人魚を釣ろう 「シーフード・フレンズよりも、人魚を釣りたいな」
「釣れんなー」
翌日も〝釣り〟に勤しんでいた俺は、ごん太のマグロを、二、三匹釣り上げた時点で、そう言った。
「釣れませんねー」
隣で釣り糸を垂れているエイティも、そう返す。
あっちもマグロなら一、二匹釣り上げているが、肝心の人魚は、ぜんぜん釣れていない。
「でも……、師匠と一緒にいるの……。楽しい……、です」
エイティがそう言って、ぽっと顔を赤らめる。
なにおまえ? 押し倒してほしいの?
「わたしも釣る! 釣ーるーっ!」
アレイダのやつが自分も釣り竿を持って、強引に割りこんで来やがった。
俺とエイティのあいだに、デカいケツをぐいぐいと押しこんできて、ちゃっかりと陣取る。
駄犬が。
やがてアレイダのやつが、なにかを釣り上げた。
あたりがデカいからって、期待などしない。マグロならもう何匹も釣り上げている。冷凍魔法でカチンコチンの冷凍マグロになって、屋敷の食料庫にぶら下がって魚群を作っている。
「……? マグロじゃないな?」
それは大きさでいうとマグロ級ではあるが、明らかにマグロではなく――。
かといって人魚でもないが――。
それは、透明なぐにゃぐにゃのゼリーをまとった――女の子だった。
「これは人クラゲですね」
モーリンがやってきて、そう言う。
女の子――いや、人クラゲは、水からあげられると、自分の体が重たくて動けないのか、甲板の上で寝そべったまま。
必死に逃げようとして、ゼリー状の傘の部分をふるふると震わせるが、ぜんぜん進めていない。手足はあるものの、たいした力はないようで、半身を起こすのがやっとのようである。
「人魚たちの文化圏においては、いくつかの人・海産物系の魔族が、奴隷や使役家畜として用いられているようです。人クラゲもその一種でしょう」
「使役って、なんの役に立てるんだ?」
「さあ……? 食用とか?」
「うわぁ……」
俺はちょっと引いた。見かけ美少女のものを、食用だとか……。
だがまあ、モンスターは人間を食するわけだし。いちおうモンスターの分類となる魔族の人魚が、人の形をしたものを食べても、おかしくはないわけか。
「おいしい?」
スケルティアが、指をくわえて、クラゲ娘を見ている。
あー、うん。
やっぱり、おかしくはないっぽい。
「ちょ――!? スケさんだめよ? 食べるの、だめだからね?」
アレイダが言う。
スケルティアから〝食気〟を感じ取ったのか、クラゲ娘は、さらに怯えた。
口をぱくぱくさせ、なにか言おうと声をだす。しかし、まったく意味は分からない。クラゲ人語とかいう立派なものでもなくて、単なる動物的な鳴き声なのかもしれない。
「女の子が怯えている顔って、なんか、感じているときの顔と似てるよな」
クラゲ娘の顔を見つつ、俺は、ぽつりとそう言った。
この娘。けっこう可愛い。人間の基準でいえば美少女だ。
「ちょ――!? オリオン! まさかとは思うけど!」
「うん。そのまさか」
俺はみなまで聞かずに肯定した。
「だめ! だめだめ! いくらオリオンがヘンタイでも! それはだめ! なんかほら――あるでしょ!? 倫理的とか! そういうカンジで! ダメ! 絶対!」
アレイダが騒いでいる。
なにを言ってる? 食うのはいかんが、食うほうだったらOKだろう?
俺は服をぬぎぬぎした。
そして全裸になると、おもむろに、クラゲ娘に狙いを定めて……。
「だーっ!」
◇
クラゲ娘と、ぷろれす、をやった。
ゼリー状のクラゲ部分が、ぬるぬる、ねとねとで、マット完備のローションプレイみたいで、新感覚だった。
人間部分は人と変わらず、まったくもって〝ご使用〟には問題がなかった。
一回ではちょっと済まなくて、二回三回と続けてご使用になってしまった。
向こうもけっこう良かったっぽい。最後のほうは怯えた顔でなく、感じた顔になっていた。
終わったあとには、海に放流して返してやった。キャッチ・アンド・リリースの精神である。
◇
クラゲ娘をリリースして、釣り糸を垂れる。
エサは替えた。クラゲ娘の傘の部分を、ちょこっと貰っておいて、それを次のエサにしてある。
しばらくしたら、また、あたりがあった。
「なんかまた、変なもんが釣れたな」
「これは人ナマコですね」
モーリンが言う。
ふむ。
ナマコ部分は、ちょっとグロい。
だがしかし、人間部分は美少女だった。
よし。この手のものを、『女の子モンスター』と命名しよう。
命名。『女の子モンスター属族・ナマコ娘科』だ
「だーっ!」
俺はまたもや、ご使用になった。
◇
「これは人シャコ貝」
絵画の「ビーナスの誕生」みたいに、貝殻に乗った美女が――。
「だーっ!」
◇
「これは人タコ」
「だーっ!」
八本足でだいしゅきホールドされて、吸盤の跡が体中についてしまった。
◇
つぎつぎとキャッチ・アンド・リリースを繰り返していって、エサを新たに取り替え、わらしべ長者的にシーフード・フレンズたちを次々釣り上げていった。
「これだけの人・海産物モンスターがいるということは、人魚の生活圏がこの近くにあるということにもなります」
モーリンが言う。
アレイダもスケルティアもミーティアも、バニー師匠も、いまでは釣りに参加している。
やはり大物が釣れるとなると、楽しいらしい。釣れたものの針外しは、ぜんぶ俺の仕事。そして「だーっ!」も、ぜんぶ俺の仕事である。
スケルティアは、八本足の先端からそれぞれ自前の糸を垂らしていた。アラクネの本領発揮だ。下半身を蜘蛛化させての本気釣りである。
蜘蛛はもともとハンターであり、しかも待つタイプの狩猟をする種族であるから、ハンティングと類縁の釣りは、ひどく気に入ったらしい。
皆が釣りを満喫しているのはよいのだが……。
しかし、俺的には、どうも本命に近づいていない気がしてきていた。
「なー、エサ、本当にこれでいいのか?」
「どれもシーフードですから、間違ってはいないはずですが」
モーリンが言う。大賢者の回答にもすこし自信の色が足りていない。
「人魚ってのは、海の王国の支配階級だろ? ていうことは、美味いものは食い飽きてるはずだよな? こんな糸を垂らせばすぐに引っかかるシーフードなんかじゃ、釣れないんじゃないか?」
モーリンは、しばし思案したあと――。
「マスターのおっしゃる通りかもしれません」
――こくりと、首肯してきた。
大賢者であっても知らないことはある。人魚の釣りかた――なんていうのが、そのうちの一つだ。
どんな書物にも載っていない知識だろう。
「では、どのようなエサに致しますか?」
「発想を飛躍させてみよう。食い物では釣れないのであれば、食い物以外をエサにすればいいんだ」
「それでは、なにを?」
「うーん……」
俺は腕組みをして考えこんだ。
人魚のエサ。人魚の好むエサ。美女の人魚が好むもの……。
うーん。うーん。うーん。
……まてよ?
人魚といえども、美女であるわけだ。美少女のほうかもしんないけど。
であるならば、普通の女子が好むものと、おなじなんじゃないか?
「おい、アレイダ」
「なに?」
「おまえに、このあいだ買ってやった髪留めがあるだろ」
「うん。大事にしてる」
「あれ、ちょっと持ってこい」
「いいけど」
アレイダは、ぱたぱたと自室に走って行った。
すぐに駆け戻ってくる。
「持ってきたわよ」
「どこだよ?」
手に持ってないので、そう訊ねたのだが――。髪に付けていやがった。
俺は立ち上がるとアレイダの前に行くと、その体を抱き寄せた。
「あん……」
甘えた声を上げて、鼻声を鳴らしてくるアレイダの、その髪に手を伸ばして――。
髪飾りを、取りあげた。
「……えっ?」
俺はアレイダから取りあげた髪飾りを、糸の先にくくりつける。
「――えっ! ちょっ!? なに!? なにしてんの!? それわたしの髪飾り! オリオンがくれたやつ!」
「ああ。こんどまた買ってやるからな」
「えーっ! やだあぁ! エサにしちゃだめーっ! やだーっ!」
「うるせえな。犯すぞ」
ぎゃーぎゃー泣き叫んでいるアレイダの顔面に手をあてて、押しやって――仕掛けを直し終える。
そして釣り竿を振る。
髪飾りを付けた釣り糸が、遠くの海面に、ぽちゃんと落ちた。
「俺の灰色の脳細胞が推理するところによれば――、これで釣れるはず――」
待つことしばし――。
ぐすんぐすんいってたアレイダが、ようやく泣き終えたくらいの頃に――。
ぴくん。
――あたりが来た。
だが俺は慌てない。しっかりと待ち、強く確実な引きがあるまで、竿をあげない。
そして――。
「いまだああぁぁーっ!!」
俺が一気に引きあげると、海面から、人と魚の体を持つ、美しい生き物があがった。
人魚の一本釣りに成功した。
髪飾りは人魚の髪に、しっかりと付いている。
海中拾った髪飾りを髪につけたところを、俺が引き揚げたわけだ。
うむ。エサは正しかった。やはり髪飾りで釣れたな。
「はーっはっは! はーっはっはっはーッ!」
俺は仁王立ちをして、悪役笑いをした。
甲板に横たわっているのは、美女――というには、ほんのすこしばかり幼い、まさに美少女まっさかりの、美しい人魚の娘だった。
人魚は例外なく美しいというが、皆、この美しさであるなら、たいした種族だ。
「#@△◇$、∞£*、¢□○×――、$△☆――?」
人魚が、美しい声を出す。
「なんて言ってる?」
翻訳魔法は、俺も取ろうと思えば取得できるが、大賢者モーリンが既に持っているので、そちらに任す。
「……人魚の肉を食べても不死にはなれない。それは迷信です。――だそうです」
「いや。肉なんか食わんし」
モーリンが人魚に伝える。
「……彼女は王家の者だそうです。もし解放してくれるのであれば、莫大な金銀財宝と引き換えにする用意が――」
「いや。金も財宝もいらんし」
俺が人魚を釣り上げた理由は、ただ一つ。
まずその前に、人魚の髪から、絡みついていた髪飾りを外した。
外したそれを、アレイダに放り投げて渡す。
「ぶーっ!!」
アレイダがむくれている。
なんで怒ってんだ? あいつ? ちゃんと返したろう?
さて――。
甲板でご使用になるのは、あんまりだろう。タコ娘やイカ娘やクラゲ娘と同じ扱いでは、この美しい人魚には失礼だ。
俺は人魚をお姫様抱っこした。王族だっていってたから、まさしく正真正銘のお姫様抱っこだった。
◇
寝室よりは水のあるところがいいかと考え、バスルームにお連れする。
大きな湯船に水を張って、そこに入れてやると、お姫様は警戒を解いて喜んだ。
俺にしては、じっくりたっぷり時間をかけた。
ふにゃふにゃになって、欲しがってしょうがない目をしてきてから、致した。
うん。いがった。
人魚は下半身は魚だが、入口は人間とおなじ場所についていて、交接は充分に可能だった。
新感覚だった。
たっぷり愛しあったあとで、ほかのシーフード・フレンズたちと同様に、リリースしてやった。
◇
「ねー、まだついてくるわよー?」
アレイダが呆れた声でそう言った。
遠くの海面に頭が浮かんでいる。
もう何日も経っているのに、船を追って、ずっと泳いできている。
俺が見ると、ちゃぽんと頭が海中に沈む。照れてんのかなんなのか。
どうも惚れられてしまったっぽい。
言葉こそ通じなかったものの、行為中にしきりに彼女が囁いていたのが、愛の囁きだということは、俺にもなんとなく伝わっていた。
「なんで無理矢理やられて、あんなになってるの? おかしいわよね? ぜんぜんおかしいわよね?」
「いやー、無理矢理じゃなかったしなー」
結果論でいえば、和姦だ。
釣り上げたことに関しては、無理矢理だったが。
「なんでよ!」
アレイダがなにか怒っている。
なに怒ってんの? こいつ?
「人魚には優しいのに! わたしにするときは無理矢理なのは、なんでよ!」
そっちかよ。
「無理矢理じゃないだろ」
嫌がってないんだから、いきなりではあっても、無理矢理のうちには入らない。
廊下でスカートめくって壁に押しつけていきなりとか、甲板で縁に捕まらせていきなり後ろからとか、いきなりであっても、アレイダが嫌がってないんだから、それは無理矢理ではない。
「優しくして! 優しくして! 優しくして! 髪留めとりあげたんだから、優しくして!」
どういう理屈か、まるでワケがわからないのだが――。
「まあ、そのうちな」
船の後に長く続く航跡のうえを、人魚がちゃぷんと、月に向かって跳ねた。