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ガワが問題 「中身なんて関係ないねガワが問題だね」

 朝。


 俺は夢見心地のまま、ベッドの中を手で探り、そこにあるはずのものを確かめた。


 うん。

 あるある。

 いるいる。


 つい最近、手に入れたばかりのものだった。ここ最近の俺のお気に入りである。

 昨夜もご使用になった。その前の日も、そのまた前の日も、ご使用になってしまった。


 ふむ。

 朝飯の前に、もう一回ぐらい、ご使用になっておくか。――と思って、手を伸ばす。

 ううん、と、眠たげな声が聞こえてくる。


「オリオン、もうとっくに朝ごはんが出来て――」


 がちゃりとドアが開いて、うちの駄犬が顔を出す。

 言いかけた言葉を止めた駄犬に、俺は聞いてみる。


「なんだ? ――混ざりたいのか?」

「呆れてんの」

「なぜ呆れる?」

「なぜ……って」


「はぅん、師匠……、だめです、だめ……、アレイダさんが見ていますうぅぅ」


 俺の手の中でエイティが悶える。俺の手が、あちこちを触っているからだが。


「あのね。オリオン。わかってると思うけど……」


 アレイダが言う。

 心底呆れた、という声色で言ってくる。


「その子……、男だったのよ?」

「いいや。わかっていないのは、おまえだ」


 俺は重々しく、そう言った。


「え? わたし? ちょっ――なんで? なにいってんの?」

「昔がどうだったかなんて、些細なことだ。――じゃあなにか? 仮に、若返ってピチピチの中身バァさんがいたとしたなら、おまえはその美少女を、婆さんとして扱うのか?」

「え? いやお婆さんは、いま関係ないでしょ? 中身が男か女かっていう話なわけで――」

「中身なんて関係ないね! ガワが問題だね! それがすべてだね!」


 なにを言っちょるのだ。この駄犬は。

 まったくわかっとらん。


「え? いやまあ……、オリオンがいいっていうなら……、まあその……、いいんだけど」

「――で? なにおまえ? そこで見学してんの? それとも混ざるの?」

「ば、ばかっ――! は、はやく済ませて下りてきなさいよねっ!!」


 アレイダは部屋を出ていった。

 早く済ませろと仰せだから、俺は、早く済ませるために、手早く侵入した。


「ああっ!! 師匠~っ!! いきなりはぁ~、だ、だめですうぅ~!」


 エイティの叫びが響いたが、すぐに甘い声にとってかわった。


    ◇


 エイティを伴って一階のリビングに下りてゆく。

 朝食の用意はすでに整い、俺たち二人を待っている状態だ。


 うちでは俺があるじであるから、俺抜きで食事がはじまることはない。


 俺は堂々とした態度で席についた。遅れたことと、待たせたことに対する言葉は、特にない。

 うちでは誰も文句を言わない。


「マスター。本日のスープは、赤インゲン豆のミネストローネです」


 けっこう待たせていたのに、温かいスープが出てきた。モーリンの仕事はいつも完璧だ。


「オリオンが遅いから、おなかすいちゃったわよ」


 訂正。

 うちでは、この駄犬しか文句を言わない。


「こいつの具合が、良すぎたもんでな」


 隣に座るエイティの尻を撫でた。

 ひゃん、と、可愛らしい鳴き声をあげる。

 男のときには、その媚びたような仕草が女くさくて、キモチわるいとか思っていたが……。

 女になったら、うん、可愛い、可愛い。


「変態」


 エイティを愛でていると、アレイダのやつが、ぼそっと、聞こえるように、そう言った。


「おま。さっきから絡むな」

「絡んでないわよ。変だっていってんの」

「どこが変なんだよ」

「優しすぎるでしょ」

「俺は女には優しいが」

「嘘だし。ヤラせない女にはぜんぜん優しくもなんともないし。だいたいその子、ちょっと前まで男だったでしょうが」

「いまは女だろ」

「だから前まで男の子っていうか、いまだって中身は男の子なわけでしょ。ねえ、エイティ? あなた、心の中まで女の子になったわけではないんでしょう?」


 アレイダがエイティに聞く。

 俺の隣で、エイティは椅子にしっかりと座り直して、背筋を伸ばしてから答えを返した。


「えっ……と。はい。ボクはあの……、そうです」

「オリオンに抱か……エッチなことされて、嫌でしょう?」

「い、嫌じゃ……ないです」

「……えっ?」


 アレイダが絶句する。


 うん。知ってた。

 こいつ、「弟子にしてくださあぁぁい」って言ってきているときから、なんとなく、そんな気が、あった。

 だから遠ざけていたわけだ。足蹴にしていたわけだ。男に好かれたって、嬉しくもなんともない。


 だが美少女となれば別だ。

 こいつはほんとに、男にしておくには惜しいほどの美形で――。


 俺は手を伸ばして、エイティの喉を撫でた。


「ごろにゃん」

「――~~!? ごろにゃん、とかゆったー!!」


 駄犬がなにやら叫んでいる。さっきからなにがしたいんだ、こいつは。


「だからもう!! ねえわかってるの? 中身、男の子なのよ? オトコノコ!!」

「おまえの言ってることのほうが変だ」


 俺はきっぱりと、そう言った。


「じゃあなにか? もし仮に中身なかみ一億歳の外見そとみ一二歳がいたとしたら、ばっこんばっこん、ヤッちゃっていいのか? あァ? どうなんだ?」

「いちおく……って、なんでそんなに極端になるのよ?」

「年齢についてはどうだっていいだろ。じゃあ十万とか百万とかで」


 ちら、とモーリンに目線を向ける。涼しい顔をしている。

 あれ? 一億でもまだ足りなかった?


「あ、あと……、だ、だめでしょ……、一二歳の女の子とか……、そ、そんなの……、いけないわよ、ムリよ」

「だよなー」


 深々とうなずきあう。


「辺境では嫁入りする歳のはずですが」


 異を挟んできたのは、コモーリンである。メイド服の胸元をつまんで、ぽふっと放す。

 無表情ながらに、やや不満げだ。


「いいえ、さすがに一五くらいからよ?」

「そうなのですか」


 辺境の一部族の小娘の意見に、大賢者が首肯する。


「スケ、は……。一五」


 スケルティア、ぎりセーフ。

 コモーリン、アウト。

 俺の中では、そんなふうな区分けである。


「おいアレイダ。つまりおまえも同意というわけだな。やっぱり外見そとみがすべてだろう?」

「えっ? あれっ? えと……、そうなるのかな?」


 アレイダはしきりに首を傾げている。

 こいつ。頭わるいからな。煙に巻いてやった。


「おまえ。さっきからぎゃんぎゃん言ってるけど。ようするに、自分の番が減るのが嫌だっつー話だろ」

「ち、ちが――! ちがうからっ!!」


 ここ三日ほど、ずっとエイティばかりを抱いている。

 アレイダあたりは、勝手に順番を決めて、「今日はわたしのばん♡」だとか、カレンダーに印をつけているようだが、そんなのは俺の知ったこっちゃない。

 俺は、好きなときに好きなように、好きな相手を抱く。

 ミーティアのときにもそうだったが、初物から教えこんで、あれの良さがじっくりわかるようになるまで、三晩くらいはかかろうというものだ。


「ま。今夜あたりからは、ほかでもいいかな」

「じゃ――!? じゃあ! わ、わたし――!」


 アレイダがまっさきに叫んだ。

 おまえ。さっき。ちがうとか言ってなかったっけ?


「スケ。も。」


 スケルティアも名乗りをあげる。自分から主張するとか、めずらしい。

 ずっとエイティばかり構っていたから、嫉妬したか?

 うん。かーいー。かーいー。


「スケさんの順番! まだあとだったでしょ!」


 だからその順番とかいうのは、おまえが勝手に決めたことだが?


「あそびにんも、今夜はあそびたい気分なんですけどー?」


 テーブルの料理の向こうで、バニー師匠が、にっこりと笑う。


「ああ。じゃあ今夜は皆でするか」

「えっ? えっ? えっえっえっ? み……、みんなって……?」


 エイティのやつがキョドキョドしている。


「モーリンだろ、アレイダだろ、スケだろ、ミーティアだろ、バニー師匠だろ、あとクザクだろ」


 俺は指折り数えてそう言った。

 最後にもうひとつ付け加える。


「そして、コモーリンは見学な」

「ちょっとおぉ! 小さな子になに見せようとしてるのよ!」

「見学者がいると燃えるだろ」

「燃えない!」

「じゃ、おまえが見学で」

「――~~!!」


 アレイダは絶句している。

 あっはっは。こいつ。おもろいなぁ。


 今夜のことを考えつつ、俺はとりあえず朝食を食べた。


 のんびりまったりとした、船旅の最中の自由人生を、俺は愉しんでいた。

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