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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
12.バニーさんといっしょ
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しっぽ 「そこ挿すとこちがあああぅぅぅ~~っ!!」

「優しくして。優しくして。優しくして」


 人魚を釣って以降、なんかこいつ、つきまとってきては、おんなじことばかりを繰り返すようになった。


 俺はいま、宝物庫の整理をしていた。

 ダンジョンで見つけてきたガラクタ――もとい、マジックアイテムの数々を、分類、整理している。


 アレイダとスケルティア、そして最近はミーティアやらエイティやら、バニー師匠まで連れ立って、パーティを組んでダンジョンに出かけている。


 船で大洋を航海している間も、娘たちは自由にダンジョンに出入りできていた。


 今日、午後からちょっとダンジョンいくー? いいわねー、いこいこー。

 ――ぐらいのカンジで、女学生が午後のスイーツでも食べに行くぐらいのノリで、きゃいのきゃいの楽しそうに連れだって出かけていって、夕飯前には戻ってきている。


 「はじまりの街」と呼ばれるあの街の冒険者ギルドには、一部屋をもらって、転移陣を設置してあった。モーリンあるいはコモーリンに頼んで、わざわざ転移魔法を使わなくても、娘たちだけで行き帰りができる。


 リムルアース迷宮は、初心者向けダンジョンではあるものの、最下層であれば、意外と強いモンスターと、意外と良いアイテムが出たりする。

 途中の回で大虐殺をすると、あそこで稼いでいる初心者と初級者の冒険者たちに迷惑なので、途中の回のモンスターはスルーしろと言いつけてある。

 最近はアレイダが〈威嚇〉を覚えたので、「ぎぬろ」と一睨みするだけで、けっこう高レベルの階層主なんかが、すごすごと尻尾を巻いて退散している。


 俺はもうすっかり引率はしなくなっていた。

 バニー師匠がついているときには、後ろをこっそりとつけて、保護者として護衛するのもなしだ。


 ほかのダンジョンにも連れていったことがあるが、ラストダンジョンだとか、さすがに娘たちだけで気軽に行かせるわけにはいかない。

 俺が経験値稼ぎに使うような場所だから、俺とモーリンの二名の引率が必要だ。二人いないと、園児たちに目が届かない。


 よって、ここに集められているアイテムは、初心者迷宮――リムルアース迷宮産ばかりとなっている。


 エイティの異様なリアルラックの高さのおかげか、それともバニー師匠の「あそびにん」のスキルのせいか、本来、あのクラスの迷宮で出るはずのないレアアイテムが、ごろごろと出ている。


 あそびにんのユニークスキルの〈スーパールーレット〉って、いったい、どういう仕組みなんだ?

 ひょっとして、あそびにんって、ぜひパーティに一人欲しいジョブなんじゃないか? ……いるけど。


 戦利品として、魔法のアイテムがたくさん出てくる。

 呪いのアイテムも混じっていたりするから、俺かモーリンが鑑定して、効能を明らかにするまでは、決して使うな、と厳命してある。


 ほうっておくと、すぐに溜まってしまう。

 おまえらどんだけ稼いできてんの? どんだけ優秀なの? うちの子たち。


「優しくしてくんない。優しくしてくんない。エイティには優しいのに。やっぱ美少女? 美少女がいいの?」

「くだらねーこと、ぶつぶつ言ってねーで、暇なら手伝え。見てるだけかよ。この駄犬」

「アイテムのことなんて、わかんないもん」

「これとこれは+1の棚な。そいつは+2」


 分別済みの剣を、ぽいぽいと投げる。


「んで、こいつは+5」

「+5! ええっそんな凄い! +5っていったら神だって殺せる――」

「――ただし呪われてる」

「なーんだ」

「あとこんな程度じゃ、神なんて殺せねえぞ」


 神にもいろいろある。いちおう神族と呼んでもいい不滅イモータルの存在の、下っ端の下っ端の、さらに下っ端の、なおかつ使い魔――ぐらいのやつは、まあぶっ殺そうと思えば、滅することもできなくはないのだが――。


 あんな初級者ダンジョンの単なる最下層あたりで、まぐれ程度でドロップするような、ごく普通の〝超レア級〟アイテムじゃ、まーちょっと無理だろうなー。


「なんかそれ、殺したことがあるような言いかたよね?」


 ジト目を向けられる。

 こいつは昔は、俺のことを、ふんぞり返っているだけのヒモ野郎とか思っていたっぽい。

 じつは俺が


 俺は答えず、アイテムの鑑定に勤しんだ。


 今回の人生では、どうだかなー。レベルアップはゆったり暮らすのに必要分しか、やってねえし。〝モーリン式〟も受けてねえし。スキル構成だって、効率厨の最適化をしてないし、その時々で、シャレと思いつきでスキルを取得しているし。ポイントなんか、余りまくりで放置してるし。


 ちなみに下っ端の下っ端――ではなくて、〝最高神〟をぶっ殺すには、エルフに生まれて三百年ほど〝モーリン式〟の過酷な育成を受けていないとだめっぽい。ちなみに、俺が前々世で受けた地獄のしごきが、およそ二〇年分ほど……。

 あれの一五倍って……。

 最高神……、どんだけだ?


「これは+1。これは+2。これは回復薬上級。これはエリクサー。これはフェニックスの尾」


 つぎつぎと渡すアイテムを、アレイダが棚にしまってゆく。

 武器はラックに立てかける。防具は人型のマネキンに装着させておく。ポーションは薬瓶の棚に。幻獣の蘇生尾羽は、消費アイテムの引き出しに。


「お?」


 あるアイテムを鑑定したところで、俺は、思わず目を留めた。


 「自在鞭」――と、鑑定結果が出ている。

 鞭とあるが、手で持って使う以外にも、腕だの肩だのに取り付けて、意思のままに動く第三の腕として使うことも多い。てゆうか、むしろそっちのほうが主流だ。

 これを使いこなしてくる相手は、面倒な敵となる。手が一本増えるようなものだからだ。二本の手で戦う人間が、三本の手で戦う相手と対峙したら、相当厄介な難敵となるだろう。


 まあ、勇者業界の上級者同士の戦いともなれば、そもそも戦う相手が、腕の四本ある魔神だったりするわけで、腕の数なんて戦力の差にカウントされなくなってくるのだが……。


「おまえ? 使う?」

「なにこれ?」

「自在鞭、という」

「鞭? ……にしては、短くない? これ?」


 アレイダは言った。

 たしかに中途半端ではある。鞭といえば、何メートルもあるのが普通だが、これはせいぜいショートソードぐらいの長さしかない。それが握りの先に、ぴょろっと伸びている。


「欠陥品かな。+もついてねーし」

「わ。動く。……これ、動くわよ?」

「ああ。だから自在鞭と……」


 アレイダの手のなかで、鞭が、ぴこぴこ動いている。

 そのくねくね、持ち手の感情によって動く様子を見ていると、ふと、しっぽみたいだと思った。


 しっぽか。ふむ。

 本来の自在鞭の使いみちとは違うが、そういうのも〝アリ〟かもしれない。どうせ寸足らずの欠陥品で、出来損ないであるわけだし――。


「おい。ちょっとこっちこい」


 俺は脇にいるアレイダに言った。


「えっ? なに? ――きゃっ」


 その手を掴んで、ぐいと引く。膝の上に引っぱり倒す。


「やっ――ちょっ! またこんなとこで! やっ! ――やだからね!!」


 なにか勘違いしているアレイダが騒いでいるが、無視して、スカートをまくりあげてケツを出させて、ぱんつも半分ほど引きずり下ろす。


「やだっ!! もうまたっ!! また無理矢理ぃィ――!!」


 だからなにを勘違いしているんだ。この駄犬は。

 そんなに無理矢理襲って欲しいのか。そういう願望でもあるのか。――ありそうだな。


 俺の膝のうえに上体をホールドされて、ギャーギャー騒いでいるアレイダの、尾てい骨のあたりにをむきだしにする。

 欠陥品であるとはいえ、自在鞭であるなら、持ち手の柄の端のところに吸着する仕組みが――あった。


 ぴとっ――と押しあてる。


「ひゃん!」


 可愛い声で鳴く。駄犬のくせに。

 尾てい骨のところ。ワンコでいえばしっぽが生える位置に、自在弁は貼りついていた。さっそく動きはじめる。

 アレイダは訓練をしていないから、自在に動くというよりは、自分でも止められない感じに、勝手に感情を反映して動いているようである。


 思った通りだった。

 犬には〝しっぽ〟が必要だな。これまでなんか欠けてると思っていたところだ。


「ちょっともうなに? わたし、なにか、遊ばれているんですけどー」


 口では文句を言っているが、〝しっぽ〟は、ぱたぱたと動いている。


 おおう。いかんぞ。

 駄犬がなんだかすこしかわいく見えてきてしまった。そんな馬鹿な。


「もう、なに。――済んだんなら放してほしいんですけど」


 ぱたぱた。

 そうか。俺の膝に抱えられているのは、そんなに嬉しいか。


「もう放しなさいよね」


 ぱたぱた。


「ふ……、ふふふっ……」


 思わず笑いが洩れた。


「嫌な笑い。お尻になにくっつけたの? 人で遊ぶの、やめてくれる?」


 ぱたぱた。


「そうか、そんなに不本意か……。わははは。ならば、〝くっ、殺せ〟って、言ってみろ」

「なによそれ?」


 駄犬には、この高尚な趣味はわからなかったようだ。

 そういや、こいつ、ナイト系の上級職だったっけな。こんど「女騎士とオーク」のプレイでもしてみるか。


「ねえもう、いつまで抱きしめてるの? そんなにわたしと……、その、シたいの?」


 ぱたぱた。ぱたぱた。いまものすんげー、ぱたぱたしてる。

 くははははは……、駄犬めっ。


 なんか、こいつが気分出してきているみたいなんで、要望通りに、この場で〝無理矢理〟に、ドッグスタイルで押し倒してやろうかと思った俺だが――。


「あっ」


 ふと、思いついてしまった。

 しっぽをつける場所、俺、間違えていたわー。


 尾てい骨に付けていたしっぽを取り外すと、そこから数センチ下がった場所へと――。


「――!! ちょっとちょっとちょおおっとおぉ――っ!! ちがう!! そこちがう!! 間違ってる間違ってる間違えてるってば――っ!!」


 いや。間違えていない。


「んぎゃぁーっ!!」


 アレイダの正しい位置にしっぽを挿した。

 取り外したときには動かなくなっていた自在鞭だが、取り付け直した途端、また動くようになった。

 ぱたぱたと打ち振るう喜びの表現のかわりに、ぴーんと一直線に立ち上がっていたが、これは犬的にいうと、どのような感情表現になるのだろう。


「ひどい……、ひどすぎる……」


 アレイダのやつは、しくしく、さめざめと泣いている。

 あんまり長いこと当てつけがましく、アイテム整理の手伝いもしないで、へたくそな泣き真似をしているものだから――。


「そのひどいのが好きなんだろ?」

「そんなわけないでしょ!!」


 大きな声で、アレイダは返してくる。

 だが俺は言葉面など信じない。

 なぜなら、しっぽのほうは正直だったからだ。


 てゆうか。ほんとに嫌なら、外すよね?


    ◇


 その後、アレイダがよくしっぽを生やしているのを見かけるようになった。

 取り付け位置は〝あっち〟のほうではなく、尾てい骨のほうだったが。

 尻尾も含めた〝三本足〟の運足法を編み出してみたり、高速で飛び回るときのバランス取りに使ってみたり、自在鞭の新しい使い道を見い出しているようである。

 もちろん、感情表現にも大いに活用されている。


 駄犬が、ほんのちょっと可愛く見えてきてしまって、ちょっとヤバい。

 ほんのちょっとだけだぞ? ほんのすこーしだけなんだからな?

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