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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
12.バニーさんといっしょ
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おかねの価値 「1万Gぐらい、ちょうだい!」

「ねーねー。お金、ちょうだい」


 甲板のデッキチェアでくつろいでいると、飲み物を運んできた駄犬が、そんなことを言ってきた。

 うん。真っ青な青空と白い雲には、フローズンダイキリがよく似合う。――とかいう南国気分を満喫していたのだが、うちの駄犬が、台無しにしやがった。


「はァ?」


 俺はヤクザのように凄んでみせた。

 だが駄犬は持ち前のニブを発揮して、まるで結界でも張っているかのように、俺の恫喝を一切受けいけない。


「……なんに使うんだ?」

「こんど島に寄ったら、市場行って買い物するから、お金……! おこづかい? とかいうやつ、ちょうだいよ」


 手を「んー」と差し出したままで、アレイダは言う。

 もらえて当然、てな顔をして、言いやがる。


「なんでくれてやらないとならないんだ?」


 俺は、ごくごく単純な疑問を口にした。


 ちなみにうちの娘たちは、勝手にダンジョンに出かけていっているが、そこで手に入れたアイテムやゴールドは、すべて一旦、俺のもとに収めさせている。


 はじめは独立採算制で取っていたのだが、どうもこいつらの金銭感覚には怪しものがあって、現金を持たせておかないほうがいいと判断したのだ。

 なので一括管理をすることになった。


 考えてみれば、蛮族育ち、孤児モンスター、大昔の姫様、大金持ちのお坊ちゃん――と、現金なんて持ったことのない連中ばかりだ。

 まともなのは元冒険者のクザクぐらいなものだった。そのクザクはきゃいのきゃいのと出かけてゆく女学生の群れのなかには入っておらず、「おい」と天井裏に向けて呼ぶと、だいたいすぐに参上してくる。


「おこづかい、くれなさいよ。どケチ」

「〝くれなさい〟とは、またおかしな言い回しだな。〝くれやがれ〟とかいうのと、どっちがおかしい感じかな」

「そんなことどうだっていいでしょ。ケチ。ケチ。ドケチ。おこづかい。ちょうだい」

「ようし。じゃあ一発一〇〇〇G払ってやろう」

「ばか。ほんとばか」


 やーい、赤くなった赤くなったー。俺の勝ぁーちぃー!


「オリオン。なんにも買ってくんないんだから。おこづかいぐらいくれたっていいでしょ」


 どういう理屈だ?


「このあいだ買ってやったろう」


 髪留めを買ってやったはず。

 わかりにくくて、クオリティの低い〝おねだり〟なんかをしてきやがったからものだから、まあ面倒くさいとは思いつつ、アクセサリーを一つ、買ってやった。


「あれ釣り餌にした! 釣り餌にした! 釣り餌さにした!」

「したが、どうした」


 我が家の収益で買ったものを我が家のために使っただけだが。

 なに騒いでんのこいつ?


「スケさん。おこづかい、というものを頂けるそうですわ。楽しみですわねー。わたくし、おこづかい、というものは、生まれてはじめてでー。スケさんはなにに使われます?」


 ミーティアがスケルティアに聞いている。


「キラキラ。とか。ピカピカ。とか。スケ。かうよ?」

「ほんと、スケさん。綺麗な石とかガラス玉とか集めるの好きよねー。でも、買うっていったら服とかでしょ!」


 アレイダは服を買うらしい。おまえなんか服買わんでいい。ヘソ出しミニスカで、動くたびにぱんつ見せてりゃいいんだ。てゆうか。見えるのがいいんだ。チラリズムだ。


「ひらひら。……も。かうよ?」

「ねえミーティア? ミーティアも、服! ほしいわよねー?」

「えっ? あっ、はい。……服、ですか。あっはい。欲しい、かも……、です……」


 伏せかげんにした目で、ミーティアは、俺を、ちらっと見上げる。


 ん? ああ? 俺か? 俺の意見を求められているのか?

 ああ。まあ。俺としては……。

 ミーティアの着飾った姿とか、見たいわなー。


 ドレスが似合いそうだ。

 次に立ち寄る島で、ドレスが売ってるかどうかは、わかったものではないが。


「ぶうー。わたしが言ってもだめなのに、ミーティアが言うと、いいんだからー」


 なんか駄犬が拗ねている。

 最近取り付けられたしっぽが、低い位置で、ぶぅん、ぶぅんと、不平不満を表して振られている。

 やべえ。駄犬がかわいく見えてくる……。


「――で、いくら欲しいんだ?」


 俺は指先を鳴らしてモーリンを呼び寄せつつ、アレイダに聞いた。


「えっと……。じゃあね。とりあえず一〇万Gくらい」

「はあァ?」


 俺はまたしても、ヤクザみたいな声をあげるハメとなった。


「えっ? だめ? じゃ、じゃあ……。一万……(ゴールド)。……とか?」

「はあァ?」


 俺は三度、ヤクザばりの胴間声を張りあげた。


「おまえな。一万(ゴールド)って、いったい、何万円だと思ってやがるんだ?」

「は? ……ナンマンエン? ……って?」


 ああそっか。こっちじゃ〝円〟じゃ通じないわな。


 見れば――、バニー師匠が、笑いをこらえていた。

 ついに決壊して、ぷっ、くすくすと笑い声をたてはじめる。

 彼女には〝円〟で通じているのか、どうなのか。


「いいか? 一万(ゴールド)っていえばな。ええと、だいたい……。


 換算レートは、いくらぐらいになるんだ?

 ちら……と、モーリンに視線を向けてみる。


 モーリンは中空を見上げると、しばらくそのままでいてから――。


「一(ゴールド)の価値は――、品によって価値が変わりますが。食料換算であれば、だいたい一(ゴールド)一〇〇〇円程度かと。また工業製品や薬品や民芸品といった、生活必需品でない貴重な品々においては、一(ゴールド)は一〇〇円ぐらいの価値となりますかと」

「だからその〝エン〟ってなんなの?」

「つまり――だ」


 俺はアレイダの質問をさえぎった。説明がめんどうくさい。


「おまえがいま口にした一万(ゴールド)っていうのは、一〇〇〇万円分のパンを買う金をよこせって意味だ。あるいは武器防具を買うので一〇〇万円分の小遣いをよこせ、っていう意味だ」

「だから〝マンエン〟って、なんなのよ~」

「街の職人が、一ヶ月真面目に働いて、一〇〇〇(ゴールド)の月給を貰えるなら、そいつは、一人前って意味だよ」

「えっ?」

「おまえ、人様の働きの、ほぼ一年分の大金を、こずかいでよこせって言っていたわけだぞ?」


 俺は、そう言った。


「えっ? いやあのわたし……。そんなつもりは……」


 アレイダはしどろもどろになっている。

 蛮族の元族長の娘は、お金の価値を、いまようやく知ったらしい。


「でもあのわたし……、あっ、ほらっ! わたし、自分で自分を買い取ったとき、たしか二〇万(ゴールド)で――、オリオンがわたしを解放してくれようとしたときのお金だって、おんなじ額で――」

「さる王家の血を引いているだったっけ?」


 アレイダとの最初の出会いを思い出しつつ、俺は笑った。

 木檻に入れられて、野獣みたいな目をして、睨んできていたっけ。


「わたしの二〇万(ゴールド)って……、職人さんのお給料でいうと……」

「十七年分ぐらいだな」

「あんた。どれだけお金持ちなのよ。見ず知らずの奴隷に、ぽんと、そんな大金……」

「おまえとスケとで、たった一日で稼いだ額が、その二〇万だったな」

「すこし貯めてたから……、残りの一五万(ゴールド)だったけど……」


「そんな大金を、一日で稼いだりしていたもんだから、おまえの金銭感覚は、すっかり狂ってしまったわけだ」

「うっ……」


 そう指摘すると、アレイダはたじろぐ。


 アレイダ以外の娘たちの顔を見てゆくと――。

 ミーティアは額に冷や汗を流している。いま知ったという顔だ。

 エイティはしきりに感心してうなずいている。こちらもいま知ったという顔だが、ミーティアとは反応が違っている。だからこいつはふてぶてしいと言われる。男のときには憎たらしかったものだが、美少女となると、可愛く見えてくるから、本当に不思議だ。


 最後。スケルティアは、ぽーっとしていた。やっぱり、よくわかっていないっぽい。


 俺はアレイダの声色を使って、さっきのあいつの言葉を投げかけてやった。


「ねえん~♡ おこづかいほしいのぉ~ん。一万(ゴールド)でいいわぁん~♡ かわりに一発ヤラせてあげるからぁ~。――だとか、おまえは軽い気持ちで言ってくるビッチに育ってしまったわけだな」

「うしろのは、言ってない」

「たいがいにしとけよ。娼婦だって二〇〇(ゴールド)もあれば買えるぞ。おま、自分にどんだけの値段つけてんの?」

「だから、言ってない」


「そういやおまえは、自分の処女に二〇万(ゴールド)の値段を付けてたやつだっけ。なに? いくら? 二〇〇〇万円?」


 アレイダは、真っ赤になった。


「もう! わかったわよ! じゃあ――ええと、一〇〇〇(ゴールド)でいいから!」

「一〇万円もこづかい要求するとか、おま、どんだけ……」


「だからジュウマンエンってなんなのよ? ええと――、だからもういいわよ! いくらならくれるの? それとも! くれないの?」

「なぜもらう側のおまえが、そんなに威張っているんだ?」


 俺はモーリンが持ってきていた革袋から、(ゴールド)を一掴み取り出した。

 だいたい目分量で二〇〇〇(ゴールド)ほどを、アレイダの両手のなかに落としてやる。


「こんなに? これ二〇〇〇(ゴールド)ぐらいあるんじゃ……?」

「もちろん、五人分な」

「なんだ。どケチ」

「いいか? 一〇〇(ゴールド)は、一万円だからな。一人、おこづかい、五万円だからな」

「だから〝マンエン〟って、意味わかんないってば」

「なおバナナはおこづかいには含まれないからな」

「ますます意味わかんないってば」


 アレイダが五等分して、皆のところに持ってゆく。

 屋根裏のクザクはまたもやおいてけぼりだが、あとでおこづかいを渡しておこう。……いや。あいつには小遣いよりも、〝情け〟をくれてやったほうが、悦ぶのか?


「おや? 私まで、もらえるので?」


 バニー師匠が、意外そうな顔をしてくる。


「あそびにんはサービスしてくれているからな。――チップだ」


 ぶっちゃけバニー師匠は、どこぞの高級娼婦も顔負けの寝技を持っている。

 彼女が本気を出したら、きっと傾国が何ダースもできあがる。


 さて――。

 女物の服を売ってるショップがあるような、大きめの島に立ち寄ってやるとしようか。


 本日の授業のテーマは、「お金の価値」についてだった。

おかねの価値をはっきりしてみました。


1G=100円です。1万Gは、100万円です。

ただし基本的で一般的な食品は異様に安いです。パン、ワイン、チーズ、など。


1G=100円換算となるのは、生活必需品以外です。

たとえば工業製品だったり、薬品だったり、冒険に必要な品だったり、嗜好性の食品だったりします。


なお「ぼくは人間嫌いのままでいい。剣ちゃん盾ちゃんに助けられて異世界無双」の世界も、同じ世界ですので、お金の価値は同じになっております。


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