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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
13.大海原をエンジョイする
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海賊のうわさ 「話を聞かせてくれないか?」

「あんま無駄づかいすんじゃねーぞー!」


 島に上陸するなり、きゃいのきゃいの騒いで団子になって歩き出してゆく女学生の集団――もとい、俺の女たちを見送りつつ、


 あいつらがまだ弱かった頃には、気にして、ついていったこともあったりしたが……。


 いまではそんな心配もない。


 チンピラなど言うに及ばず、暴漢とか盗賊とか山賊とか、どんな人数で、どんな手口でかかってこようが、撃退というか殲滅してしまえる。うちの教育方針は、基本、「敵は殺せ」であるから、山賊なんかが出てきたときは、文字通り〝殲滅〟してやることになる。


 娘たちのうちで最も戦闘力の低い撲殺聖女ミーティアでさえ、たった一人で十数人からの野盗を、ぼこぼこぶん殴ってハンバーグに変えてしまえる。武術はまるで習っていないので、子供の駄々っ子パンチではあるが、素のステータスだけでも、オーガぐらいなら一撃で沈められる威力を持っている。


 ちなみに大抵の野盗は、オーガよりも弱い。


 あ……。エイティのやつだけは、まだパワーレベリングをしてやっていないっけ。

 まあ、もともとちょっとはレベルがあったわけだし、アレイダたちにくっついてダンジョン深部についていっているわけだから、寄生経験値はがっぽがっぽと入ってきているのだろうし。|《村の勇者》として、レベルは相当上がってきているはずだ。


「心配ですか? マスター? ――コモーリンをあちらに付けますか?」


 遠ざかる娘たちの後ろ姿を見つめすぎていたか――。モーリンがそう言ってきた。


「いや……」


 と、俺は「不要だ」と言いかけたものの、ふと、思い直す。


「そうだな。……ついていってくれ」

「かしこまりました」


 モーリンではなく、コモーリンのほうがそう言って頭を下げる。


 とたたたー、と、小走りに走ってゆく足取りの速さ見て、俺は確信に至った。


 うん。ついていきたかったんだなー。


 服買うのアクセサリー買うの、きらきらした石買うの、地元の甘くて美味しいスイーツ食べるの、〝おこづかい〟の使い道に


 コモーリンとモーリンは、同一の存在のはずなのだが……。

 入っている肉体によって個性が影響されたりするのだろうか。

 なんだかちょっと雰囲気が違うと感じる時がある。


「おまえのほうは、いいのか?」


 あっちに行かなくていいのか? と、聞くと――。


「マスターのお側にいることだけが、わたくしの望みですよ?」


 すっと脇に入りこんできたモーリンに、俺は腕を与えた。

 モーリンを連れて、人で賑わうメインストリートを歩き出した。


    ◇


 娘たちのようにショッピングというのは、俺の趣味ではない。

 雰囲気の良さげな酒場を見つけて、モーリンと入る。

 酒でも食事でもない気分なので、果実の果汁を適当に二人分頼んだ。


 そうしたら、出てきた飲み物は――。

 一つの椰子の実に、麦わらのストローが二つささったものだった。


「マスター。どうかされましたか」


 涼しい顔でモーリンが聞いてくる。


「いや……」


 俺はかぶりを振ると、覚悟を決めた。

 二人で、ほっぺたをくっつけあって、一つの椰子の実ジュースを飲む。


 店内に幾人かいるほかの客は、船乗りたちらしい。

 船が陸に上がっているあいだは、船乗りは基本的に暇だ。公開のあいだの鬱憤を晴らすように、昼間から酒場に入り浸るか、あるいは娼婦を買うか、だいたいどちらかと相場が決まっている。


 長い航海の間に、給料の使い道がまったくないので、そういうことになる。

 船内で博打ぐらいは行われているのだろうが、金は船員たちのあいだを行ったり来たりするから、総額は変わらない。


 こんな場所で、昼間から酒をちびちびと節約しながら飲んでいるのは、きっとスッちまった側なのだろう。


 俺は自分の席を離れると、モーリンをそこに残したまま、男たちのいるテーブルに向けて歩き出した。


 船乗りたちは、女連れでやってきていた俺に対して、はじめ、敵意まじりの警戒の色を浮かべていたが――。


「奢らせてくれないか?」


 俺がそう申し出ると、途端に無警戒な笑顔を浮かべた。


「あんた。話がわかるじゃねえか」


 酒が回ると、男たちはさらに上機嫌となった。


 ちなみに、俺がこっちにいるあいだ、モーリンは一人でテーブル席に残っていた。一人か二人、ナンパしてきた男がいたようだが、どいつも絶対零度の態度で轟沈させていた。


「あんた、なんか聞きたいことでもあるんじゃねえか?」


 強い酒が潤滑油となって、舌がよく回るようになった頃――。男たちはそう言った。

 見ず知らずの他人に酒を振る舞うやつは、詐欺師か、情報収集をしているやつか、そのどちらかに決まっている。


「さっき〝海賊〟の話をしていたか?」


 俺は本題を切り出した。

 店に入ってきたとき、聞き耳スキルで聞こえてきたのだ。正確にいえば、その話が聞こえてきたから、この店に入ったわけであるが。

 スカウト系スキルの地獄耳性能は、意外と侮れない。


「おうよ。西の海で海賊に襲われてな。ほうほうのていで、逃げてきたのさ」

「よく逃げ切れたな」


 通常、海賊船のほうが貨物船よりも性能は上だ。そうそう逃げ切れるものではない。


「ああ。一隻捕まっちまったがな。残りは無事さ。俺たちはツイてたな」

「なるほど」


 貨物船が海賊に対抗する手段は、いくつかある。


1.出くわさないことを祈る。

2.護衛船を雇う。

3.冒険者や傭兵を乗せて、白兵戦で戦う。

4.船団を作る。


 この連中の雇い主の場合は、4の戦略を取ったわけだ。草食動物が群れを作る戦略と同じだ。肉食獣に襲われているとき、草食獣は、一頭が犠牲になることで、ほかの個体が生き残るという道を選択している。


 雇い主にしてみれば、たとえば六隻の船団のうちの一隻なら、損益率一六%ということで、充分に採算の取れる範囲なのだろう。

 一介の船乗りにしてみれば冗談ではないが。


 と、俺がそんなことを考えていると――。


「おおい、ここにいたのか!」


 べつの船乗りが店に入ってきた。

 その男は、俺が話している男と親しげに肩を抱き合った。


「いやあ! ひどい目にあったぜ!」


 男はそう言った。


「ああ――、こいつ、いま言ってた、その船に乗ってたやつだ」


 おや。生きているのか。


「まったく大変だったぜ! 積み荷、半分も持っていかれちまって――商会の連中がカンカンだぜ。――ま、俺たちにとっちゃ、関係ないがな」


 海賊のもとから生還したはずの男が、そんな武勇伝をうそぶいている。


 おや。積み荷も半分は残してやってるのか。

 じゃあ商会の損失は、船が六隻として八パーセントぐらいなものか。消費税を取られるような程度か。もはや損失ともいえんな。

 現代社会のほうが、よほど搾取されているぐらいだな。


 なるほど。

 地域密着型の海賊は、〝ほどほど〟を心得ているらしい。


 盗賊や山賊などでもそうだが、あまりに略奪しすぎたり、皆殺しにしたりしすぎて、被害が目立つようになってくると、商人たちが冒険者や国軍に討伐依頼を出されることになる。

 盗賊や山賊に悪質もなにもないわけだが――。そういう〝悪質〟な盗賊は、討伐されて〝淘汰〟されてゆくものだから、長生きはしない。

 残るのは〝ほどほど〟に稼いでいる連中となる。


 このへん、病原体などと一緒だな。

 宿主を殺してしまう致死性の高い病原体は、その毒性の高さゆえに大繁栄することはない。

 繁栄するのは、たとえば風邪みたいに、宿主を殺さない程度に〝ほどほど〟に悪さをしている病原体である。


「その海賊っていうのとは、どこで出くわしたんだい?」


 俺はエールのジョッキを差し出しつつ、男にそう聞いた。

 男が入ってきたときに、すでにウエイトレスに合図して新しいエールを注文していた。


 潤滑油を一口飲むと、男はぺらぺらと話しはじめた。


    ◇


 男からは、海賊について、いくつかの話を聞き出した。

 ここから西にいった海域を根城にしていること。

 得られた情報のなかでもっとも重要な点は、その海賊の頭領ボスが、美女であるということだろう。


 ここ、肝心な部分なので、何度も念を押して聞いた。震いつきたくなるくらいの、色っぽい美女だったそうだ。


 ふむ……。いつかは会ってみたいものだ。

 これからの航海で、ちょうどその海域に突入するわけだし……。


 ちなみに、有益な情報をくれた船乗りたちには、チップがわりとして――。

 店のなかにいた娼婦の色っぽいおねーちゃんに、帝国金貨を一枚放っておいた。

 帝国金貨は一枚で一〇〇〇Gの価値がある。荒くれ男を三人も四人も相手にするのは、ちとハードかもしれないが、一〇〇〇Gは、一晩の稼ぎとしては充分すぎるほどだろう。

 店を出る時、背後から、男たちのめっちゃ喜ぶ声が聞こえてきたことは、言うまでもない。


    ◇


「すまなかったな」


 店を出るなり、モーリンにはそう言った。

 モーリンと店にはいって、ずっとモーリンをほっぽっておいて、男たちとばかり話をしていた。


「いえ。情報収集は大事なことですから」

「うむ」


 俺はうなずいた。

 やはりモーリンは、いい女だ。なにも言わなくても、きちんとわかってくれている。

 どこかの駄犬みたいに、ぶんむくれたりしない。

 まったくあの駄犬。髪留めをルアーにした程度のことで、いつまでもぶちぶちと……。


「一言あったなら、アレイダもだいぶ違ったかと思いますよ」


 不意にモーリンからそう言われて、俺はぎくりとした。

 モーリンには、考えていることを見通されることが、よくある。精神魔法などは、さすがの大賢者であってもレジストするから、魔法やスキルではない、ほかのなにかなのだろうが……。


「一言って、たとえば、なんだ?」

「いまわたくしに言われたようなことですけど」


 はあァ? ――髪留めエサにして、すまなかったな、とか、言うの?

 誰が俺が? 誰に駄犬に?


 ……ありえねー。


 モーリンを腕につかまらせて歩いているうちに、ふと、店の立ち並ぶ場所にやってきた。

 どの店も、道に大きくはみみだして、商品を出している。

 たまたま、足を止めたその場所に、アクセサリーを売っている店があった。


 俺は品物の一つを手に取った。


 手に取ったのは、たまたま偶然でしかなかったが――髪留めであった。


「こんな安物でもいいのか?」


 値札を見ると、エール一杯で買えるぐらい。――本当の安物だ。


「マスターから頂けるなら、安物であるかどうかは関係ありませんよ。それこそ、海岸で拾った貝殻でも」

「そういうものか」


 じゃあ、そこの道端に落ちてる(捨てられているともいう)バナナの皮だとか、砂浜でよく見かける乾きかけの星形のヒトデだとか、そんなもんを頭に載せてやっても喜ぶのか?

 セミの抜け殻とかでもいいのか? カタツムリとかカブトムシとかなら?


 まったくわからん。

 生ゴミを頭に飾ってやるのは、さすがにアウトだとは思うが。

 どこからセーフで、どこからアウトなのか、まったくわからん。

 駄犬がどこでひゃんひゃん泣きわめくか、くうんと尻尾振ってくるか、犬でない俺には、わかろうはずもない。


 このあいだのと似たような髪留めを買う。色や柄が違っているかもしれないが、そもそも覚えてないし、どんなものでもいいとモーリンが言うので、これだろうがどれだろうが、いいのだろう。


    ◇


 その後――。

 買い物を終えて帰り道のアレイダたちと、道端で出くわした。


 アレイダはいつもの服とは違って、ワンピースを着て、そこらの村娘みたいな格好にかわっていた。

 その髪に、買ったばかりの髪留めを挿してやったら――。


 あいつは、しばーらく、長いこと――目をぱちくりとしてなにも言わずに、カカシみたいにおっ立っていた。


 あきらかに通行の邪魔をして突っ立っているもので、「帰るぞ」と言ったら、子犬みたいに駆けてきて、俺の腕にまとわりついてきた。


 まったく馬鹿なワンコだ。この駄犬が。

 ほんと。手のかかる駄犬めが。

「髪留めルアー事件」のとき、オリオンがアレイダにした約束――。

「まあ、そのうちな」(そのうち優しくしてやる)の伏線、回収しおわりましたー。


実際に海賊が出てくるのは、もちっと先になる予定です。

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