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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
12.バニーさんといっしょ
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人魚 「このあたりの海域は人魚の支配海域です」

投稿先間違えて、Cマートのほうに投稿しちゃってました。

ステマじゃないよ! ポカミスだよ!

 どこまでも続く青い空。そして「青」というよりは「蒼」というべき大海原。


 コモーリンが舵輪を握っている。

 ロボットのように身じろぎもしないその身を、膝の上に乗せて、俺はローティーンの少女のお尻の丸みを愉しんでいた。


 いいや。愉しんではいない。

 これはただ単に、一人寂しく舵輪を握るコモーリンを、不憫だなあと思って、構いにきてやっているだけなのだ。

 その際、子供のコモーリンを膝の上に乗せてやるのは、子供の取り扱いとしては、ごく普通のことだろう。

 特別におかしいことはないはずだ。


 俺はノータッチをポリシーとしているわけではあるものの……。まあしかし、このくらいは構わないところだろう。

 ……しかし、微妙に柔っこいな。少女のお尻は。


「もうすこしであると、ほくそ笑んでいます」


 コモーリンが前を見つめたままで、そう言った。


「なにが?」


 俺は静かに問い返した。


「ぶっちゃけますと、誘惑です」

「どこが?」


 俺は平静極まりない声で、そう問い返した。


「下関係に対して、大変に緩く、節制という概念と縁遠いマスターが、いつ、うっかり手を出してしまうのか、大変な期待を持って待ち構えております」

「ふ、ふふふ……。俺がそんな男だと思っていたのか。心外だな」

「はい。マスターのことなら、なんでも存じ上げておりますので」


 だから、微妙にやっこい少女の尻を、ぐいぐい押しつけてくるの、やめれっつーの。


「ふ、ふふふ……。まだまだぜんぜんだな。そうだな。あと三年は……、いや二年……、せ、せめて一年は……」

「そこまで負かるのでしたら、もういっそ、いますぐ手を出してしまわれてはどうでしょう」


 他人事みたいに、コモーリンは言う。

 向こうのモーリンとこっちのコモーリンとで、なんか性格が微妙に違っている気もするのだが、たぶん、気のせいというものだろう。


 モーリンの小っこくて柔っこい尻を膝に収めて愉しみつつ、俺が操舵手席に座っていると――。


「おや?」


 ログが流れた。


 ――もとい。

 〝ログ〟というのは、俺が勝手にそう呼んでいるだけのことで、いまなにか、レジストに成功したような感覚があった。


 誰かが俺に対して、スキルか魔法かを用いて、それに対して、俺が自動的に抵抗したということだ。

 自動的、受動的に、ほぼ識閾下で片付いた物事の記憶に対して、俺は「ログ」という、前世で馴染みのある概念を割り当てていた。


「ええと……、なんか精神魔法? スキル? ……あたりに、抵抗したようだな」


 俺はそう言った。おかっぱに切り揃えた少女の髪の、うなじと耳たぶに、それぞれ息を吹きかける。


「ああ。ええ。はい。このあたりには……、あれが……、いますので」


 くすぐったそうに身じろぎをして、コモーリンは言う。


 うん。これは単なるスキンシップ。

 べつにぜんぜん怪しくもないし、アブナクもないヨ?


 しかし……。

 耳たぶ真っ赤にしちゃって。

 うん。かーいー。かーいー。


「なにが、いるって?」


 俺は髪の毛に指を差し入れ、柔らかな髪の下の頭皮に触れた。

 地肌マッサージ。地肌マッサージ。べつに性感帯でもなんでもないところを触っているのだから、これはいいよな。


「ふわっ……」

「ふわ?」

「い、いえ……」


 コモーリンは顔を赤くさせて、口許を引き締めたあと、言い直した。


「に……、人魚、です」

「ほほう」


 俺は目を見開いた。


 人魚か。やはりいるのか。


 前々世では見たこともなかったし、聞いたこともなかったが、それは俺がブラックすぎる勇者人生を送っていたからで――。

 やはり、いたのか。


 ここはファンタジー世界。

 いてもおかしくないというより、いないと、おかしい。


「このあたりの人魚は、人間が近づくと、魔法のこもった歌を歌うことで、人を遠ざけているようです。特定水域を忌避する以外に、特に害のあるものではありませんが、マスターがレジストした感触は、精神魔法に近い作用を持つ、人魚のスキルだったと思われます」


 コモーリンが異様に長文しゃべりになっているのは、俺が性感帯でもないはずの頭を撫で回しているからだ。


「俺がいまなにを気にしているか、わかるか?」


 俺は膝の上に収まった最愛の女――その幼生体に聞いてみた。


「はい。――人魚という種族は、下半身と下半身とで、魚と人の姿を持つ海棲生物です。分類上は魔獣に属していますが、凶暴性は低く、ある程度の文化水準を持つ独自の生態を取っております。海底都市を作り、閉鎖的な社会を営んでいるため、その生態、文化について、詳しくは知られておりません。――『失われた海底大陸を求めて』アラクシャ・フォン・D・ローエングラム著」


 おう。原典まで出てきた。


「んで? 俺の気にしていることについては?」

「人魚の女性は、例外なく美女です。男性は上半身が魚で、下半身が人魚ですが」

「それ、人魚じゃないじゃん。魚人じゃん。半魚人とかいうだろ。それ」

「ええ。ですから、世間一般的には、女性のみを人魚と呼んでいます。人魚は女性ばかりという誤った認識は、ここから来ているわけですけど」

「ほうほう」


 ま。人魚の雌だか女性だかが、美女であることを確認したら、あとの情報は、べつにどーでもいい。男あるいは雄のほうが、ブサイクでもモンスターでも、どうだってかまわない。用はない。


「よし! じゃあ――やるか!」


 俺は声を張りあげた。

 ――が。


 コモーリンは、いまひとつ、俺の意図がわからなかったようで――。


「……なにをでしょう?」


 小首を傾げつつ、そう聞いてきた。


 俺は船の前進を止めた。碇を下ろすスイッチを押した。

 そしてコモーリンに振り返った。


「釣りだ!」


    ◇


「これって、エサって、なに付ければいいんだ?」

「人魚の主食は、主にシーフードですね」


 釣り竿の準備をしつつ、モーリンに聞くと、すぐに答えが返ってきた。


「肉食か。魚とかタコとかイカとかか。このあいだ釣ったイカが冷蔵庫にあったろ。――スケ。あれ持ってきてくれ。途中で囓っちゃだめだぞ」

「ん。わかた。」


 スケルティアが、とてててーっと、懸命に走って消えてゆく。


 船に積んだ馬車の幌のなかの、亜空間にある屋敷のなか、さらに厨房にある〝冷蔵庫〟に行った。ハイレベルの錬金術士でもあるモーリンの、最近の発明品である、雷の魔力で動くヒートポンプ式〝冷蔵庫〟は――食材の保存に、たいへん役に立っている。


「ねえ? なにやるの? ――狩り? 狩りっ?」

「ちげーよ。狩りじゃねーよ。釣りだよ。――知らんのか? 釣り?」


 甲板の上で準備をしていると、駄犬が寄ってきた。

 しっしっ、と、手で追い払う。


「しらないわよ。そんな魚がいるような大きな川なんて、なかったもの」

「おま。ほんとにド田舎育ちだな」

「田舎ゆったーっ!!」

「言ってねえよ。ド田舎って言ったんだ。〝ド〟だ。〝ド〟」

「またゆったーっ!!」


 ほんと。うるさい。


「カークツルス族を侮辱した? ねえ侮辱した? 族長として決闘に応じる用意があるわよ?」

「おまえ。いつ族長になったんだよ?」

「わたし一人しか残ってないんだから。わたしが族長になるでしょ」

「おまえ。たくましくなったよな」

「ね? 褒めてる? それ褒めてる? ――もっと褒めて!」


 イカの切れっ端を投げてやる。

 ワンコにご褒美だ。


 俺は釣り竿に糸を結び、糸の先には針をつけ、スケルティアが持ってきてくれたイカをくくりつけた。


「よし! できた!」


「そんな大きな針と竿で、いったい、どんな大きさの魚を釣るのよ?」


 アレイダが釣り竿を見て言う。

 たしかにでっかい。釣り針は手のひらぐらいある。なにしろエサがイカ丸ごと一匹だ。


「んー、そうだなー、人間ぐらい?」

「まさか。そんな大きな魚なんて、いるわけが――」


 アレイダがなんか言ってるが、俺は構わず、竿を振って、仕掛けを海に投げこんだ。


「落ち。ちゃった。よ?」


 スケルティアが、船の縁から身を乗り出して、針とエサの沈んだ水面を見ている。


 うん。こいつは釣りがなんだか、わかっていないな。

 話を聞いていたのに、ついてこれていないな。

 うん。かーいー。かーいー。


「師匠。ボクも一緒に釣りをしていいでしょうか?」

「おう。いいぞ。竿も仕掛けも、まだあるだろ。やれやれ」


 俺がそう言ってやると――。


 エイティのやつは、立ち尽くしたまま、目を見開いて、驚いたように――。

 そして、その表情のまま、だくだくと涙を流していた。


 ……なぜ泣く?


「い、いえ……、てっきり、おまえは甲板掃除でもしていろ、と、申し渡されるものとばかり……」

「俺はそんなことは言わないぞ?」

「言ってた! やってた!! ――オリオン! あなたハチ――じゃなくて、エイティのこと、ケツ蹴っ飛ばしたりして、甲板掃除させてたじゃないの! トイレを舐めて綺麗にしろとか酷いこと言うし!」

「そんなこと言ったっけ?」

「言ったでしょ!」

「やりましたあぁ……」


 美少女が泣いている。誰だ。泣かしたやつは?


「覚えてねえし。どうでもいいし。あいつは死んだ。……ここにいるのは、美少女でドジっ子のエイティだろう?」

「ったく! もう! 女の子には、優しいんだから!」

「ちがう。ヤレる相手に優しいだけだ」

「ばか! もう! ばかっ! えっち! ヘンタイ! 下半身生物!」

「はっはっは。そんなに褒めるな」

「褒めてない!」


「隣……、失礼します」


 長いストレートヘアの美少女が――、エイティが、俺の隣にしずしずと腰を下ろしてくる。お尻が俺の腰とくっつきあう。


 押し倒――すのは、やめにして、二人で並んで釣り糸を垂れる。


 やがてエイティの釣り竿に、がくんと、大きな引きがあった。


「きたぞ!」

「わっ! わっ、わわっ! こ、これ! 引いてます引いてます引いてます! あううううーっ!! わっ! なんでこんな強く! こ――これどうしたらいいんですかあぁぁ!?」


「落ちつけ」


 俺はエイティの手に、自分の手を重ねて――。


 ――わ。指細っ! 手。柔っこ!


 二人で一緒に、引きあげた。



 釣り上げられた物体は、甲板の上で、びちびちと跳ねていた。

 すごい。でかい。人間ぐらいある。



「これが人魚?」


 びったんびったん跳ね回るそれが、足許に近づいてくると距離を取って、アレイダが言う。


「いやー、それは……」

「今夜の夕食は、マグロづくしです。盛り合わせを作りましょう」


 モーリンが言う。今夜の夕飯が決定した。


 人魚のかわりに、マグロが釣れてしまった。

 夕飯はうまかった。

長くなったので、分割します。つづきは夜あたりに投稿予約しかけておきます。

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