夏休みの中盤辺りからすでに様子がおかしかった。
けれど、茜に何かした覚えは何もない。
茜がまとも……じゃなくて頭がおかしかった時期で、一番記憶に新しいのは早月の試合を見に行った時だけども……。
「……うん、なるほど」
「何を一人でうなずいているんだ?」
何も話していないのに文乃は何故か納得しているしている様子。
「もしかしたら一宮くんが直接上泉さんに何かしたとは限らないのかも」
「いずれにせよ俺のせいっていうのは変わんないのね」
「それは置いといて……手がかりが少なすぎるから、まずは上泉さんの観察から始めてみたら? ひょっとするとヒントがあるかもしれないし」
「それもそうだな。ぼちぼちやってみるか」
「私の方からも探り入れてみるから。女同士の方が話しやすいこともあるだろうし」
「サンキュー。じゃあ何かわかったらよろしく頼む」
「任せて!」
茜がおかしくなった原因は分からず終いだったが、文乃の協力をえられたことは一歩前進かな。
明日は文乃の助言通り、茜の観察をしてみよう。
最近夏穂の影が薄い気がしてならない。
一応メインヒロイン(?)なのに。




