海賊に狩られたい 「えとね……、名案があるんだけど」
「おーい――! なにか、いるかー!」
俺は空の上のほうに向けて声を張りあげた。
そうすると、ずっとずっと上のほうから、「ないヨー!」と声が返ってくる。
このあいだ部族まるごと乱交をやったハーピーのうちの一匹だ。
俺たちの船がこのあたりの海域をぐるぐる巡っていることもあって、一匹、二匹が遊びにきていたりする。
「そうかー! ご苦労ーっ!」
俺は肉を放り上げた。いわゆる〝マンガ肉〟というやつ。
偶蹄目の獣の腿を骨付きのまま、丸ごと「おいしく焼けましたー」とやったアレを、数十メートルの高さまで三桁超えのSTRに物をいわせて、ぶん投げる。
「ありガトー!」
ハーピーは足のかぎ爪でキャッチすると、むしゃむしゃと空中で食べはじめた。
今日のやつは〝食欲〟のほうっぽい。
食欲より〝性欲〟といったやつもいて、そっちに対するご褒美は、下りてこさせて一発即ハメだったりする。
しかし……。困ったな。
ハーピーの目線からでも見つからないとなると、この近くにはいないってことになる。
こっちの異世界の地も、向こうの地球と同じで〝惑星〟であるようだ。
したがって、高い位置から見回せば、より遠くを見渡せるようになる。
ハーピーが飛んでいる高度は、だいたい、とんびがピーヒョロロロロと鳴いてるあたりの高さであった。
そこから見渡しても、周囲には船影はないらしい。
俺たちは――というか、俺は個人的に、海賊を探していた。
前の島で得た情報では、海賊が出るのは「西の海域」ということだった。
ただ西の海域といっても、海は広くて広大なので、そうそう見つからないでいる。
このまま諦めて、大陸に向かうかなー?
しかし、なんか悔しいよなー……。
あと、海賊の頭領は美人だって噂だしなー。いっぺん拝んでおきたいしなー。
うーむ……。
「ねえオリオン。名案があるんだけど」
船首の乙女像のケツを撫で撫でしながら悩んでいると、アレイダが話しかけてきた。
後ろ手になって、えへへ、とか、村娘みたいな笑いを浮かべている。
「却下。――ハウス」
「ひっどーい! 聞きもしないで却下はないでしょ! あとハウスって――、たまに――いいえ、よく言われるんですけど!? それどういう意味なの! なんとなくムカつく!」
「どうせつまらない案だろうから、先に却下しておいただけだが」
「だからどうしてそう決めつけるのよ!」
おまえ、頭を使うキャラじゃないだろ? ひょっとして自覚ないのか?
「まあいい。……聞くだけは聞いてやる。……それで本当に下らなかったら、おまえ、おしおきな」
俺がそう言うと、アレイダのやつは股間を押さえてもじもじとした。
バニー師匠の荒療治を受けてから、絶好調だ。
射精管理されている五日間は、マジきつくて、地獄だったが――。それを抜けたあとは、天国だった。
「……で、どんな案だ?」
「えっとね……、海賊ってのは見たことないし、よく知らないんだけど……。山賊とかが、隊商の馬車を襲うときって、積み荷が満載で警備の薄い馬車を狙ったりするでしょ?」
「ふむ。そうだな」
明らかに空荷の馬車だとか、あるいは警備に冒険者が雇われている馬車なんかは、山賊だって避ける。
山賊ってやつらは、基本、兵士にも冒険者にもなれなかった、馬鹿ばっかの連中だが――。頭領くらいは、目端の利くやつがやっている。
「……それで?」
アレイダの話に、なにか一理ありそうだと思って、俺は続きを促した。
すぐに嬉しそうな顔になって、アレイダはその先を話はじめる。
「――それでね、それでね! わたしとかコモーリンちゃんとかが、町娘みたいなカッコをして、御者台に座っていると、よく釣れるんだー」
「釣れる?」
「そ。山賊ご一行様が♡」
「おまえな。わざわざ危険を――いやべつに危険はないか。まあともかく。わざわざゴミ掃除なんかしなくたっていいだろう」
「だって、山賊掃除をしておけば、
「オリオン、まえに言わなかったっけ? 『おまえが山賊を見逃せば、あとでそいつは何十人もの罪のない人を殺す。それはおまえが殺したのと同じことだ』――って」
「いや。覚えはないな。山賊を消毒するのに、そんなご大層な理由などいらん。『敵だから殺す』で、殺す理由は充分すぎる」
「まあ……、とにかく……! それで釣って、ひっかってきたのを、全殺しにしていたのー!」
アレイダは目をつぶると、大きな声でそう叫んだ。
「……で、それが海賊を釣ることにも通用すると?」
「……だめ? ……かな? やっぱ……?」
俺が聞き返すと、自信なさげに、ごにょごにょと声が小さくなる。
「町娘のカッコというのはともかくとして……、積み荷か。そこは考えていなかったな」
「えっ?」
「よし。近くの島に行くか」
「えっ? よかった? ……役に立った?」
「採用って、そう言ったぞ?」
俺は親指を立てて、サムアップサインを返した。
駄犬だとばかり思っていたが、たまにはいいことも言う。
「じゃ、じゃあ……、下らなくなかったんだから……! おしおきは……、なしよね!」
「おう。ご褒美をやらないとな」
「えっ? ちょ、ちょっ! ちょおぉぉーっ!! おしおきないって言ったのにいィィ――っ!!」
アレイダをお姫様抱っこして、船の中に運んでいった。
このあと滅茶苦茶セックスした。