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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
14.海賊と女神と女あそび
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海賊さんいらっしゃい 「俺が勝てば、おまえを好きにするぞ?」

 近くの島に寄った。そこはあまり産業のない場所だったが、交易品や農作物や食料品など、なんでもいいので、大量に買い入れた。


 馬車十数台分もある貨物の山は、馬車のなかの亜空間にしまえばすっきりとするのだが、それでは「見せ貨物」の役に立たない。

 船倉から溢れ出てしまった感――を演出するために、甲板の上にも大きな山で盛りつけている。


 空の荷箱だけを並べて、ダミーでもいいかと思ったのだが、念には念を入れて、きちんと中身も揃えてあった。

 単位が「馬車一台」で、盛大にあるだけ大人買いをしていったから、市場の連中は目を丸くしていた。ついでに大喜びとなっていた。俺が相場の五割増しで買い上げたからだ。


 どこかで売りさばけば、収支はそうマイナスにもならない。

 このまま西の大陸まで持っていけば高値となるので、収支は若干プラスに傾くだろうか……?


 亜空間収納持ちが交易をはじめると、輸送コストを限りなくゼロに近づけられるので、とんだチート商売を行える。

 まあカネになど、興味はないが……。

 俺の求める〝幸せ〟は、カネで買えないもののほうが多いからだ。


「さて……。どんな具合だ?」

「北と東に船影。西の遠方にもですね」


 モーリンが目を閉じてそう答える。

 見張りのハーピーと、いちいち声による会話をしていたのでは、効率が悪い。

 大賢者モーリンが、ハーピーの有志たちと使い魔(ファミリア)契約を交わした。

 使い魔(ファミリア)との交感は、思念伝達よりも上の感覚共有となる。つまり、ハーピーたちの視界がそのまま伝わるということだ。


 ちなみに手伝ってもらっているハーピーは、総勢七匹。

 食い気三、色気四の割合だから、あとで五Pをやらないと。


「海賊船かどうか、確認しろ」

「近づかせてみます」


 ドローンやサテライトで監視しているようなものだな。

 遠隔地の情報を居ながらにして得られるというのは、便利すぎる。


「……北と東の二隻に、髑髏と骨(ジョリー・ロジャー)を確認。――海賊船です。西の一隻は民間船に偽装していますが、乗組員が汚すぎます。触れられたら妊娠させられそうです。――海賊ですね」


 断定の理由が愉快だが、まあモーリンが言うなら、そうなのだろう。


「北と東の二隻で、西に追い立てて待ち伏せをする作戦か。――よし、二隻が水平線上に見えてきたら、西に回頭。――やつらの狙いに乗ってやることにしよう」


 こちらがサテライトを飛ばしていることなど、海賊は知らないわけだ。

 髑髏と骨(ジョリー・ロジャー)に怯えた商船のふりを、せいぜい、演じてやるさ。


    ◇


「船長ー!! 逃げ切れそーに、ないですー!!」


 いまは帆を開いて風の力だけで海を進んでいる。


 セーラー服姿のエイティが叫ぶ。船員役である。


 うむ。〝船長と呼べ〟という言いつけを守っているな。よしよし。

 ちなみにセーラー服というものは、本来は水兵の服装である。よってこのシチュエーションでは、まったくもって正しいといわざるをえない。


「きゃー、追いつかれるわー、たいへんよー、きゃーっ、いやーっ、犯されるぅー」


 こっちの駄犬は、台詞が棒読みだ。ひっこめ大根役者め。


 積み荷が満載の俺たちの船は、徐々に包囲されつつあった。

 速力と

 本来は魔法動力で進む船なので、帆は補助用でしかない。ガチの帆船である海賊船から逃げ切れないのは道理である。

 もともとの帆の面積が少ない上に、横帆船なものだから、風上への切り上がり性能もイマイチで――と、このへんの理屈は、ぶっちゃけ、どうでもいいか。


 俺たちは海賊船から逃げ切ることが目的ではなく、海賊船に〝捕まえてもらう〟ことが目的であるのだから、遅い船足で、まったくなんにも問題はない。


「並んで。きたよ。」


 スケルティアがマストの上から、つつー、と糸にぶらさがって逆さまになって下りてきた。


 二隻の海賊船が並走している。

 そしてもう一隻は、ぴったり後方につけてきている。

 完全にボックスに囲まれてしまった。


 絶体絶命~っ。……的な状況なんだな。これ。普通ならば。

 だが俺たちにとっては、カモがネギを背負ってやってきたようなもので……。


 さあ! 鴨鍋ならぬ、海賊鍋の調理に入るかーっ!!


 俺は甲板の荷物の上に登った。


 並走する海賊船の砲門が、こちらに狙いをつけている。

 大陸の内側ではあまり見かけなかった「大砲」が、この大海では船に搭載されている。


 火薬や銃といったものが、この世界にないわけではない。

 だが魔法は無詠唱まで極めれば銃よりも速いし、高レベル魔法使いによる大規模攻撃魔法は、大砲よりも威力がある。

 よって内地においても戦争で銃や大砲が使われることは、あまりない。


 だが船に大量の砲門を並べるように、魔法使いを並べることはできない。よって限られたシチュエーションでは、大砲はこのように実用兵器となりうる。


 だがその大砲を使ってこないことを、俺は確信していた。

 海賊は船を沈めてしまっては、商売あがったりだ。〝殺したい〟わけではなく、あくまでも〝奪いたい〟わけだ。

 陸の上なら皆殺しにしても積み荷は奪えるが、大海原では、船は沈んでしまう。


 よって、砲門を並べているのは単なる脅し。

 決して撃ってくるはずは――。


 ズドン――と、砲門の一つが火を吹いた。

 ボーリングの球ぐらいの鉄球が、俺に向かって迫り、顔のすぐ脇を抜けてゆくのを、俺は肉眼ではっきりと見ていた。

 球の表面の錆の模様まで見ていた。


 頬に、うっすらと傷がついた。血が、つうっと一筋、流れた。


 やつら撃ってきやがった。

 ま。当ててはこないがな。


「――停船しな!! 次は当てるさ!」


 海賊船のマストから吊されたロープに、女がぶら下がっていた。

 すこぶるつきの、いい女だ。


 彼女がこの海賊たちのボスなのだろう。


 歳は二十代の中頃か。片目は眼帯に覆われているが、顔立ちは整っていた。ウェーブが掛かり、ふわりと広がった長い髪が、ワイルドな印象を与えている。


 治療魔法のあるこの世界で、眼帯をしているというのは、すこし気になったが――。

 それもまたチャーミングに思えた。すごくそれっぽい。海賊といったらこうだろう。


 俺は手を振って、船を停船させた。

 大砲を当てて欲しくないからではなく、べつの理由からだったが――。


「積み荷を半分渡してもらう! 通行料さ! ――なに! 逆らわなければ、命までは取りゃしないよ! 安心しな!」


 彼女はそう勧告してきた。

 事前調査の通り、良心的(、、、)な海賊らしい。

 それに対して、俺は、こう答えた。


「だが断る!」

「……はァ? なんだって? その人数で敵うつもりなのかい? ぶち殺されたいのかい?」

「――ふざけるな! 俺のナニを舐めろ!」


 女ボスは顔色を変えた。眉をつりあげる。柳眉を逆立てるというやつだ。美人がやると本当に様になる。


「野郎ども! 思いしらせてやんなッ!!」


 うん。無事に交渉決裂。白兵戦だ。


 海賊たちは、かぎ爪フックを投げてきて、こちらの船を固定。さらにロープを使って乗り移ってきた。

 だが立体機動においては、もともと空間戦を得意とする蜘蛛の足下に及ばない。

 半分くらいは乗り移る前に蜘蛛の糸に捕捉されている。

 乗り移ってきた半分はアレイダが一人無双で受け持った。こぼれた数名は、撲殺聖女が拳でボコる。


 クザクは暇そうにしている。エイティも新調した女性用鎧を着込んでスタンばっているが、勇者剣技を披露する機会はなさそうだ。

 バニー師匠など、ぼんぼんを持ってチアガール・スタイルで応援している。


 手下が全滅しきらないうちに――。勝敗がまだ決しきらないうちに――。

 俺は落ちていた三下海賊の剣を蹴りあげて手に持つと、女ボスの元に向かった。

 顔色を変えている女ボスに剣を向けて――宣言する。


「おう! ボス同士で一騎打ちといこうや!」

「あんたら……、いったい、何者なんだい……?」


 彼女の問いに、俺は答えない。

 かわりに勝負の条件を答える。


「おまえが勝ったら、積み荷は全部持っていけ! そして俺が勝ったら――」


 そこで俺は、ニヤリ、と笑った。


「あんたの好きにすればいいさ!」


 皆まで言わないうちに、彼女はそう返答を返した。


「――あたしのカラダでも! なんでも! 好きにするといい!!」

「あ、姐さん――!!」


 すでに取り押さえられている手下たちが、情けない声でそう叫ぶ。

 見れば――戦闘のほうは、だいたい片が付いてしまっていた。

 ミノ虫みたいに、糸でぐるぐる巻きにされて吊されている者か、一山幾らの感じで小山にまとめられている者か、だいたいそのどちらかとなっていた。

 数名は撲殺パンチの勢いで海に叩き落とされて、いまエイティが救命浮き輪を投げている。


 手下どもの戦いでは、もう趨勢が決してしまっていた。

 いま現在の状況で――。彼女の側に唯一の勝機があるとすれば、ボス同士の一騎打ちで彼女が俺に打ち勝つことしかない。


 ま。手下同士の戦いで勝利するほうが、まだ、勝機はあったろうがなー。うちの娘たち全員よりも、俺のが強い。


「いくよ――!!」


 彼女は構えを取ると、斬りかかってきた。

 意外にも正当派剣術だ。


 海賊の使う、ゆるく曲がったカトラスで、俺と彼女は剣を激しく打ち合わせた。

 はじめは甲板で戦っていたのが、船の縁に乗り、荷箱の上に乗り、ロープに吊り下がって打ち合い、さらにはマストの上に登って、十数メートルの高さで、横木の一本道の上で、前後だけの一次元の動きでフェンシングを行った。


 もちろん、どの段階でも、一撃で打ち倒すことはできた。いつでも可能だ。

 だが俺はあえて、彼女の全力を引き出すべく、彼女のギアに合わせて剣撃の速度を変えていった。

 彼女の剣が、より鋭く、より速くなってゆけば、俺の剣もそれをすこしだけ上回る。


 ほんのすこしだけ――。

 彼女が、「届く!」「もうすこしで倒せる!」と希望を持てるぐらいしか上回らいでおく。

 彼女が実力を十全に発揮するように――。実力以上の領域まで発揮するように――。


 俺は舞台を何度も移しつつ、剣闘を繰り広げた。


 彼女がすべてを出し尽くして、そのうえで、それを上回って勝つ必要があった。


 この手の女は、そうでなければ屈服しない。

 男ばかりの海賊社会のなかで、ボスの座まで上り詰めた女なのだ。

 完全に上だと思わさなければ、体は自由にできたとしも、心までは屈服しない。

 俺はこの美貌の海賊女を、「犯す」のではなく「抱き」たいのだ。


 ――キーン!


 鋭い音が響いた。

 彼女の手から、剣が飛ばされていた。


 ついに、彼女剣撃の鋭さと速さが、俺に追いついてこなくなった。

 ふむ。ここまでかな。


 俺は彼女に降伏を勧告するため、剣を下ろして、一歩――近づいた。

 だがなにか違和感を覚えた。

 彼女の隻眼が、まだ屈服していなかったのだ。


「油断したね! ――食らいなッ!!」


 彼女は眼帯に手を掛けると、それをずらした。

 色の違う瞳が現れる。

 その目は怪しい光を放ち――。そして――。


「……それだけか?」


 俺はそう答えた。


 彼女が眼帯に隠していたのは、魔眼。

 治療魔法のあるこの世界で、「目を失った」というのは、眼帯を付ける理由にはならない。

 失った部位を再生する魔法はたしかに中級以上なので、使い手は少ないが、海賊の稼ぎがあれば、どこぞの神官にでも依頼できるだろうし。

 ファッションなのか、それとも、それ以外の理由があるのかと思っていたが……。

 〝それ以外〟のほうであったようだ。


 彼女の〝魔眼〟は、〝最後の切り札〟というやつなのだろう。

 相手が勝利を確信して、油断したときに使う逆転の切り札だ。


 俺はもちろん油断をしていなかった。

 俺にとって〝勝利〟とは、確信するものではなくて、〝確定事項〟であるからだ。油断する方法が存在しない。


 レジストした感触からいうと、〈滅びの魔眼〉といったあたりか。昔、異次元からの邪神とやりあったときに、ごっついのを食らったことがある。これの百倍ぐらい強烈なやつで、素粒子レベルで滅びるようなやつだ。

 彼女の魔眼は、せいぜい、生命活動を停める程度の力しか持っていないだろう。

 だがそれでも、俺以外の


「あんた……、どうして……、死なない……?」


 彼女は驚きに目を見開いていた。

 エメラルド色に怪しく光るその目が、俺は、綺麗だと思った。


「その目……。綺麗だな。俺以外の男には見せるな」


 そう囁いて、豊満な肉体を引き寄せた。見事なケツを鷲掴みにして、しっかりと抱きしめた。


「あんたにしか……、見せられないよ……」


 女は、こてんと俺の胸に額を預けてきた。


 よし! 屈服! かんりょー!


    ◇


 俺は海賊女をお姫様抱っこすると、いそいそとマストを駆け下り、彼女を運んだ。

 うちの屋敷の海みたいに広いベッドに連れていってもよかったのだが、せっかくなので、海賊船のほうのキャプテン・ルーム――彼女の部屋に侵入することにした。

 彼女の匂いのこもる部屋に、ドアを蹴破ってあがりこむ。


 うちの娘たちはすべて了解したカオ。一部、駄犬あたりは「またか」というカオで唇を尖らせて――。

 縛りあげられている海賊たちは、なにが起きてんのコレ? ってカオをしていたが、そんなザコどものことなんて、どうでもいい。


 情熱的で、甘く熱く燃えあがる、素晴らしい時間を過ごした。


 彼女の匂いの染みついたベッドで、彼女に侵入して――。

 滅茶苦茶セックスした。

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