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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
12.バニーさんといっしょ
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人魚を釣ろう 「シーフード・フレンズよりも、人魚を釣りたいな」

「釣れんなー」


 翌日も〝釣り〟に勤しんでいた俺は、ごん太のマグロを、二、三匹釣り上げた時点で、そう言った。


「釣れませんねー」


 隣で釣り糸を垂れているエイティも、そう返す。

 あっちもマグロなら一、二匹釣り上げているが、肝心の人魚は、ぜんぜん釣れていない。


「でも……、師匠と一緒にいるの……。楽しい……、です」


 エイティがそう言って、ぽっと顔を赤らめる。

 なにおまえ? 押し倒してほしいの?


「わたしも釣る! 釣ーるーっ!」


 アレイダのやつが自分も釣り竿を持って、強引に割りこんで来やがった。

 俺とエイティのあいだに、デカいケツをぐいぐいと押しこんできて、ちゃっかりと陣取る。


 駄犬が。


 やがてアレイダのやつが、なにかを釣り上げた。

 あたりがデカいからって、期待などしない。マグロならもう何匹も釣り上げている。冷凍魔法でカチンコチンの冷凍マグロになって、屋敷の食料庫にぶら下がって魚群を作っている。


「……? マグロじゃないな?」


 それは大きさでいうとマグロ級ではあるが、明らかにマグロではなく――。

 かといって人魚でもないが――。


 それは、透明なぐにゃぐにゃのゼリーをまとった――女の子だった。


「これは人クラゲですね」


 モーリンがやってきて、そう言う。


 女の子――いや、人クラゲは、水からあげられると、自分の体が重たくて動けないのか、甲板の上で寝そべったまま。

 必死に逃げようとして、ゼリー状の傘の部分をふるふると震わせるが、ぜんぜん進めていない。手足はあるものの、たいした力はないようで、半身を起こすのがやっとのようである。


「人魚たちの文化圏においては、いくつかの人・海産物系の魔族が、奴隷や使役家畜として用いられているようです。人クラゲもその一種でしょう」

「使役って、なんの役に立てるんだ?」

「さあ……? 食用とか?」

「うわぁ……」


 俺はちょっと引いた。見かけ美少女のものを、食用だとか……。

 だがまあ、モンスターは人間を食するわけだし。いちおうモンスターの分類となる魔族の人魚が、人の形をしたものを食べても、おかしくはないわけか。


「おいしい?」


 スケルティアが、指をくわえて、クラゲ娘を見ている。

 あー、うん。

 やっぱり、おかしくはないっぽい。


「ちょ――!? スケさんだめよ? 食べるの、だめだからね?」


 アレイダが言う。


 スケルティアから〝食気〟を感じ取ったのか、クラゲ娘は、さらに怯えた。

 口をぱくぱくさせ、なにか言おうと声をだす。しかし、まったく意味は分からない。クラゲ人語とかいう立派なものでもなくて、単なる動物的な鳴き声なのかもしれない。


「女の子が怯えている顔って、なんか、感じているときの顔と似てるよな」


 クラゲ娘の顔を見つつ、俺は、ぽつりとそう言った。

 この娘。けっこう可愛い。人間の基準でいえば美少女だ。


「ちょ――!? オリオン! まさかとは思うけど!」

「うん。そのまさか」


 俺はみなまで聞かずに肯定した。


「だめ! だめだめ! いくらオリオンがヘンタイでも! それはだめ! なんかほら――あるでしょ!? 倫理的とか! そういうカンジで! ダメ! 絶対!」


 アレイダが騒いでいる。

 なにを言ってる? 食うのはいかんが、食うほうだったらOKだろう?


 俺は服をぬぎぬぎした。

 そして全裸になると、おもむろに、クラゲ娘に狙いを定めて……。


「だーっ!」


    ◇


 クラゲ娘と、ぷろれす、をやった。

 ゼリー状のクラゲ部分が、ぬるぬる、ねとねとで、マット完備のローションプレイみたいで、新感覚だった。


 人間部分は人と変わらず、まったくもって〝ご使用〟には問題がなかった。

 一回ではちょっと済まなくて、二回三回と続けてご使用になってしまった。

 向こうもけっこう良かったっぽい。最後のほうは怯えた顔でなく、感じた顔になっていた。

 終わったあとには、海に放流して返してやった。キャッチ・アンド・リリースの精神である。


    ◇


 クラゲ娘をリリースして、釣り糸を垂れる。

 エサは替えた。クラゲ娘の傘の部分を、ちょこっと貰っておいて、それを次のエサにしてある。


 しばらくしたら、また、あたりがあった。


「なんかまた、変なもんが釣れたな」

「これは人ナマコですね」


 モーリンが言う。

 ふむ。

 ナマコ部分は、ちょっとグロい。

 だがしかし、人間部分は美少女だった。


 よし。この手のものを、『女の子モンスター』と命名しよう。

 命名。『女の子モンスター属族・ナマコ娘科』だ


「だーっ!」


 俺はまたもや、ご使用になった。


    ◇


「これは人シャコ貝」


 絵画の「ビーナスの誕生」みたいに、貝殻に乗った美女が――。


「だーっ!」


    ◇


「これは人タコ」

「だーっ!」


 八本足でだいしゅきホールドされて、吸盤の跡が体中についてしまった。


    ◇


 つぎつぎとキャッチ・アンド・リリースを繰り返していって、エサを新たに取り替え、わらしべ長者的にシーフード・フレンズたちを次々釣り上げていった。


「これだけの人・海産物モンスターがいるということは、人魚の生活圏がこの近くにあるということにもなります」


 モーリンが言う。


 アレイダもスケルティアもミーティアも、バニー師匠も、いまでは釣りに参加している。

 やはり大物が釣れるとなると、楽しいらしい。釣れたものの針外しは、ぜんぶ俺の仕事。そして「だーっ!」も、ぜんぶ俺の仕事である。


 スケルティアは、八本足の先端からそれぞれ自前の糸を垂らしていた。アラクネの本領発揮だ。下半身を蜘蛛化させての本気釣りである。

 蜘蛛はもともとハンターであり、しかも待つタイプの狩猟をする種族であるから、ハンティングと類縁の釣りは、ひどく気に入ったらしい。


 皆が釣りを満喫しているのはよいのだが……。

 しかし、俺的には、どうも本命に近づいていない気がしてきていた。


「なー、エサ、本当にこれでいいのか?」

「どれもシーフードですから、間違ってはいないはずですが」


 モーリンが言う。大賢者の回答にもすこし自信の色が足りていない。


「人魚ってのは、海の王国の支配階級だろ? ていうことは、美味いものは食い飽きてるはずだよな? こんな糸を垂らせばすぐに引っかかるシーフードなんかじゃ、釣れないんじゃないか?」


 モーリンは、しばし思案したあと――。


「マスターのおっしゃる通りかもしれません」


 ――こくりと、首肯してきた。

 大賢者であっても知らないことはある。人魚の釣りかた――なんていうのが、そのうちの一つだ。

 どんな書物にも載っていない知識だろう。


「では、どのようなエサに致しますか?」

「発想を飛躍させてみよう。食い物では釣れないのであれば、食い物以外をエサにすればいいんだ」

「それでは、なにを?」

「うーん……」


 俺は腕組みをして考えこんだ。


 人魚のエサ。人魚の好むエサ。美女の人魚が好むもの……。

 うーん。うーん。うーん。


 ……まてよ?


 人魚といえども、美女であるわけだ。美少女のほうかもしんないけど。

 であるならば、普通の女子が好むものと、おなじなんじゃないか?


「おい、アレイダ」

「なに?」

「おまえに、このあいだ買ってやった髪留めがあるだろ」

「うん。大事にしてる」

「あれ、ちょっと持ってこい」

「いいけど」


 アレイダは、ぱたぱたと自室に走って行った。

 すぐに駆け戻ってくる。


「持ってきたわよ」

「どこだよ?」


 手に持ってないので、そう訊ねたのだが――。髪に付けていやがった。

 俺は立ち上がるとアレイダの前に行くと、その体を抱き寄せた。


「あん……」


 甘えた声を上げて、鼻声を鳴らしてくるアレイダの、その髪に手を伸ばして――。

 髪飾りを、取りあげた。


「……えっ?」


 俺はアレイダから取りあげた髪飾りを、糸の先にくくりつける。


「――えっ! ちょっ!? なに!? なにしてんの!? それわたしの髪飾り! オリオンがくれたやつ!」

「ああ。こんどまた買ってやるからな」

「えーっ! やだあぁ! エサにしちゃだめーっ! やだーっ!」

「うるせえな。犯すぞ」


 ぎゃーぎゃー泣き叫んでいるアレイダの顔面に手をあてて、押しやって――仕掛けを直し終える。

 そして釣り竿を振る。

 髪飾りを付けた釣り糸が、遠くの海面に、ぽちゃんと落ちた。


「俺の灰色の脳細胞が推理するところによれば――、これで釣れるはず――」


 待つことしばし――。

 ぐすんぐすんいってたアレイダが、ようやく泣き終えたくらいの頃に――。


 ぴくん。

 ――あたりが来た。


 だが俺は慌てない。しっかりと待ち、強く確実な引きがあるまで、竿をあげない。


 そして――。


「いまだああぁぁーっ!!」


 俺が一気に引きあげると、海面から、人と魚の体を持つ、美しい生き物があがった。

 人魚の一本釣りに成功した。


 髪飾りは人魚の髪に、しっかりと付いている。

 海中拾った髪飾りを髪につけたところを、俺が引き揚げたわけだ。

 うむ。エサは正しかった。やはり髪飾りで釣れたな。


「はーっはっは! はーっはっはっはーッ!」


 俺は仁王立ちをして、悪役笑いをした。


 甲板に横たわっているのは、美女――というには、ほんのすこしばかり幼い、まさに美少女まっさかりの、美しい人魚の娘だった。

 人魚は例外なく美しいというが、皆、この美しさであるなら、たいした種族だ。


「#@△◇$、∞£*、¢□○×――、$△☆――?」


 人魚が、美しい声を出す。


「なんて言ってる?」


 翻訳魔法は、俺も取ろうと思えば取得できるが、大賢者モーリンが既に持っているので、そちらに任す。


「……人魚の肉を食べても不死にはなれない。それは迷信です。――だそうです」

「いや。肉なんか食わんし」


 モーリンが人魚に伝える。


「……彼女は王家の者だそうです。もし解放してくれるのであれば、莫大な金銀財宝と引き換えにする用意が――」

「いや。金も財宝もいらんし」


 俺が人魚を釣り上げた理由は、ただ一つ。


 まずその前に、人魚の髪から、絡みついていた髪飾りを外した。

 外したそれを、アレイダに放り投げて渡す。


「ぶーっ!!」


 アレイダがむくれている。

 なんで怒ってんだ? あいつ? ちゃんと返したろう?


 さて――。

 甲板でご使用になるのは、あんまりだろう。タコ娘やイカ娘やクラゲ娘と同じ扱いでは、この美しい人魚には失礼だ。

 俺は人魚をお姫様抱っこした。王族だっていってたから、まさしく正真正銘のお姫様抱っこだった。


    ◇


 寝室よりは水のあるところがいいかと考え、バスルームにお連れする。

 大きな湯船に水を張って、そこに入れてやると、お姫様は警戒を解いて喜んだ。


 俺にしては、じっくりたっぷり時間をかけた。

 ふにゃふにゃになって、欲しがってしょうがない目をしてきてから、致した。


 うん。いがった。

 人魚は下半身は魚だが、入口は人間とおなじ場所についていて、交接は充分に可能だった。

 新感覚だった。


 たっぷり愛しあったあとで、ほかのシーフード・フレンズたちと同様に、リリースしてやった。


    ◇


「ねー、まだついてくるわよー?」


 アレイダが呆れた声でそう言った。


 遠くの海面に頭が浮かんでいる。

 もう何日も経っているのに、船を追って、ずっと泳いできている。


 俺が見ると、ちゃぽんと頭が海中に沈む。照れてんのかなんなのか。


 どうも惚れられてしまったっぽい。

 言葉こそ通じなかったものの、行為中にしきりに彼女が囁いていたのが、愛の囁きだということは、俺にもなんとなく伝わっていた。


「なんで無理矢理やられて、あんなになってるの? おかしいわよね? ぜんぜんおかしいわよね?」

「いやー、無理矢理じゃなかったしなー」


 結果論でいえば、和姦だ。

 釣り上げたことに関しては、無理矢理だったが。


「なんでよ!」


 アレイダがなにか怒っている。

 なに怒ってんの? こいつ?


「人魚には優しいのに! わたしにするときは無理矢理なのは、なんでよ!」


 そっちかよ。


「無理矢理じゃないだろ」


 嫌がってないんだから、いきなりではあっても、無理矢理のうちには入らない。

 廊下でスカートめくって壁に押しつけていきなりとか、甲板で縁に捕まらせていきなり後ろからとか、いきなりであっても、アレイダが嫌がってないんだから、それは無理矢理ではない。


「優しくして! 優しくして! 優しくして! 髪留めとりあげたんだから、優しくして!」


 どういう理屈か、まるでワケがわからないのだが――。


「まあ、そのうちな」


 船の後に長く続く航跡のうえを、人魚がちゃぷんと、月に向かって跳ねた。


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